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「こちら、A1。原因の究明に対し都市伝説を提唱。リトライ開発初期において、その危険度の高さ故に隠蔽されたサーバーがあるとの噂を耳にした事があります。それが実在し、それの起動方法を知った者がアクセスしたとすれば現状の状況は説明可能です」

「おいおい、ふざけるなよA1……起動方法が人の命とかありえんだろ……これは、ゲームだぞ、なんで命まで賭けなきゃならんのだ?」

「こちら、A2。起動キーと思われるログに独自の見解を添えて送ります」

 

 その男の声は、どこか儚げだった。


 リーダーが目にしたログは……明らかに先程のA1が言ったそれを彷彿させる内容だった。

 しかも、その術式には続きがあり、嘆きを零す。


「あははは。なんだよこれは、正に必殺じゃないか……術者を殺す事が発動条件の一つに組み込まれているのかよ……やられた……まさか、こんな術式を組み込むヤツがいるなんて……」


 これでは、誰も責められない。

 こんなふざけた術式が発動するなんて誰も思わない。

 そう、決められているからだ。

 これが、危険なゲームだと分っているからこそ、この手の危険なモノは発動しないように徹底して管理されていた。

 プレイヤーが危険だと判断された瞬間に強制ログアウトされるようになっているのもそのためだ。

 だから全ての術式を一度コンピューターに処理させて危険無しと判断したものしか登録出来ないようになっている。

 そのため、コンピューター処理で弾かれた物意外は実装されるが、それらは謳い文句ばかりが大げさで発動しなかったり。

 大きな音を立てるだけだったり。

 光るだけだったりする。

 ようするに対人用に用意された脅し文句だった。


 ――しかし、例外があった!


 完全にしてやられた。

 これでは引っ掛りようがない。

 召喚魔法にしろ、他の魔法にしろ、特定の条件を揃えなければならない。

 女神、精霊、幻獣、それらの名前を術式に組み込まなければならないルールがある。

 しかし、それらはこの世界。

 リトライに存在するモノでなければならない。

 それなのに、アテライエルという名はこのリトライに存在しない事になっている。

 だから、不良術式としての対応しか受けない。

 こんなでたらめな術式は初期の段階で先ずはねられる。

 その後の確認処理すらされない。

 間違った術式は決して発動するわけじゃないのだから、そのまま使用可能許可が下りる。

 発動すると信じたプレイヤーが手痛い思いをして終わるだけ。

 ゲームとしては、スリリングな方がいいのだからこれでいい。

 それが今日までの常識だった。 

 仮に、何かの間違いで第一審査で引っかかりシステムチェックが行われたとしても、術式構築条件にプレイヤーの視覚回路の提供が必須とされている以上。

 現在のチェックプログラムでは何も起こらない。

 結局は、同じこと。

 使用許可が下りるだけだ。

 このあからさまに管理プログラムの隙を付いた見事な術式。 

 この状況を作り出した神の所業とでも思える惨状は魔王の悪戯だとでもいうのだろうか?


 そして――


 管理者達は、なんの対応も出来ないまま……警告音が鳴り止んだ……


「こちらA1。プレイヤーみらいの死亡確認、及びログアウト処理開始。それに伴うと思われる警告の停止を確認。警告はプレイヤーみらいによるロスト・フォレストサーバーに対するアクセスだったと仮定。なお、プレイヤーみらいの死亡に伴い特殊スキルの発動を確認。スキル名、戦友の灯火。構築された文脈からの詳細判断は不能。暫定処置として個人的見解により時空間魔法の可能性を提唱。現時点で、発動条件は整っていると推測。現存する停止手段無し。よってスキル名戦友の灯火の発動を容認。プレイヤーみらいのログアウト処理3、2、1、無事完了。現状で最も適切な処置として静観を提唱。それと、存在が発覚した第13サーバー。ロスト・フォレストに対するアクセスが一方的に遮断されました。追尾プログラムの全滅により今後のアクセスも不可能。よってこれを断念し、警告内容の仮定を肯定するための作業をA班で割り振っていますが、このままこちらで処理をしても宜しいでしょうか?」

「ああ、任せる……」

「こちらA1。了解しました」

「あははは、もう止められんか……全員に通達。この件に関して静観しろ。責任は全て私が取る。どうせ、もう打つ手はないしな……」


 サブリーダーの女が叫ぶ!


