3-19
階段を下りてリビングに行くと――今日も、みらいが来ていた。
エッグをマニュアルモードで起動して仮想キーボードをカタカタさせている。
珍しく食事を始めていて、完全にかたてまだった。
「おはよ、みらい」
「ええ、おはよう」
龍好の顔を見ようともしない。
みらいの目は食料と画面を行ったり来たりするだけだった。
「なぁ、栞。みらいは、何をやってるんだ?」
「んとなぁ、オリジナルの魔法を作ってるらしいんよ……」
「へーそんなこともできるんだ」
「せやけんどなぁ、めっちゃ難しいみたいで……」
「それで、メシ食いながらもなんかやってるわけか……」
「そうなんよ」
龍好は、みらいが何をやっているのか確認しようと画面を除き込むが、訳の分からない数式だらけだった。
「げ……こりゃ確かに意味不明だわな……」
「せやろ……なんかロリータ理論ちゅーもんらしいんやけんど」
「なんだそりゃ?」
栞は、両手を合わせて三角マークを作る。
「なんや、おにぎりみたいな構造したエンジンのことらしいんよ」
「はぁ? それと、魔法とどう関係してるんだ?」
「そんなん、みらいちゃんしか分からんよ。なんでも10個つなげてすっごい魔法作るんやって」
「ふ~ん。まぁ、成功するのを祈っておくよ……」
食事が終わっても、みらいのやっている事は変わらず。
登校の際にも変わらなかった。
みらいの鞄は栞が持ち。
龍好は、みらいの手を引いていた。
いつもの待ち合わせ場所に着くと、刹風と顔を合わせることなく。
挨拶だけ返して、学園の敷地内に入って行く。
「ねぇ、栞。みらい朝からずっとあんなかんじなの?」
「そうなんよ~」
「なんか、ききせまるものがあるわね……」
片手だけとはいえ、ものすごいスピードで何かをやっている。
「せやなぁ~。なんか、うちらとは別なもんと戦ってる気がするよ~」
刹風は、昨晩の勉強会を思い出しながら言う。
「確かに、私達とは別次元の何かと戦ってるんでしょうね……」
*
みらいのオリジナル魔法作りは、お昼休みも続いていた。
まるで親鳥が雛に餌をやるように――小さく切ったうどんを龍好は、
「みらい、口開けて」
みらいの口に運び続ける。
「はい」
その様子を見ているのは、刹風や栞だけではない。
近くに座った連中も何をやっているのか気になって見に来る連中さえいた。
しかし、難解な数式だらけの画面を見ては引きつった顔して退散していく。
そんな感じで、昼休みが終わり。
学校が終わり。
家に帰っても、みらいの手が止まることはなかった。
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