3-35

 この世界にも幻獣、精霊、妖精等を召喚する魔法が存在し。

 それには基本、初回は絶対にそれらの名を術式に組み込まなければいけない決まりがある。

 そして、それは必ずこの世界に存在して居るモノが対象となっていなければならないのだ。

 召喚する対象が神であれ魔物であれ、全てにおいて差別なく同じ。

 例外は認められない。 


 しかし!


 これからみらいが構築しようとしている召喚魔法は、その根源たる絶対的なルールを無視した内容だった。

 つまり、この世界に存在しないモノを召喚しよとしているのだ。

 普通に考えたら、それはバカげた話でしかないのだろう。

 でも、みらいは、感じ取っていた。

 それが事実なのか、勘違いなのかはいまだに分らない。


『おかえりなさい。これでまた一緒に遊べますね』


 この世界が――リトライが。

 今もなお、そう囁き続けているのだ!

 ならば、存在するはず!

 例え管理者が否定したとしても。

 この世界の理をも無視したとしても。

 もの言わぬ友の存在なくして、この世界は存在しえないはずなのだから!

 例え確信が無くとも。

 その先に己が望む力があると言うならば!

 欲するのみ!

 生まれて始めて出来た友と、この世界で本当に会えると言うならば、呼びかけるのみ!

 ダメでもともと、栞の言った通りになるだけ。

 全滅した後で、明日になったら笑えばいいだけのことだ!

 みらいは、新たに組み込んだ術式をオリジナルの新魔法としてリトライの管理局に送りつける。


 ――約、1分後。


 あっさりと、新魔法は許可が下りて使用可能になった。

 当然と言えば当然だった。

 術式が間違っていると判断されたのだから。

 間違った魔法は何も起こらない。

 ただただ、いかにもソレらしい文句をうたって悦に浸るだけ。

 脳内で空想を見る行為となんら変わりない――しょせん幻想でしかないのだから。

 それでも、みらいはいさぎよく叫ぶ!


「術式準備完了よ!」

「はいなぁ~! 後は、任せてなぁ~!」

「じゃあ! いくわよ!」


 すーっと、大きく息を吸い込む。

 頬は真っ赤に染まり、心音がばっくんばっくんいっている。

 即興で、それっぽく並べてみただけの文字の羅列は、めちゃくちゃ恥ずかしかった。


「深緑の森を全し者よ。永き眠りから目覚め我が声を聞け。我は、汝が願い聞き届けし者。汝願い叶えたくば我と共に生き、我と共に戦え。我が声に応えるならば我が光、汝に捧ごう。深緑の魔王アテライエルよ。汝願い叶えたくば――」


(お願いアテライエル私の声を聞いて! 私はアナタの願いを知っているの! 私は、アナタの願いを叶えてあげたいと思っているの! だからお願い私と一緒に戦って! お願いを聞いてくれるなら私の光をあげるから! だからお願い私と一緒に戦って!)


「――我瞳を餌とし、汝が糧と成せ!」



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