「明菜さん! ほんとうにこのままでいいんですか!? 何が起こるか分ったもんじゃないですよ!?」

「ふっ、できるものならやってみせろ」

「そんな……」


 サブリーダーは、ただただ自分の保身のための発言だった

 後先なんて全く考えていない者に続く言葉なんてあるはずはない。


「好きにさせろ……死亡が確認されたプレイヤーに対する処置は、存在しない」


 当然であろう。

 死亡したプレイヤーは、基本的にそのままログアウトされるのだから。

 それは現在の、みらいも同様。

 すでにログアウト処理は終了している。 

 ソコに居ない者に対して何かしようというのは無理な話である。


「責任は、私が取ると言っただろ……それに、もう、緊急避難プログラム自体間に合わんしな。全ては、リーダーが使えなかったからだと言っておけ」

「アルティメット・フォルッテッシモー!」


 栞の掛け声と共に響き渡る轟音は、その広い管理室全体に響き渡る。

 それは、各自の端末に備え付けられたスピーカーから鳴り響き、見事な臨場感溢れるサウンドを生み出していた。


「あははははは……なんだよ、これは、こんな事がこのゲームでは許されるのかよ……」


 後日改めて試算した結果。

 栞の叩き出した攻撃ポイントは、巨大な隕石が地表に衝突した衝撃と、ほぼ同等だと判明した。


「こちら、A1。ブラフと思われる不発スキルの確認強化及び新たに登録される固有スキルの危険度確認に対する強化プログラムの作成を提案します」

「ああ……そうだな……皆、頼りないリーダーですまん……不信任案を出したい者が居たら好きにしろ……そうだな、A1。お前、この席に興味はないか?」

「こちらA1。待遇面での魅力はありますが、今回の様なリスクを考慮し再検討した結果。その席に就いた場合、安定的な収入を得れる確立が下がると判断。故に全面的に拒否します。以上!」


 A1と呼ばれた女性は、にやり唇を吊上げる。

 主に、いい土産ができたからだ。


 対バグ・プレイヤー用のエサに決戦兵器が食いついたと――


 アニメ放映から数年――

 いまさらという話を無理やり押し通してまで進めた企画がこうも当たるとは。

 いきなり、異常な攻撃力をもった物を実装しようとすればバグ・プレイヤーにより消される。

 しかし、きちんと企画として立ち上げ。

 成功条件を絞って見せただけであっさり通過。

 後は、運次第なんて言ってはみたが。

 こうもあっさり駒がそろうと頬が吊り上がってしまうと言うものだ。


 しかも、西守みらい。


 やつの母親が開発に係わっていたのは知っていたが……

 ロスト・フォレストへの干渉方法まで教えていた可能性があるとは面白い。

 アテライエルというモノが何かは分らないが。

 戦力として有用なのは確かだ。 

 駒を意のままに動かしたくば、駒を知れ。

 正にその通りの展開だった。

 あんな、むちゃくちゃな破壊力を許した事を後悔しているであろうバグ・プレイヤーを思うと声を殺して笑うのがもったいなかった。

 まさかこうもあっさりと致命的な弱点を補ってくれるとは思わなかった。

 いくら攻撃力が高くとも当たらない大砲に価値は無いと指摘されていた。

 かといって、確実に当てるアイテムなんぞ実装したら確実に消される。

 例え一億分の一でも無いよりはましだと言い張って通した企画が。


 いきなり、命中率100%に化けやがった。


 これならば、勝てる。

 バグ・プレイヤーに勝てる。

 後は、折をみて、噂レベルでバグ・プレイヤーの居場所を流せば終わり。

 最悪共倒れになったとしても、バグ・プレイヤーさえ倒してくれればなんでもいい。

 そして自分は、西守の仲間入り。

 一生遊んで暮せる金と権力が手に入るのだから――



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