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程なくして、みらいを乗せた車は深夜の町を滑らかに目的地へ向けて走り出す。
いつもの無駄に大きい車ではなく赤いコンパクトカーは小春の所有車だった。
本来なら安全性と威厳のために相応の車で移動する事が義務付けられているが……これは、明らかに西守としての義務的な行動とは無関係なのだというアピールだった。
小春が運転しているのも助手席に主人を乗せているのも、それらの意を強く表明するため。
でなければ、深夜に殿方の家に行く意味はがらりと変わる。
西守としての義務。
可能な限り一人でも多くの子孫を残す事。
一応公にはなっていないが身内の中では絶対的な重さがある。
もし通常通りの仕様で出掛けたなら、小春が先程言った異性が好むと思われる格好は必須であり。
事をなさずに帰る事は許されない。
特にみらいの両親がそれら西守の義務から逸脱した生活を続けていたため、みらいに当たる風は非常に強かった。
端的に言うなら、
『不出来な両親に代わってお前がしきたりを守れ!』
である。
山積みにされた婿候補達の写真と経歴書類もその為。
最低でも10人以上は婿を取る事が課せられていた。
黙っていればそれらは現実となり会った事もないヤツラを従えなければならなくなる。
別に肉体関係が必要な訳ではない。
例えるなら鵜飼だろう。
婿養子という形でも子孫を残したと同列に扱われるため、それらに対し更なる西守発展のための駒として生きてもらうのだ。
それに、金銭的、政治的に有益であれば最低限の義務は果たしたと認められるからでもある。
しかし、実子というのは、やはり何よりも硬く強い絆であり、それこそが本来の目的である以上。
金銭や政治的に有用な婚姻以上の価値がある事に変わりはない。
つまり、龍好と婚姻し子をなせば、めんどくさい柵から開放される足がかりになるのだ。
でも……それはデキナイ。
(だって、彼には……)
みらいは、それ以上の考えを無理やり切り捨てた。
どうせ叶わない願いなら願わないほうがいい。
どうせ叶わない夢ならば見ないほうがいい。
つねづね、諦めこそ人類が発明した最大の自己防衛なのかもしれないとみらいは思っていた。
車に搭載されたエアコンは全身全霊をかけて室内を加熱しているというのに。
みらいの心も身体も全く温まる気配は無く……むしろ冷え続けているみたいだった。
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