4-10

 刹風は、今日も皆が学園へと向かう道のりを真逆に進んで行く。

 短い距離ではあるが、友人と共に登校したいからだ。

 そして、いつもの様に……では、なかった。


「あはは。また抱きつかれたのね……」


 定期的に見る、この光景。

 だいたい2時間くらいで復活しているが。

 今日のは、お昼くらいまでかかりそうなくらい、痛々しい表情を浮かべていた。


 のだが……


 そんな事よりもむしろ、隣を歩くみらいが気になった。

 髪の色が煌びやかな金髪から、くすんだ銀髪に変わり。

 左目には、眼帯をしている。

 どう考えても何か遭ったとしか思えなかった。

 足早で歩いて近付く。


「おはよー。っていうかそれどうしたの?」

「ああ、おはよー」

「おはよ。いいじゃない。べつに……」

「せっちゃん。おはようやぁ!」


 龍好は、げんなりと。

 みらいは、ちょっぴり拗ねて。

 栞だけは、相変わらず無駄に元気な朝の挨拶を返してくれた。


「別にじゃないでしょ!」


 刹風の視線は、眼帯をした左目に集中している。

 白い眼帯の下に何があるのか気になってしまっているのだ。


「ねぇ。ほんとに大丈夫なの?」


 純粋な心配からだった。

 刹風の手が、みらいの左目に伸びる。

 別に眼帯を外すつもりではない。

 ただ、自然に痛いのなら撫でてあげたい。

 そんな気持ちからだった。


「今日のせっちゃんは、青の水玉模様やねぇ~」


 栞が刹風の後ろに回りこみ――しゃがんで、スカートの裾を摘み上げ中身を確認していた。


「―――なっ! なにやってんにょよ! バカ栞!!」


 ☆ゴチン☆


「い、いたひ……」


 刹風は涙目で……その場にうずくまった。

 素手で栞の脳天を殴り下ろしてしまったからだ。


「せっちゃん、なんで怒るん?」


 不思議そうな顔で小首を傾げる栞に対し、刹風は涙目でこたえる。


「うう~。当たり前でしょ! バカ栞!」


 刹風は、一瞬――龍好に視線を流し、


「そんなこと人前で言わないでよ! 恥ずかしいじゃない!」


 栞を怒鳴りつける!


「ほな。みらいちゃんが隠しとるもんは人に教えてもいいもんなん? こないに短いスカートやってパンツ隠すために履いとんのやろ。みらいちゃんの眼帯やって同じなんよ。人に知られたないから隠しとるんよ」

「わかってるわよ! そんな事くらい!」


 つまり……


「刹風、完全に弄ばれたわね……」

「く――!」


 刹風は、自分を見おろす――みらいプラス眼帯というのは、このネタを生かすためのしょぎょうだったとようやく理解した。

 鞄からスリッパを取り出して立ち上がると!


 ☆スパーン☆


 切れのある緑色の閃光が横に薙ぐのだった――

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