3-24
洋服を手に入れた刹風は、無事レストランで採用され。
新人研修がてら働き始めた。
栞は、
『うちは、
と言っていた。
きっとお店の迷惑になるかならないか、ぎりぎりを狙ったポーズで微動だにせずに刹風を見守っているのだろう。
お店の売り上げに影響がなければいいが……
そして、みらいは魔法の改良を一時中断し。
情報収集のために自分の目と足で、この世界を確認していた。
公式や西守限定でアクセスできるホームページ以外の情報は量、質、共に豊富だが。
わずかながらでも、ガセネタが混ざっているという欠点があった。
そんなモノに左右されて致命的なミスをするよりも、こうして自分で動いた方が確実な事もある。
だから、こうしてみらいは街を見学していたのだった。
そんな中――
銀色の鍵盤が奏でる軽快な音楽と、笑い声が――みらいの足を止めていた。
人の輪の中に何があるのか確認しようと近付いて見た。
そして――!
半透明の画面越しに見た彼女達の――主役のギルド名に心臓が飛び跳ねた!
「銀十字騎士団……」
それは、かつて龍好が銀時計として在籍していたギルドの名である。
今でもネット上では犯罪者という見識を持った人達が根強く居るギルド。
一人の名は、銀盤の音姫。
もう一人の名は、月の銀水晶。
どちらも、ブルークリスタル時代の名を――そのまま使っていた。
特定の者だけが実名以外を名乗れる事は知っている。
しかし!
あれは、ブルークリスタルに平和をもたらした英雄としての名というよりも。
犯罪者の仲間として広まった名である!
それなのに、そんな些細な事は全く気にもしません!
とでも言うかの様に観客と一体になって、この世界に溶け込んでいた。
もしかしたら見間違いではないのだろうか?
なんちゃって的に真似してみたニセモノなのだろうか?
そんな疑問を確かめたくて見ていると――音楽担当の音姫と目が合った。
「きょうは~♪ 昔なじみの~♪ 知り合い~♪ 来たから~♪ お終い!」
「え~~!」
という観客の声に対し、
「ごめん! ほんとーに! ごめんなさい!」
ひたすら頭をさげて、本当にピアノと簡易式のスタンドを仕舞ってしまった。
そして、観客全員に向かって大きく手を振って、
「また明日一緒に歌おうね~♪」
「え! ちょっと! なに! だれが来たの!?」
相方の理解を得る前に強制終了してしまっていた。
人々が引ける中……
(昔の知り合いって、もしかして……)
音姫を見つめれば目と目が合ったまま――こっちに向かってくる。
プリンセスラインのふんわりした可愛らしいドレスの両端を持ち上げて近寄ってくる。
肩下ほどまである銀色の髪がキラキラとなびいていた。
「たっくんの友達のみらいちゃんだよね?」
走り寄って来た音姫が開口一番言ったセリフは疑問を肯定していた。
「あ、はい。よく、分りましたね」
彼女達と実際に会った事は無い。
ブルークリスタルでの最後の戦いに向けた決起集会での写真を見せてもらっただけである。
少し遅れて近付いて来た銀水晶が腰を屈め――みらいを見つめると、
「え~。みらいちゃんって、あのみらいちゃん! たっくんの事、好き好き愛してるって毎日言ってるっていう、あのみらいちゃん!?」
自分と同じ空色の目をぱちくりさせて――とんでもない事を言ってきた!
みらいは、眉間に皺を寄せて、こめかみを押さえる、絶対に栞が仕込んだネタだと感じた。
どうやら自分の知らない所で、龍好に毎日言い寄っているという設定になっているらしい。
「そうそう! そのみらいちゃん!」
「違いますから!」
「えー、じゃないとつまんない~♪」
みらいは、目一杯反論して見せたが、音姫にとっては、そうでないと面白くないそうだった。
栗色の瞳は、頬を膨らませてむくれている――拗ねた顔すら可愛い。
大き目の胸が羨ましい。
(刹風よりも大きいかな?)
つい、そんな事を思ってしまう。
見た目で判断すれば二人とも20代前半だろう。
ほっそりしてるのに出るところはきっちり自己主張してる大人の女性だった!
身長も刹風と同じか、それ以上ありそうだ。
二人とも銀髪で――音姫は、前髪を7対3位の割合で緩やかに流し。
左右の髪を三つ編みにしていてオンプの形を模した銀色のアクセサリーで止めている。
銀水晶は、ウエーブの掛かった長い髪を後ろでまとめ。
円を描く様に持ち上げてから、頭の上で――これまた銀色の髪止でとめていた。
根元から左右に向けて立ち上げた前髪は、緩やかにウエーブしながら流れる様に垂れ下がっている。
大人の女性っぽくて羨ましい。
そして――やっぱり、胸も大きかった。
ひんそな自分が呪わしい。
「ん~、でもさ! よくこの娘がみらいちゃんだってわかったよね」
まじまじと、銀水晶がみらいを見つめている。
「だってさ♪ すっごく! ちっちゃ可愛いんだもん♪」
ぐさ――!
っと! みらいの心にその言葉が突き刺さった!
確かに今日ここにいたるまで……自分と同じか、それ以上ちっちゃい人は見かけていない。
おそらく、この世界最小の人間であることは間違いないだろう。
「んまぁ、それは否定しないけど……」
(否定してよ!)
みらいの目は全力で訴える。
「まぁ、ホントは、昨日しおりんからメールもらってたんだよね~♪ ってゆーかあんたんとこにも来てたでしょ!?」
「うん! 分っててボケてみました!」
銀水晶が敬礼して微笑んでいる。
それを見て音姫が「あっはははは♪」笑っていた。
どうやら、彼女達も栞に感化されているらしい――と、みらいは思うが。
実際は、ギルドマスターの影響の方が大きかった。
「それにしても、その、そのギルド名とかって大丈夫なのでしょうか?」
みらいは、聞き辛そうに問うが、
「あ~これ! リーダーが気にすんなってさ!」
音姫は、あっさり、きっぱりと笑顔と共に言い切った!
「そう! 私達は、銀行強盗なんてしいませんし! この銀髪同様に胸を張って銀十字騎士団を掲げるって決めてから、このリトライに来たんですよ!」
強く勇ましい笑顔と共に胸を張った――銀水晶の胸は、本当にぱんぱんに張っていた。
「そう、なんだよね~。ブルクリ縛りでさ~。銀髪じゃなきゃダメなんだって♪」
「では、他の皆さんも全員銀髪なのですね」
「あ、いや、その、ね……」
先程までの威勢はどこに行ったのか、音姫が言葉を濁すと、
「たっくんがさ、居ないから、ね……」
銀水晶も寂しげに言葉を零した。
「あ……」
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