4-14
みらいは、チームリーダーとしてやることがあるからと言って単独行動を申し出た。
刹風は、これ幸いとアルバイトに向かい。
栞は、みらいにアドバイスした後――
昨日の今日だからと言って、刹風の見守りに行った。
みらいがおもむく場所は、指定された教会。
先ほどまでいた、残念な教会ではなく、きちんと結婚式とかにも使われる可愛い教会だ。
湖畔にあり、全面ガラス張りの建物。
そこが、音姫に指定された場所だった。
出迎えてくれたのは、ぶっちょうずらしたおっさん。
半透明な画面越しに名前を確認すると、銀龍。
銀髪で、赤黒く鋭い目をしているが、開いている画面はピンク系で統一されハートマークが泳いでいた。
「はじめまして。私は、真剣狩る☆しおん♪のリーダーみらいです」
「こちらこそ、はじめまして。ところで龍好殿の頬は相変わらずすべすべなのか?」
「はぁ。 どうなんでしょうか?」
普通に考えたら、『元気でやってるか?』であろうに……
「うむ、そうか。わからぬか……」
「はぁ……」
「では、今は、どうしているのだ?」
質問の意味と方向性が見えない。
「申し訳ございませんが、質問の意図が見えないのですが……」
「いやな、みらりん殿は毎日龍好殿の寝所に潜り込んではホホをすりあわせておると聞いておったのだが。先ほどの返答からでは、分かりかねる。そこで今はどのようにして甘えておるのか気になってな」
「ななな!」
真っ赤な顔して、うろたえる、みらいに対して銀盤の音姫が言う。
「梨は、二十世紀しかないよ~♪」
「あ、あなたは、なんてこと言い出すんですか!?」
「安心しろ。ただの冗談だ」
居た、そこらかしこに栞みたいなのが居る空気が漂っていた。
建物の中に入ると、外観から想像した通りファンシーで可愛らしい作りになっていた。
そして気になったのは、集まったメンバーの服装である。
「今日は、これから結婚式でもあるんでしょうか?」
「ああ、俺とお前の結婚式だ!」
まるで、それが当然だとばかりに銀十字騎士団のリーダー。
白銀の騎士が断言していた。
銀色の短髪に、黒い瞳。
その、ニヤリと笑う顔に向かって。
みらいは、きっぱりと言う!
「全力でお断りします!」
「なんだ、聞いてたより、いい切り返しできんじゃねーか。友好関係は結婚と同じ。家族同然になる事だからこそ教会で執り行うって事にしてるんだよ」
「そ、そうだったのですね……」
栞のおかげで、だいぶ慣れたとはいえ、この手のノリには、いまいち付いて行けないみらいだった。
それでも、まずは礼を言うべきだろうと思って頭をさげる。
「龍好の居場所守ろうとしてくれてありがとうございます」
それなのに、意外な方向から文句が飛び出してくる。
月の銀水晶だった。
「ちょっと! 私達きちんとウェディングドレス着て前振りしてたよね! なんでウェディングドレス着て来ないのよ!?」
「あ、え~と、それは……」
男性は、白いタキシード。
女性陣は、ウェディングドレス。
明らかに自分一人だけ浮いていた。
「うむ! みらりん殿とやら。その心いき天晴れであるぞ」
「えーなんでー、つまんないー」
「姫殿よ、主しらと違いみらりん殿は、ウェディングドレス姿を見せる相手は龍好殿が最初と決めた上での覚悟と受け取った」
「うむ、そういう理由ならしかたねー。今回は特別に許す事にしよう。そのかわり、俺達の流儀に反する以上、きちんとウェディングドレス着て龍好の隣に立って見せてくれよな!」
みんなにやにやしていた。
みらいは、痛感した。
彼らは、決して犯罪集団なんかじゃない!
漫才集団だと……
「では、改めて。俺は、銀十字騎士団艦長。替え芯の騎士だ!」
みらいが用意していた常識的な挨拶が泡となって弾けて消えた。
「もしかして! ネタで返せってことですか!?」
「ああそうだ。俺達銀十字騎士団は、友好を交わす際。大将どうしが名前ネタをかわし合う事にしている。もちろん、身内にしか分からん今みたいなもんでも構わない。どーせその内分かるようになってくるからな!」
それは、本当に仲良くやって行くと言う事なのだろう。
ネタは、すぐに思いついた。
雰囲気と状況。
それに会話の流れから、ソレを言え!
