3-18

 頬に感じる口づけは、昨日までと変わらない。

 だから龍好は、自然と最も気になっていたことを、さっそくとばかりに口にした。


「おはよう栞。リトライは、どうだった?」

「はう~~~~」


 いきなり、表情を曇らせる栞。


「なにか、あったのか!?」


 龍好は、やはり自分も行くべきだったのではないかと内心後悔する。


「んとなぁ。勉強させられたんよ~」

「はぁ?」


 そういえば紅が、リトライにも学校があるような事を言っていたのを思い出す。

 もしかして、入学でもしたんだろうか?

 そんな、安易な考えが龍好の頭に浮かぶ。


「なんでも、呪文をとなえんと回復魔法使えんらしくって……うち、きちんと覚えられなくって、みらいちゃん怒らせてしもうたんよ~」


 龍好は、ため息混じりにこたえる。


「なんだ、そんなことか……」

「そんな、ことやない! なんで、夢の世界まで行って勉強せなあかんの!?」

「回復魔法使えるようになるためだろ?」

「それは、そうなんやけんど……」

「それにしても意外だな。栞ならてっきり戦士系でガンガン行くもんだと思ってたのに」

「うち、戦士やよ」

「はぁ? 戦士なのに回復魔法使えるとかゲームバランスどうなってんだよ?」

「なんか、医療関係のお勉強頑張ったご褒美らしいんよ」

「そういえば、そんなこともあったな。でもだからって、戦士が回復魔法使えるとか卑怯だろ?」

「そうなん?」

「そりゃ、そうだろ! ただでさえ強いのに回復魔法使えるとか万能過ぎるって!」

「にゃはは、使えたらの話やけんどなぁ……」

「にしてもすげぇよなぁ、大抵のことは一人で全部出来ちまうんじゃねぇのか?」

「お勉強頑張ったらの話やよ……」

「だいじょうぶ、栞ならできるって! にしても前衛支援型とかスゲーなぁ」

「ほんまに、そう思う?」

「あぁ、めっちゃカッコいいって!」


 ブルークリスタル時代――

 当時のリーダーの方向性にならい、全員がナイトという特殊なギルドに所属していたため。

 回復魔法使えるヤツなんて一人もいなかった。

 だからこそ栞の存在が、よけいにまぶしく見えてしまう龍好だった。


「そないに褒められたら、うち、てれれてまう」


 頬に手をあて、くねくねしている栞。

 その姿を見て、自分が思っているほど、危険な世界じゃないのかもなと思う龍好。

 安心したところで、く~~~っとお腹が鳴る。


「じゃぁ、着替えたら下りてくから」

「了解や! うち、お勉強頑張って癒し系目指すから期待しててな!」

「おう!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る