3-15

 街の外は、見渡す限り平原だった。

 他のプレイヤーは、見たところ確認できない。

 実に分かりやすい状況だ。

 大半のプレイヤーが街の外に出ないと言うのは、間違いないらしい。

 とりあえず、この世界の戦い方に慣れようと、みらいが提案し。

 各自バラバラでモンスターに挑むことになった。

 敵の大きさは、バスケットボールくらいのハチである。

 ファンシーな要素はなく、比較的リアルに忠実なため見た目的には、ちょっぴりこわい。

 それでも初歩のクエストなのだから楽勝なのだろうと判断していた。


「ほな、いくよ~~!」


 栞は、敵陣まっただなかに突っ込んでいき、ハンマーを振り回し始める。

 超重量級戦士は、その守備力も半端ない。

 そこに破壊神としてデフォルトでもっている守備力がプラスされ。

 蜂の針による攻撃を完璧に無効化していた。


「にゃあはは。これくすぐったくてかなわんよぉ~」


 命中率は低いが、当たる時は当たるもので……

 3人の中で最も早く指定された数。

 20匹の討伐に成功していた。

 

 刹風は、唯一使えるスキル。

 とんずらを使用して単独の敵にアタック。

 一撃では、倒せなかったが、相手の攻撃をひらりひらりと華麗にかわし。

 頭と胸にある的めがけて短剣を突きさす。

 基礎攻撃力は低いが、相手の行動パターンと攻撃パターンをすぐにつかみ。

 二匹目からは、あっさりと倒し始める。

 こちらも、特に問題なく20匹の討伐に成功。


 問題は、みらいだった。

 みらいの持つ魔法の杖は、スナイピング・ワンドど呼ばれていて。

 敵に向けて杖を構えると、照準器が出現する。

 その中心と、相手モンスターの弱点。

 この場合、刹風が狙っている頭かお腹にある的になる。

 その中心を狙い撃つ事が出来ればクリティカルが発生し、大ダメージを与える事ができるのだが……


 相手は、動いている。

 定期的に一時停止する時を狙い撃つしかなかった。

 それに、こっぱずかしい呪文の詠唱とやらまである。


「炎の女神フィリエルよ。我と共に敵を討て! ファイヤーボール!」


 みらいは、的の中心に意識を集中して手元のボタンを押し魔法を放つが――

 残念ながら相手が動いてしまい、かすった程度だった。

 敵意を持った蜂がみらいに向けてまっしぐら。

 あわてたみらいは、近づいてきた蜂に向かって杖による物理攻撃をしかけるが、なかなか当たってくれない。 

 それどころか、相手の針による攻撃が降り注ぐ。


「いたっ!」


 頬を刺され、瞼を刺され、唇を刺され……

 他にも、何度も刺され。

 ほぼ、何もできない状態で、やられまくりだった。 

 いくら相手の攻撃力が低いとはいえ、このままでは、いきなりの死亡扱いである。

 それを、みかねた刹風が慌てて駆け寄り蜂を撃破。

 みらいは、ホラー映画の怪物役みたいになっていた。


「だいじょうぶ?」

「ありがとう、刹風。助かったわ……」


 HP的なダメージよりもずっと痛い針攻撃だった。

 その痛みは注射並。

 激痛という程ではないが苦手な痛み。

 出来ることなら避けて通りたい痛み。

 そんな中、栞だけは命中率1億分の1という全く当る気のしない超必殺技――

 アルティメット・フォルティシモをくりだしていた。


「栞~! 楽しんでるところ悪いんだけど! みらいの治療してやって~!」

「はいなぁ~!」


 複数の蜂と一緒にみらいのところにやってくる栞。

 栞に対して敵意をむき出しにした蜂たちは刹風にとって倒しやすい的でしかなかった。


「ほな、みらいちゃんの治療するよ~」

「ええ、よろしくね栞……」

「サンタさんが・転んだ?。だるまさんが・見限った。何時が藁持て……なんやったっけ」


 回復魔法を覚えにいったが……まったく覚えられていなかった。

 栞の思考回路はネタか否かで記憶能力が極端に変わるからだ。


「HP回復魔法は、癒しの女神が一人。サクファリ・コロンよ。汝が力を持ってかの者に癒しを与えよ。で、ダルメキア・ミファエルは麻痺した者を癒してくれる女神でしょ」

「せやったっけ? あかん! あかんよ! うち復習せな癒し系になれへん!」

「わかったわ。今後にきたいしてる。楽しんでるところ邪魔して悪かったわね」

「う~~。みらいちゃん、かんにんや、怒らんといて~な」


 みらいは、ガチャのハズレから出た回復アイテムを取り出す。

 試験管にコルクの栓がしてあって、ヒットポイント回復はピンク色。

 身体のしびれを取り除く薬は、薄い緑色だった。

 両方とも栓を外して飲んでみる。

 またたくまにヒットポイントが回復して、身体のしびれもなくなり。

 オバケみたいな顔してたみらいの顔も元通り。

 空になった入れ物は、瞬時に消滅していて邪魔になることもなかった。


「あら、これってけっこう美味しいのね」

「そうなの?」

「えぇ、試しに飲んでみる?」 

「ん~~~」


 ガチャのハズレとは言え課金アイテムである。

 刹風は、お値段的なことが気になって、素直にうなずけないでいた。

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