と言っている気すらした。
確かに恥ずかしいし、バカげている。
でも、自分の進むべき道が命賭けの戦いになる事は心底理解した。
死に行く覚悟をした者が恥じや体面を気にしている場合ではない。
今後、是が非でも彼らの力を借りなければならない日が来る。
だったら少しでも相手に好感を持って受け入れられるに越した事はない!
閉じた瞳をくわっと、大きく見開き相手を見据え声高らかに宣言する!
「私は、真剣狩る☆しおん♪元帥! 未来の龍好の嫁よ!」
白銀の騎士は放心していた。
みらいがソレを言う可能性を知っていたからである。
「ふっ……俺は、まだまだ四流以下の芸人ってことか……」
自嘲気味に団長が言葉を溢す。
まだまだライバルには、追いつかないどころか。
差を広げられたと感じていたのだ。
だが、まだまだ終わったわけではない!
今後の展開次第で好機はあるはず!
そう信じて、自分を奮い立たせる団長。
その一方で――
みらいとしては、この上なく会心のネタを提供したつもりだったのに、予想に反して相手の受けが悪い。
「あの~、ダメだったのでしょうか?」
真っ赤な顔が、やや青ざめていた。
痛恨のミステイクをしてしまったのであろうか?
「いや、じゅうぶん過ぎるくらい上出来だった! スマンな変な勘違いさせちまって」
白銀の騎士は、少し遅れて満面の笑みを浮かべる。
「では……」
「ああ、たった今をもって。俺達、銀十字騎士団と真剣狩る☆しおん♪は友好協定を結んだ。何かあれば。俺達は、いつでも盾となり剣となる事をここに誓おう」
「ありがとうございます!」
みらいは、深々と頭を下げた。
「誰がなんと言おうが、事実無根。俺達、銀十字騎士団は、ガーディアン。そこに倒すべきモノがあるなら倒すまで、ただそれだけだ!」
確固たる真っ直ぐな思いほど強く人々の心に訴える。
そして、その揺るぎない芯があるからこそ彼らは再びここリトライに集ったのだと感じた。
『カエシンはんわなぁ、結構厳しいお方なんよ~。でもな! 直感を信じて感じたままに思いを伝えるんがええ! 変に頭使うとかえって嫌われるえ! 今日まで頑張ってきた実力全部込めれば認めてくれると思う!』
栞は、なによりも芯が大切とでも言いたかったのだろう。
それは、もの凄く良く分かる。
銀十字騎士団の悪名はネットだけではなく、全てのメディアであつかわれ、この国全土に轟いていた。
例えニセの犯人が捕まって場を収めたとしても大々的に取り扱われたのは一時期だけ。
すでに極悪集団として全ての名が晒されていた事実は決っして消えはしない。
もし誰かが個人情報を漏洩したら自分はどうなってしまうのか?
その恐怖感から引きこもりとなった龍好。
そんな中ですら彼は普通に学校に行って見せたそうだ。
逃げ隠れする様なやましい事はしていないと胸を張っての行動。
そして、リトライでの旗揚げ!
例え事件が他の事件で上書きされて人々の関心が薄らいだとはいえ。
そう、安々と出来るものではない。
同年でありながら、自分の親よりも年配のものを従えている事実。
例えソレがゲームの中の話しだとしても、相応の何かがなければなしえない。
それら全てを加味して考えれば、おのずと浮かんでくる厳しくも優しい人間性。
何モノにも屈しない不屈の闘志。
そして何より仲間を大切にする友愛精神。
それらが年長者に対して敬愛を持って受け入れられているからこそ彼女達は笑っていられるのだろう。
どんな誹謗中傷にも決して負けない鋼の心。
余程屈強な芯を持った少年。
とても自分と同じ歳だとは思えない。
きっと彼には今後学ぶ事も多いだろう。
ある意味、彼も怪物か化物の類なのかもしれない。
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