3-23



 街の中心にある大きな湖。

 その近くには、リトライでも比較的人気の高いお店の一つ――フィッシュライフがあった。

 基本的に魚料理がメインとなるのだが。

 その種類は豊富で、とにかくメニューの数がすごい。

 可能な範囲とは言え、世界各地の食材を、取り扱っているのだから当然と言えば当然だろう。

 それらを広々としたテラス席で、ゆったりと食事をとれる。

 落ち着いた雰囲気で、あちらこちらに置かれた観葉植物は南国っぽさを演出していた。

 それになにより夢の世界である以上、いくら食べても太ることはない。

 ゆえに、レストラン系はどこも繁盛していた。

 となれば、夜中ともなると人手が足りないことも多々あり。

 アルバイトの募集は常時出している。

 そんなところだから刹風が採用してもらえるのもあたりまえだった。





 大勢の人が集まる中央広場。

 ココに訪れた者が始めて見るリトライの世界。

 真ん中にある大きな噴水を取り囲むように鮮やかで優しい緑の絨毯が広がり。

 寝転べば、僅かに香る芝生の香りが心地良い。

 開始当初は、何もない平原みたいだったはずの広場は設計時にもっと大きくしておくべきだったと後悔させるほどの人と露店。

 それに大道芸人達がひしめいていた。


 その一角で――


 異色を放って目立つ存在が、今日も人々の心を引き付けていた。

 一人は純白のウエディングドレスを着て黒いステージピアノを奏でながら歌い。

 もう一人は、ピンク色のバルーンウエディングドレスをまとって踊っている。

 煌びやかな銀色の髪をなびかせ、細くしなやかな足で華麗にスッテップを踏んでるかと思えば――コケル!


「あはははは」


 と観客から笑い声が降り注げば。


「えへへ。また転んじゃいました」


 てへりと笑って見せて可愛らしい舌を覗かせる。

 そして曲に合わせて再び可愛らしいドレスをひらひらさせて跳ね回る。

 その軽快な音楽は時折音を外し。


「あ~、また間違ってら」


 なんて言われては、


「ごあいきょう~♪ ごあいきょう~♪」


 相方も、完全に歌詞を無視して歌ってる。

 それがまた笑いを誘い、笑顔を広げていた。

 彼女達の魅力は、透き通った高く優しい声質でもなければ、綺麗なドレスでもない。

 美人と言うより、可愛いと形容するのが相応しい顔立ちでもない。

 純粋に、音楽が好きだから歌たって奏でる。 

 純粋に、ダンスが好きだから踊っている。

 単純に、それだけだからなのだ。

 好きな事を楽しんでいる時は、その人にとって最高の時間となり。

 それを共有する事が見物客の楽しみでもあった。

 一緒に歌い。

 一緒に踊る。 

 上手くなくても良いから一緒に踊ろうよ!

 音痴だって別にいいじゃん!

 だから一緒に歌おうよ!

 ねっ!

 だから、皆で一緒に楽しもうよ!

 それこそが、彼女達の魅力だった。


 その光景は――


 とても、犯罪者の片棒とまで呼ばれている者がしている事とは思えなかった。

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