釣りバカにささげる歌

5-1

 床に敷いた布団で眠ってる栞は、リトライにINしている。

 オレンジ色の薄明かりの中で規則正しい寝息をたてる女の子――

 それを、龍好はベッドの上から見おろしていた。

 気持ち良さそうに寝ている栞は、きっと自分と共にリトライで過ごすことを楽しみに待っていてくれるのだろう。


『ほな、向こうでなぁ~』


 ほんの少し前、そう言ってにっこりしていた栞の顔が浮かぶ。


「ああ、そうだな」


 エッグに指示をして、リトライにINするためのプログラムを起動。

 後は、掛け声一つでIN出来る。

 みらいにより、ある程度の基礎知識は植え込まれたし。

 初期の行動においても、効率良く合流できるように大まかなプランニングもされている。

 銀時計を名乗るべきか否か。

 ソレに対する強迫観念にも似た悩み。

 それは実名登録が基本といったリトライのルールの前にあっさりとひざまずいていた。

 そして、自身の不安が払拭されたところに釣り大会のお知らせがあったのを思い出す。

 気が付いてはいたが、自分には関係ないものとして頭の片隅に追いやっていた。


 しかし!

 それは、例えゲームの中とはいえ全国大会!


 いやおうなしに湧き上がる、わくわくと、どきどき。

 ホントにこんな興奮した状態で眠れるのだろうか?

 そんな杞憂はあっさりと、


「リトライ、IN……すや~」


 眠気に押し流されていった。

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