3-25
みらいの頭の中で龍好が度外視されていたため、先程言った自分の言葉の意味が食い違っていた。
彼女達は今でも、龍好を待っていてくれているのだと強く感じた。
「すみません。言葉の配慮が足りませんでした」
みらいが頭を下げると、
「あ、いや! その、こっちこそ! なんかさ、あははは……」
音姫は、ちょっぴり強気で、でも寂しそうに乾いた笑いで返した。
「ホントのとこ、期待しちゃったんですよね。私達全員。しおりんからメールもらった時からね。なんか盛り上がっちゃってまして! もう一度あの時みたいに一緒に遊べるって! はしゃいじゃってたんだよね……あははは」
銀水晶も、ちょっぴり寂しそうな顔で無理に笑ってる様に見えた。
「でも! 私は諦めてませんから!」
みらいは、その場の空気を一掃しようと強めの口調で思いを伝える!
「うんうん。ありがとね♪ その、ケンカしちゃったんだってね。ホントは、もっと私達も支えてあげなくっちゃいけない立場だったのに、なんかしおりん一人にまかせきりになっちゃってたし……」
「そう? 私は下手に係わるより、時の流れにまかせるべきだと思ってたわよ」
「だれが、上手いこと言えっていった――!」
☆ぺしり☆
と、音姫の平手が銀水晶の後頭部で音を奏でる!
「あ! 分った! 銀時計だけに、時を刻めば戻ってくるって!」
「あはははは」
と、二人で笑っている……
例え壊れた時計であっても再び時を刻む事が叶うのなら。
一周して元の位置に戻ってこれるのだ。
なんとなく、分ってしまった。
彼女達は自分達が笑って過ごす事で。
彼の――
銀時計の帰ってこれる場所になろうとしているのだと痛感した。
きっと、今日までに辛い事を経験した者もいたことだろう。
それでも笑って歌い。
踊ってきたからこそ、今日この日があるのだと――
「その、ありがとうございます」
「ちょと! なに、大人みたいな事いってんのよ! 私達は好きでやってるだけなんだよ♪」
「まぁ、結果的に銀十字騎士団や、銀時計の名に塗られた泥を洗い落としてる事になっていなくもないかもだけどね~」
「あはははは!」
下げた頭の上から二人の笑い声が降ってくる。
嬉しかった。
純粋に嬉しかった。
(早く帰って来てあげなさいよね! バカ!)
ここにいない誰かさんに想いを飛ばす。
きっと、龍好はなんにも知らずに寝ているのだろう。
ここには――
こんなにも銀時計を待っている人達が居るというのに。
「じゃあさ、友達登録してもOKかな?」
「あ、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
「ではでは、私もお願いね~」
音姫がエッグを使って、みらいに友達登録を申請すると、銀水晶もそれに続いた。
「じゃぁ、ついでに友好関係登録も♪ って! そっちクランじゃん!?」
「って、ゆーか! 真剣狩る☆死怨(仮)って! さすがしおりんは違うわね~!」
みらいは苦笑いで、ほほを搔く……
「はい、栞の趣味で漢字が良いと言い張りまして……」
「ん~まぁ。いっか~。クランとギルドって全部が全部犬猿の仲ってわけでもないし♪」
「そだねぇ~。別にいいんじゃない」
この世界における二大勢力。
クランとギルド。
全体的な傾向としてクランはマッタリ系が多く。
ギルドは本格派が多かった。
だからといってクラン派がギルド派に劣っていると思われることをよしとしない気合の入ったクランも少なくはないし。
逆にギルドだからと言って、商売しか興味がない商業組合があったりもする。
ただ、総じて。
互いに互いを牽制し合う関係であり。
水面下でのやり取りは、日々どこかしらで繰り広げられていた。
「あの~。申し訳ないのですが、仮申請中の相手との友好関係は結べない事になっていますよね?」
「だめね~……」
「うん、ぜっんっぜんダメね!」
「はい?」
「いい! みらいちゃん! ここは、もっと早く的確に突っ込むとこでしょ!」
「そうだよ! 私達分ってて言ってるんだから!」
「そーそー! それに、友好関係結べるのはリーダー同士って決まってるんだよ! そこも、きちんと突っ込んでくれなくっちゃ!」
「すみません、そう言うの苦手でして……」
「はぁ、しおりんの言ってた通りね~」
「みらいちゃんには、お笑いで生きてく才能無いって言ってたもんね~」
「そんなもの要りませんから!」
「あはははは」
またしても二人は楽しそうに笑っている。
そして――
「えへへ~♪ 困った事があったらいつでも、おねーさん達に言ってよね♪」
音姫が手を差し出し、みらいもそれにこたえる。
「はい! ありがとうございます!」
「んじゃ~。私も~」
銀水晶もそれに習って、みらいと握手を交わす。
「はい! こちらこそよろしくお願いします」
☆ぺしり☆
音姫の平手が、みらいの頭の上で小さな音を奏でる!
「も~! だれが社交辞令で挨拶しろっていってるのよ!」
「あ! え!?」
「いい! みらいちゃん! ここは、子供が気軽に遊べる様な甘っちょろい世界じゃないの!」
「そうだよ! 本格派で楽しむんだよね! だったら私達を護衛として受け入れなさい!」
「あ、でも!」
「デモも! テロもないの! 私達、銀十字騎士団は特別待遇でこの世界に存在しているの! そこらに居るにわか騎士とは全くの別物よ! 山賊だって怖くないし! ここらで一番強いヤツだって単身で討伐出来る位の強さは皆持ってるの! これ程の戦力がタダで手に入るのよ! なにが不満なわけ!?」
「その! 出来るところまで自分で、自分達でやってみたいんです!」
本心で言ったら、自分一人で全て出来なければこの世界に来た意味は無いに等しい。
出来得る事なら彼女達の提案は受け入れたい――
でも、序盤から彼女達に甘えているようでは、バグ・プレイヤーには、届かないだろう。
いつかきっと協力を願う日が来る――
その日までに。
その時までに。
相応の強さを自らが持っていたいと思うから!
「ごめんなさい!」
深々と頭を下げた。
みらいの勢いに負ける形で二人は互いの目を見て頷く。
「そっ。じゃあ、約束! 危ないと感じたら、迷わず私達を呼んでね♪」
「はい!」
今度は、みらいから手を差し出し。
音姫が応え――その上から銀水晶が手を重ねてきた。
「我らは、時に汝の盾と成り!」
「我らは、時に汝の剣と成る事を、ここに誓おう!」
「えへへ~♪」
「ちょっとちがいますけど、一応これも剣と盾の誓いって感じですよ!」
「ね~」
っと、二人で見つめ合って、笑っていた。
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