3-17


 みらいの後ろを、嫌そうな顔でついて行く栞と刹風。

 着いたところは、巨大な図書館だった。

 中に入り、受付をすますと。

 お勉強をするためのスペースが提供された。


「ここは、リアルと違って防音対策しっかりしてるから多少騒いでも問題ないわよ」


 むしろ問題は、本気で勉強に取り組む気がない二人の方だった。


「はいはい! 場所も借りれたんだから、しっかり勉強するわよ!」

「はぅ~。まさか睡眠学習させられるとは、思わんかったよ~」

「なに上手いこと言ってるのよ! 私なんか、あんたのせいで巻き込まれたんだからね!」

「栞は、使える回復魔法全部暗記できるまで復唱。刹風は一般教養ね」


 栞は、タブレットモードで開いた画面を見て引きつる。

 分かっていたこととはいえ、かなりの量があったからだ。

 

「なぁなぁ、みらいちゃん。これ見ながらじゃあかんの?」

「私は、回復魔法の必要性をひしひしと痛感したわ。確かに回復アイテムで毒や痛みは取り除く事ができる。でも、麻痺なんかはパートナーの支援が必要になるケースもあるだろし。なによりも、そんな状態では戦闘がまともにできない事も痛い程に理解した。瞼が腫れれば視界は狭まり痛みは集中力を格段に下げ。焦りと苛立ちは戦闘意欲そのものを削ぎ落とす。そもそも一瞬の遅れが敗戦につながる可能性だってある。それらを画期的な方法で改善出来るのが回復魔法なのよ! 回復薬みたいに対象に飲ませる手間を省くだけではなく。その場での即回復が可能になれば――今後、この世界で戦い抜いて行くには、ぜひ欲しい力だと思わない?」

「あう~~~~。確かに、そうやけんども~。癒し系への道は、厳しいなぁ……」

「まずは、簡単なものだけでもいいから暗記なさい」

「了解や~……」

「で、刹風は、一般教養なんだけど、分からないことがあったら、なんでも聞いてちょうだい」

「う……」


 刹風も、栞どうようにタブレットモードで開いた画面を見ているが……目が泳いでいた。


「なるほど、最初の1問めから分からないのね」


 言うが早いか、みらいは刹風の隣に移動した。

 そして、満面の笑みをうかべながら問題の解き方をレクチャーし始めたのだった。

 今、している行為が、自分本位な考え方だと言われるのは覚悟の上。

 行ける所まで一緒に行きたいから、みらいはなるべく妥協したくないのだ。

 一緒に戦って欲しいと思うからこそ友を、おとしいれたのだ。

 例え最後は一人ぼっちになったとしても――自分だけは、逃げるわけにはいかないのだから。


 刹風の勉強を見ながらも、みらいは、調べ物をしていた。

 みらいが公式ホームページや西守限定でアクセスできるホームページを中心に見てきたのは、信頼性を重んじているからだ。

 確かにユーザー達が独自に構築した攻略ホームページの方が情報も多いし詳しく書いてある。

 しかし、全てが本当ではない。

 時としてガセネタが混じる事もあるのだ。

 万が一にでもそんなモノに踊らされて致命傷を負ったら後悔だけでは済まない事もある。

 とは言え、情報量が増える事は、ありがたかった。


「なるほど、オリジナル魔法の開発も可能なのね……」


 つい、口から出ていたつぶやきに刹風が反応してた。


「は? なにそれ?」

「基本は、リアルと同じよ。魔法を科学的現象としてしっかり理解した上で、調整するってのが一般的みたいね。興味があったら追加で教えてあげるわよ」

「う……えんりょしておきます……」

「そ、今のところ順調みたいだし、ちょっと参考になりそうな本を借りに行ってくるわ」


 と言って、みらいが持ってきた本には、おにぎりみたいな絵が描かれていてロータリー理論と書かれていた。

 残念な思考回路を持つ栞には、ネタにしか見えない。


「みらいちゃん。そんなん読んでもたっくんは、ロリコンに目覚めてくれんと思うよ~」


 むしろ読んだだけで、龍好がロリコンに目覚めてくれる本があるならば、ぜひとも読んで見たいところだが、それはココだけの秘密だ。


「はいはい、言われると思ったわ。ロータリーエンジンっていうのはね、短所もあるけれど、考えようによっては爆発的にパワーを引き出すことが出来る画期的なエンジンなの」

「で、それと、魔法となんの関係があるわけ?」

「私が、炎系の魔法使いを選んだ関係で大きなハンデを背負っているのは知っているでしょう?」

「あぁ、そういえば、言われてたわね」

「それを覆す、とまでは、いかないだろうけれど、このエンジンの仕組みを応用してオリジナル魔法を開発すれば、それなりの火力が出せるようになると思ったのよ」

「それって、やっぱり、難しいのよね?」

「えぇ、基本的には職人レベルの技術がないと組み上がらないものらしいから失敗する可能性の方が大きいでしょうね」

「げ……それでもやってみるんだ」

「えぇ、当然でしょう。とりあえず、この世界の魔法には無駄が多いことが分かったから、それを調整するところから始めて。出来る事なら改良する予定よ」

「そ、そうなんだ、頑張ってね……」

「それは、こっちのセリフよ。今やってるところ、単純な計算ミスしてるから、もう一度、良く確認して見なさい」

「げ……」

「刹風も、やればできるはずなんだから頑張りなさい」


 意味不明で、訳の分からない魔法の開発なんてものに手を出しながらも、しっかり刹風のめんどうも見ているみらい。

 そんなみらいを見て、改めてこのちびっこは、すごいんだなぁと思う刹風であった。


 その一方で、みらいは自分が言った事を実現させるためにカタカタと仮想キーボードを叩いていた。

 まずやるべきは、バランスの調整。

 炎系の魔法が、はでに見えるのは、そう見えるように調整されているからなのだ。

 対人戦ならともかく相手はモンスターである。

 はでさが必要だとは思えなかった。

 つまり、光量は思いっきり落としても問題ない。

 それと、同じで音も必要ない。

 爆音で相手を怯ませることも考慮して数値が割り振られているのが良く分かった。

 炎系魔法は、熱、音、光。

 主に、この3種類のバランスでなりたっている事が分かった。

 そこで、みらいは熱にだけ数値を割り振りファイヤーボールの演出を変えていく。

 元々は、バスケットボールくらいの火の玉だったのが。

 いまは、パチンコ玉くらいまで小さくなっている。

 その上で、シミュレーションしてみると火力が3倍近くになっていた。


(思った以上に火力上がるじゃない)


 あとは、いかにして連続発射できるようにするかが問題だった。

 とにかく思いつく限り色々と試して見る他ないと割り切ってロータリーエンジンの可能性を模索するみらい。

 その道は、だいぶ長くなりそうだった。



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