4-13
死亡扱いになった、みらいと刹風は、教会の前からの再開だった。
教会と言っても結婚式が行われたりするオシャレな教会ではない。
街外れにある簡素で小さな教会の前だった。
刹風は、あらためて昨晩稼いだポイントが全て無くなっている事実に肩を落としながら盛大にため息をはいた。
そして、同じくポイントを失ったみらいの顔を見て驚く。
刹風から見るとみらいの左目だけが煌びやかな緑色をしていたのだ。
「みらい、その目!?」
「目? あ、あぁこれね……」
そう言ったところでみらいは、違和感に気付いた。
左右両方の目が見えているからだ。
「もしかして、昼間眼帯してたのって、この前振りだったりするわけ?」
「えぇ。そうよ」
本当は、違うが――あまり詳細は、話したくない。
だから、ウソだとばれてもいいから、
「どう? 似合ってるかしら?」
なんて自慢気に言ってみせた。
「まぁ、悪くはないと思うけど……」
刹風は、複雑そうな表情を浮かべている。
そこでみらいは、自分の姿を再確認しようとエッグをマニュアルモードで起動し、自分のパーソナルデータを確認して見た。
昨日までと違うのは、髪がくすんだ銀髪になっているのと左右で瞳の色が違うオッドアイになっている事だった。
(なるほど、しっかりリトライでも反映されているのね)
そこに栞と、黒ずくめの見たことないお兄さんがやって来た。
顔は整形しているらしく、目を閉じたままなのに周りが見えているようである。
「これはこれは、聞いていた通り。可愛らし魔法使いですね。はじめまして、ボクは黒の賢者でして、ここリトライで新聞屋の真似事をしておりますペテン師と申します」
と言って、お兄さんは名刺を差し出す。
みらいは、一切のちゅうちょなくソレを受け取る。
そこには
ペテン師と書かれていた。
マニュアルモードで名刺を収納したみらいは、
「あら、ご丁寧にありがとうございます。私は、みらい。攻撃系魔法使い見習いです」
うやうやしくスカートの両端を軽く持ち上げて挨拶。
それを見た、刹風が声を荒げる。
「ちょっと! なんで、いきなり親しくなろうとしてんのよ! 昨日私に言ったよね! 男は全部敵だと思えって!」
「は~……、この人は大丈夫だからよ」
「どこが大丈夫なのよ! どー見たって怪しいじゃない! だいたい自分で自分の事をペテン師だって言ってるのよ! そんなのあからさまにダメに決まっるじゃない!」
「せっちゃんは、ホンマに人見る目ないなぁ」
「全くよ。いちいち説明しなきゃならないこっちの身にもなりなさいよね! バカ!」
「ちょ! なんで私が悪者みたいになってるのよ!?」
「はいはい、あんたが寝言いってても話し進まないから黙って聞きなさい」
「ふん、なによ偉そうに!」
「いい、本当に救いようのないヤツってのはね! 下心しかないくせに善人ぶって優しくしてくる人なの! 昨日のバカがいい例だわ! それに対し、ペテン師さんは怪しげな格好して自ら人を遠ざけようとしている。大抵この手の人は臆病者なの」
「はぁ~。臆病者って。つまり私達を傷つける度胸もないから大丈夫ってこと!? って、あんた! いくらなんでも初対面の人にそれはダメでしょ!」
「はいはい。残念、アナタってホント話しにならないわね。だって、ペテン師さんが怖いのは自分を信じたがために。その人達が傷つくのが怖いから自分を信じるなって言ってようなものだもの」
「はー、なにそれ!?」
「なに、も、それもないわよ。言った通り友人知人が傷つくのを見たくないから防衛線を張って必要以上に親しくならないようにしてるの」
ものすっごく引きつった顔でペテン師が会話に割り込んで来る。
「あの~、なんといいますか。初見で見抜く目には感服いたしますが、そこまで暴露されると付き合って行くのに困ってしまうのですが……」
「ふっ、安心してくださいませ。貴方が私の期待を裏切らなければ宜しいだけではありませんか?」
「は~。まさか、こんな型で服従を迫られるとは思っていませんでしたよ~」
「って、ペテン師さん! ホントにそんな事でいいんですか!?」
「良くないに決まってるじゃないですか! はっきり言ってボクは強いです! だからといって無敵じゃない! それなのに、これじゃ従うしかないじゃないですか……」
「はぁ、そんなの無視して適当にほっとけばいいじゃないですか!?」
「それは、できません!」
「なんでですか!?」
「栞君は、この世界でボクにできた始めての友達だからです!」
