3-29

 小柄な二人が気に病むのも無理はないとばかりにリーダーと思われる金髪が立ち上がり。

 ふわふわと煌びやかな金色のウェーブをそよ風になびかせて近付いて来る。

 青い瞳と整った顔立ちは一見すると好青年。

 それも、なかなかの美男子である。

 将を射んとするなら先ずは馬から。

 名言である。

 金髪の男もそれに習い――

 真っ先に射抜くのは『チビ黒だな』、と判断した。

 金髪は、みらいに歩み寄って頭を下げる。


「ん~、なんかごめんね。いきなり話し掛けられたら、やっぱり構えちゃうよね」


 みらいは黙して徹底拒否を訴え。

 それに栞も習って睨みをきかせる。


「ちょっと! もーなんなのよ二人して! すみません、なんか人見知りしちゃってるみたいで」


 まるで、幼い子供を連れて歩く保母さんみたいに刹風は言う。


「いやいや、こちらこそ配慮が足りなかったと反省してます」


 金髪は、刹風よりも頭一つ分くらい上からものを言う。

 他の男もがたいは良いが、この男は別格だった。 

 ――軽量化されたフルメタルが陽光を反射して光っている。

 鍛えた者だけがもつ腰の安定感。

 それはリアルでの純然たる強さをも語っていた。


「実は俺達、それなりの大学で剣道やっまして。身体も大きいですし、ちょっとこわいですよね」


 あはは、と金髪は笑って見せると、


「それで去年の実績っていうか優勝した功績が認められて、自分なんかは最初っから騎士になれちゃたんですよね。それで一人だけ仲間とは違う格好してたりするんです」


 演技がかった笑みで頭を掻く。

 騎士とはナイトであり――多くの女性にとって憧れの職業だった。


『私のナイト様……ぽっ♪』


 というドアホが本当に居るからわざわざ金髪は見た目がカッコいい鎧を選んで身に纏っているのだ。

 そしてそれは、騎士や剣士に憧れる刹風にとっては興味深々――出来る事なら詳しく聞いてみたい話しだった。

 例え歩きながらでもゆっくりと。


「すっ! すごいんですね! いきなり騎士になれちゃうなんて!」

「あぁいやね、俺が言いたいのは自慢話しじゃなくて」


(うっさい! 自慢話にしか聞こえないわよ! どっか行けバカ!)


 みらいは、目で金髪に訴えるが――そよ風の様に流される。


「騎士になるには、騎士道っていうか、紳士的な対応っていうのも必要でね。正直な話し、ここで君たちを先に行かせるわけにはいかないのさ」


(だったら、とっとと、先行って倒してくれといたらええやん!)


 栞も目で訴える!

 と、言うのに。

 刹風が余計な言葉ばかりを漏らす。


「で、ですが」

「いえいえ、いいんですよ。どうやら、そちらの二人には嫌われてしまったみたいですし。交渉は決裂したってことで構いませんから」


 男は、優しくも悲しげに微笑む。


(やられた! その手でこられたらかえって逆効果じゃない!)


 引き際まで心得ているとなると相当厄介だ!

 みらいは最悪の事態に備えて服の裾に忍ばせた回帰石を手にする!

 これでは、再びヤツらが刹風の前に現れた時に。

 多少強引に誘われたとしても刹風の性格上ほいほい付いていきかねない!

 その考えは栞も同じだった。

 レストランで働く以上、イヤでもウエイトレスは、人目に付く。

 その中でも、刹風は明らかに頭一つ出た存在感を輝かせていたからだ。

 こうなったらケンカ上等!

 無敵に等しい最強の防御力を武器にして殴り放題殴らせて、相手が殴り疲れたところで吹き飛ばしたる!

 そんな覚悟すら腹に据えた。


 しかし、二人の友が思う気持なんてどこ吹く風。

 刹風は、金髪達に付いて行く気が失せていない!


