3-38
数分前――
第3サーバの管理室にて。
突然鳴り響きだした警告音にその場を治めるリーダーが叫ぶ!
「何が起こっている!?」
「分りません!」
一番近くで端末を操作しているサブリーダーの女性が嘆く。
「ふざけるな!」
リーダーの女がインカムを使って叫ぶ。
「緊急事態発生! 第3サーバー管理責任者。西守
「はいっ!」
と威勢の良い部下達全員の声が重なる。
そしてリーダーの下に情報が注がれ始めた。
「こちらA班、A35。至急確認いたしたい事があります!」
それは、若い男の声で泣き言を言っているみたいだった。
「A35、以後確認はいらん! 報告だけに終始しろ! で、なんだ!」
「はい、了解しました!」
「だから、いらん事を言うな!」
リーダーの女は、続けて怒鳴りたいのを飲み込む。
苛立ちは、後でぶつければいい。
今は、事態の確認と早期対応が求められているのだ。
「第13サーバー、ロスト・フォレストとは何ですか!?」
「そんなものは聞いた事がない! それがどうした!?」
「その、第13サーバーが起動しているのです!」
「ふざけるな! 動力も無しにサーバーが起動するはずないだろうが!」
そこに、女の声が割り込む。
「A16です。動力確認。第3サーバーから動力の供給を確認しました。詳細は不明。現在A1及びA2が逆算を試みています」
リーダーの女は、管理者の誰かが操作ミスをして問題を起したのであろうと仮定し怒鳴る。
「バカにするのもたいがいにしろ! だれだ、そんな規約違反を犯したバカは! とっとと、そのバカをここに連れて来い!」
「A1です。動力の逆算に成功。それにより第13サーバーを起動していると思われる個人の特定に成功。現在、個人情報の抽出申請中」
「でかした! さすがA1! で、だれが狼藉者だ!? そいつを、ここに連れて来いっ!」
A1とは、この第3サーバー管理者の中でもっとも優れている者の称号でもある。
リーダーは、問題が片付いたと安堵の笑みを浮かべる。
それに対し、A1と名乗った女性は、
(残念ですが、それは不可能かと思われます)
という言葉を飲み込む。
今は、緊急事態。
そんなことを言えば無駄な時間の浪費にしかならないからだ。
だから、端的にものを言うことに終始する。
「動力は、第3サーバー。キングクラスのストーンゴーレムと交戦中。プレイヤー名、みらい。職業、魔法使い見習い。レベル5。以上!」
「なんだと……ゲームプレイヤーが、だと……そんな、ばかな……」
その、事実にリーダーの女は腰が砕け椅子に座り込む、長時間の勤務にも疲れを感じさせない椅子がゆっくりとその衝撃を吸収して沈み込む。
その顔は、急速に血の気を失っていく。
冷や汗が溢れ出し寒気が止まらない。
心辺りがあったからだった。
それは、このゲームの本質。
特定の者でなければ知らされない事実。
核にある賢者の石というシステムにおいて人の持つ生命力を吸収及び蓄積する事が可能となっていた。
そのため、このリトライでは、人の持つ生命力を数値化し様々な形で使っている。
そのシステムに介入すれば自分の命と引き換えになんらかの不可能を可能に変える事もできてしまうのだ。
本来は、幾重にもある防壁がそれを阻んでいるはず。
それは、西守の頭脳を結集した成果であり。
一流のハッカーが束になっても、いまだ破れずにいる最強の防壁だったはずなのだ。
それが個人レベルで簡単に看破されるとは到底思えない。
――そうだ!
防壁があったはず!
それが簡単に破られたとは思えない!
明菜は、無理に立ち直って叫ぶ。
「A班、至急防壁の確認! 機能していなければ特例事項により許可する! 無理やりでも防壁を機能させろ!」
「こちら、A1。防壁の確認終了。防壁は問題なく機能しています」
「こちら、A2。第13サーバー。ロスト・フォレストよりプレイヤーみらいに対する動力の逆流を確認」
仕事が速いというのは、時に人を絶望に追い込む。
考える時間すら許してくれないからだ。
だから、出てくる言葉も頼りなく響く。
「なぜだ、なぜ、防壁が機能しているのに、他のサーバーにアクセスできる……動力の逆流だと……いったい何が起こっているんだ……?」
――いや、むしろ逆流はありがたいのか!
動力が逆流しているという事は、プレイヤーがリアルに死ぬ可能性は無いということになる。
(いや、まて――保護プログラムは、逆流を阻害する可能性があるぞ!)
「C1! プレイヤーみらいに対する保護プログラムの準備は出来ているか!?」
「こちらC1。準備完了しています。いつでもどうぞ!」
「よくやったC1。直ちにプレイヤーみらいに対する保護プログラム全てを破棄しろ!」
「こちらC1。プログラムの破棄完了しました」
「よく先走らなかったなC1。後で、褒めてやる。もっとも、私に後があったらだがな……」
それにしても、まるで、先手先手を打たれている様な感覚。
こうなる事が事前に分かっていたかのような周到さすら感じる。
「こちら、A1。原因の究明に対し仮説を提唱。存在していないサーバー及び、存在していないサーバーからのアクセスに対する制限が無かったため、相互通信が可能になったと思われます」
「なんだよそれは、あはは……私は、悪い夢でも見ているのか……? なぜだ、なぜ、存在していないはずのサーバーが存在する? なぜ、そのサーバーの存在を知る者が居る? なぜ、存在していないモノと通信が可能になる……?」
リーダーは、困惑していた。
もう、普通の思考すらままならない。
自分の言っている事すら夢心地だった。
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