「なんかなぁ、ペテン師はん。友達になってって言われたん、うちが始めてやったんやって」
「ごめん、みらい。なんか、あんたがスッゴク正しいって気がしてきた……」
「ふっ、分かればいいのよ。自分の強さをひけらかすだけでなく弱さを認められる人は信用に値するの。自我自賛するだけのバカとは大違いだわ」
「あー、実は、そのバカ者達の件で報告がありまして。こうして馳せ参じたわけなのです」
「あの、あんぽんたん達、どうなったん?」
「予定通り。全員逮捕されたと報告をもらいました」
「捕まったって! あの人達本当に悪い事してたんですか!?」
またしてもバカなことを言っている刹風に対し、みらいと栞が眼つきを鋭くする。
「バカ! なに結婚サギに遭った人みたいな事言ってんのよ!」
「そやよ! 昨日やって、うちら言ったやん! アレは犯罪者の顔やったって!」
「なるほど、少しお説教させてもらってもいいですかね?」
「ええ、そうして頂けると助かります」
「ん~、そんなら、徹底的にお願いします! うち、せっちゃんがアホな子なんは分かってたけど。あないなバカにホイホイ付いて行くほどアホやと思ってなかったんよ~」
「って、なによ! もう終わったんだからいいじゃない!」
「いいえ! 見たところ始まってすらいませんね!」
「なにがですか!?」
「はっきり言ってボクはアナタのような人がこの世界に居る事をよしと思いません!」
「なっ! そんなの私の勝手じゃないですか!?」
「せっちゃんは黙って聞き! これ以上ごたく並べるんやったらうちが追い出すよ!」
「ちょ! 分かったわよ。ふんっ」
「では、言わせてもらいます。まず理解しなければならないのは、この世界が多くの危険でみちあふれているという事です。これが本来、この世界に踏み入れる時に知らされなければならない事であり。また、直感的に感じ取らなければならない事実です。年齢制限だってもっと引き上げるべきなのです。13からではなく18から、いや20からが妥当な世界ですかね。それにすら気付いていないから始まってすらいないと言ったのですよ。実際に逮捕された人達の容疑は婦女暴行。被害者の中にはアナタがたと同世代と思われる方もいたそうです。それなのにアナタは付いて行こうとした。見たところアナタはボクと違って交友関係も広いんじゃないですか? リーダー的な気質もありそうですし、アナタが行くと言えば付いて来る人だって居るんじゃないですか? もしアナタがリーダーとしてパーティーを組んだとします、アナタを信じて付いて来た人はどう思うでしょうか? 今回のように危険を察知して即、対応出来る人ばかりではありません。アナタが大丈夫だと言うから付いて行った。アナタが信用してるなら安心だと思ってリアルで会ってみた。その結果、被害者同様に扱われでもしたとして、アナタはアナタを信じて付いて来た人に何と言って声をかけるのですか? いいですか! もう一度いいます! ボクの事は、信じる必要はありません! ですが、ここリトライは、リアル以上に危険な場所だと認識した上で行動してください! 宜しいですね!?」
「せっちゃん! お返事は!?」
「はい、以後気をつけます……」
刹風は、直ぐに返事がしたくなかった訳ではない。
下級生達に『来年になったら、ご一緒させて下さい』と言われていたから。
フィシュライフで働く仲間にも、『今度一緒に連れて行ってよ』と言われていた。
確かに自分はリアルで会おうとは思わないだろう。
でも彼女達は?
今回は運が良かっただけで、次回までに気構えがなかったら危なかった。
「その、ごめんなさい」
「あのですね誰に言ってるのですか、誰に。 謝るべきは、友人に対してですよ!」
「えと……二人ともごめん」
「分かってくれたなら、うちはそれでええ」
「わたしも同感よ」
「あ、いや、その。それとさ。そのペテン師さんでは嫌なので、他の呼び方を教えてくださいませんでしょか?」
「ほな、くろにゃん」
☆バシン☆
刹風のスリッパが栞の頭で派手な音を立てていた。
「あんたには聞いてないでしょ!」
「まぁ、いくつか名前はありますが。でしたら、奇術師とお呼びくださいませ。それがボクのスタイルそのものですので」
「ほな、くろにゃんは奇術師はんに決定やね」
「いえいえ、別にくろにゃんでも構いませんよ。ボクのことは好きに読んでくださいませ」
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