「ねー、二人ともなんとか言いなさいよ!」


 二人は、金髪を見据えて微動だにしない。

 下手に口を開いて刺激するよりも――睨んで、『自分達はアナア方と関わりたくありません』と訴えているのだ。

 あわよくば、こんなコブツキじゃ要らねーや。

 とでも思ってもらえたらラッキー。

 そんな希望的観測に頼るしかなかった。


「ちょっと栞! なにかネタでもやってるのは、分からなくもないけど。いくらなんでも、せめてお礼くらいは言うべきじゃないの?」


 明らかにいつもと違う行動をしている二人に対し、栞からでもと声を掛けるが無視される。


「いやいや、ホントお気になさらずに。かえって三人の仲に水を注す様な事しちゃってごめんね」


 金髪は本当に、すまなそうに頭を下げる。

 その頭の中は己が欲望のままに忠実だった。


(なんだよ、ちょろいじゃねぇか)


 刹風を、どうやって可愛がるかを思い描いては。

 男の口元が――わずかに、でもしっかりと、いやらしいく歪む。


(とっとと消えてよね気持悪いんだから! バカ!)


 そんな、みらいの心なんぞ無視したウィンクが降って来た!


(悪いねチビ黒、腹が膨れる頃には返してヤルカラサ)


 その瞳が語った意味に鳥肌がたって吐き気がした。

 金輪際、一生あいたくない存在だと感じた。


 ――安易な退路は後方にある。


 しかし、こうなってしまった以上徹底的に関わりたくないと思わせる何かが欲しい。

 だからといって下手に相手をけなして通報でもされたら最悪の事態にすらなりかねない。 

 相手を不快にさせる言い回しや暴言はアカウント停止処分の対象になりかねないからだ!


 もし、そんな事になったら――

 最悪の場合、みらいは葬儀の主役になるだろう。

 そして、それは両親だけでなく友人まで巻き込みかねないのだ。

 かといってこのままでいいわけなんてない!

 仮に西守の名をかざしたとしても相手がブラフと勘違いしたら終いだ。


 栞の破壊力に頼るべきか?


 しかし、相手は強者6人。

 友を袋叩きにさせる様な戦いかたはヤリたくないし、勝ちが見えない。

 仮に、ココで相手をボコボコにしたところで今後の刹風の安心が得られないのなら負けたも同然なのだから。

 正に最悪の相手だった!


(なんであんたはココにいてくれないのよ!)


 みらいの心は、泣き叫ぶ!

 銀時計が居れば、こんな事にはならないのに!

 こんな遊び目的のいい加減なヤツラに過去最高の犯罪者とまでうたわれた銀時計と対峙ずる度胸があるとは思えなかったからだ!

 そんな危険人物と係わりのある者達とお近付きになろうなんていうのは極少数だろう。

 それに、騎士だけで構成された銀十字騎士団のオマケ付ともなればこんな程度のヤツラなんて一蹴だろう。

 それらは、叶わない現実だった。

 せめて、声を掛けられた時に――素直に協力を願うべきだった。


『えへへ~♪ 困った事があったらいつでも、おねーさん達に言ってよね♪』


 今ココで、銀十字騎士団の名を出せばヤツラを追い払うだけではなく、安全と安心が手に入るかもしれない。

 でも――それでは、彼女達の頑張りを無駄にしてしまうかもしれない。

 獲物を獲られなかった鬱憤晴らしにネットで銀十字騎士団の名をさらせば簡単に火が点く事だろう。


『まぁ、結果的に銀十字騎士団や、銀時計の名に塗られた泥を洗い落としてる事になっていなくもないかもだけどね~』


 せっかく龍好の帰る場所を用意してくれてるのに。

 待っていてくれるのに、全てを無にしてしまいかねない。


 ただ、それでも――


 対峙した場所だけは幸運だったと言えた。

 もう他に手は思いつかない。

 回帰石と同様の結果にしかならないだろうが。

 後で、ではなく。

 今すぐに刹風の目を覚まさせるためには――


 コレシカナイ――


 戦略的撤退による状況整理と今後の対策が急務と判断した。

 みらいは自分のエッグに指令を出す!


「ストーンゴーレム討伐申請!」


 半透明の画面に【推進レベルに達していませんがよろしいですか?】の文字と[Yes]、[No]の選択。


「イエス!」

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