3-28
山賊にでも襲われない限り比較的安全で、かつ効率的なクエストだった。
もし、問題がなければ。
今後は、刹風が一人でランニングがてら行ったり来たりを繰り返す事になっている。
無事に頼まれた荷物を届けるとNPC役のおじさんから報酬をゲット!
みんなのレベルが上がった!
おじさんの顔は街の中に居るNPC役の人と違って、ちょっぴり退屈そうにしているのが印象的だった。
(うん♪ コレなら私一人でも楽勝じゃん)
後は、街に帰って繰り返せば!
強さと、お金が手に入る!
(お使いクエスト最高~!)
刹風は、浮かれ気分で帰路を歩いていた。
そんな感じで、帰路も半分ほど過ぎ。
休憩所兼作戦会議場所として使われる管理者の居ない東屋に差し掛かった。
ここは、腕試しをしたい人達のために用意されたラビリンスの入り口。
大きなアーチ形の看板が掲げられて――岩で出来た、いかにも強そうなモンスターが描かれてた。
ご丁寧にドリンクの自動販売機まで設置されていて、なにか口にしないと考えがまとまらない。
なんていう人にはありがたい心配りだった。
大きな岩をスライスした横長のテーブルと岩で出来た円筒形に近い椅子。
それらは岩を斬る技の一つ。
斬岩剣による作品だった。
その岩に腰掛ける6人の男達が居た――
誰一人として打ち合わせをしているようには見えない。
もう話は、まとまっていて――この後、ココのボスにでも挑むのだろう。
そんな感じに見えた。
テーブルには、リーダーの物と思われるであろう。
切れのあるデザインをした赤い兜が置かれていた。
肩までウエーブした金髪に青い瞳。
所々黄色いラインの入った鎧はスマートで良く似合っていてカッコいい。
戦士系だろうが、栞と同じ重量級戦士ではなく別の何かに見えた。
他の男は、みんな坊主頭で青と白をベースにした大き目の袴に脇差といったスタイル。
裾の部分が白いギザギザ模様で染められていてカッコいい。
時代劇に出てくる志士みたいでもあった。
こちらは、一目で剣士だと分る佇まい。
黙っていても、体格の良さだけではない強さが漂っていた。
その中の一人――
一番背の低い男が立ち上がると刹風に向かって歩み寄る。
どことなく愛嬌のある顔付きは丸く。
身体の大きさや帯刀している点を差し引いても優しさが勝って見えた。
その目線は獲物を捕らえて放さない。
頭から爪先まで流れ――品定が終わると再び胸で一時停止。
ゴクリと喉を鳴らしてから、視線を上げて、顔を見つめる。
「やぁ、こんにちは。君たち初心者だろ?」
近付き過ぎず、離れ過ぎず、頃合の距離まで近付いたところで軽く手を上げての挨拶だった。
エッグを起動させて、半透明の画面越しに見れば、頭の上に浮かぶ若葉マークがあるんだから分かり切った事を聞いているだけ。
話し始める切っ掛けになれば何でもいい――そんな感じがみえみえだった。
どう見てもナンパ目的。
それも、かなりろくでもないやりかたでの……だ!
――ソコに小さな黒が割って入る!
空色の瞳を細めて見上げ――僅かに微笑んだ鉄仮面を貼り付ける。
「こんにちは、どの様なご用件でしょうか?」
男は、いかにも親切そうな声で言う。
「いやね、この先で山賊がたむろってるって情報が入ってさ、俺らもクエストの帰りがてらけちらして行こうと思って作戦練ってたんだけどさ」
一緒に見てくださいなって感じで振り向いて仲間を見る。
「見ての通り俺達は、前衛しかいない。相手次第じゃ、苦戦を強いられる可能性もある。そこで頼みっていうかさ」
白いローブを羽織ったなんちゃって回復系魔法使いを見おろす。
「ぶっちゃけ回復役が居るとありがたい。こんな事初心者さんに言う事じゃないんだけど。協力っていうか一緒に戦ってくれるとありがたい」
相手は、低レベルの初心者に対し、へりくだってモノを言っているが。
栞の職業どころか、こちらのメンバーを誰一人として再確認せずにモノを言っている時点で真っ黒だと思った。
もし本当に共闘を考えているなら、エッグを起動させて、最低限の情報。
相手のレベルや職業を確認してるはず。
それが無いという事は!
――おそらく知っているから必要ないのだ!
狙いが絞られているから、他の情報は要らないと判断して見向きもしない。
こんな連中に関わっては命取りになりかねない。
そう確信を得たみらいは完全拒否をやんわりと伝える。
「この度は、貴重な情報提供ありがとうございます」
ゆっくり深々と頭を下げて見せると、にっこりと微笑んで見せてから、
「ですが我々は、パーティー編成を替えるつもりは、ございませんし。例えどの様な事が待ち受けていたとしても仲間だけで活路を切り開いていこうと決めております。ですから、どうか我々にはお構いなくお楽しみくださいませ。それでは、失礼致します」
もう一度うやうやしく、本当にありがとうございます的な演技をして刹風の手を引く。
刹風は、いまいち意味が分らないまま、みらいに手を引かれ栞もそれに習って付いて行く。
しかし、そうはさせまいと男が後ろから声を掛ける!
「って、まってくださいよ! いいんですか!? 山賊に倒されると装備一式から手持ちのキャッシュまで奪われたあげく、ペナルティで今日手に入れた報酬も無くなりますよ!」
「ええ! そうなんですか!?」
せっかくみらいが丁寧に相手を袖にしたと言うのに刹風が食い付いてしまった!
椅子に座った男達は、みらいの対応に曇らせていた表情を一変する。
これ幸いと、にやりと微笑み、声を掛けた男は優しそうな顔付きに磨きをかけていく。
この流れは危険と判断したみらいが思いっきり手を引く!
「もう、刹風さん! 先程も申し上げたばかりではありませんか! いいから行きましょう!」
「せやよ! せっちゃん! うちらさっきレベル上がったし山賊なんてへっちゃらやよ!」
栞も背中を押す!
しかし、剣士に憧れを抱く刹風の足は重い。
「ちょっとてば! なんなのよ~!」
「初心者さんなんだから覚えることも多いでしょうし、忘れてしまっても仕方ないですよ」
相手を油断させる作り込まれた表情。
男は何度となく繰り返した見事な演技で役を演じていた。
「ねー、せっかくなんだし一緒に行くくらいならいいんじゃない」
「せっちゃんのどアホ……」
そよ風にすら消え入りそうな小さな呟き。
栞にしては珍しく、おもいっきりむくれていた。
「はぁ~」
この上なく重い溜め息を吐いたみらいも不機嫌をあらわにしている。
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