3-14



 地図をたよりに来て見れば――


 古着買取、販売と書かれた小さな看板がある、こじんまりとしたお店だった。

 街の中は強烈な雨や風が吹くことはないので問題ないが……

 簡素なテント小屋と言うのは実に心もとなかった。


「ねぇ、みらい。ホントにココであってるの?」


 刹風が気にするのも無理はない。

 なんだか畑違いのお店に来てしまった感がいなめなかった。


「とにかく、聞いてみましょう」

「せやなぁ~。あのお姉さんが、ウソ教えるとも思えんし~」


 とりあえず店の中に足を踏み入れて見れば、それなりに中古の服は置いてあったが……繫盛しているといった雰囲気はない。

 20代後半くらいの女性が一人――簡素な椅子に座って、うつむいているだけだった。


「こんにちわ。猫屋さんで紹介されて来た者ですが……」


 みらいが、声をかけると、あわてて立ち上がり、オロオロしなだら、みらい達のステータスを確認し始める琴葉。


「あ、はい! スミマセン。ホントに来てくれると思ってなくて油断してました!」


 どうやら、猫屋の店員さんは、話を通してくれていたみたいである。

 しかし、それなのにこの反応というのは、いかがなものか。

 よほど、商売が下手なのだろうか?

 表情からも自信の無さがうかがえる。


「こちらで、服を仕立ててくれると伺ったのですが、間違いないですよね?」

「はい、それは、間違いないのですが……」

「なにか問題でも?」

「実は、私。その、洋服のデザインとか勉強する学校行ってたんですけど、才能無かったんですよね。結局、家業の農家手伝ってたりしてます。でも、子供の頃からの夢だった洋服関係の仕事したっくってお店出してみたんですけど……さっぱり売れなかったんですよね。裁縫の基礎だけは、しっかりしているので品質だけは平均以上なのですけど。でも、可愛いデザインとかカッコいいデザインとかってさっぱり分らなくって。でも、やっぱりあきらめられなくて古着の買取や販売してたり。たまに、リフォームとかしてるのです。指定された通りに改造するだけならセンスなくても技術で誤魔化しがきく部分があるので、それなりの評価も受けてたりするんですよ」


(なるほど、そういうことね)


 考えようによっては、有名どころに頼むよりも、安価で早く品物が受け取れる可能性が高いお店と言うことなのだろう。


「でしたら、問題ありません。この子が着ている服のデザインそのままでいいので耐久性の高い物で作ってもらえるかしら?」

「え? ですが、それって初期装備の服ですよね?」

「えぇ。前衛で戦うには耐久性に問題があると指摘されたものですから。出来れば予備も含めて複数お願いしたいのですが可能でしょうか?」

「あ、はい! それは、問題なくできるのですが……」

「なにか、問題でも?」

「いえ、耐久性が高い素材となりますと課金要素が含まれるので、かなり高い物になってしまうんです。それよりは普通に鎧を使った方がいいかと思ってしまいまして……」

「そんなん、いやや~! うちは、かわえぇ服がええの!」


 それに、鎧を着た戦士なんて普通すぎて面白くもなんともない。

 栞の意図を勘違いして受け取った琴葉さんは、


「そうですよね! 可愛いのは大事ですもんね!」


 ようやく、お仕事モードに切り替わってくれた。


「では、かかる予算と、納期を教えてもらえるかしら?」

「はい! 服は1着10万キャッシュになります。簡単な服ですし基本データは、簡単に入手できるものなので3時間ほどいただければ、お渡し可能となります」

「わかりました。とりあえず2着おねがいします。あ、1着は、時間内に、もう1着は、後日でも構いません」

「ありがとうございます。それでは、丹精込めて作らせていただきます」

「それと、追加で。これもお願いできるかしら?」


 みらいは、補正値が足りなかった服を出して――さらに細かい注文を追加する。


「わかりました。そのように仕上げて見せますので期待しててください。それからこの服は、修理が可能なアイテムとなりますので耐久値が無くなる前に持ってきてくださいね。格安で修理してみせますので」

「ありがとうございます。では、今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 服が出来上がるまでの時間――


 初心者向けの簡単なクエストに挑戦してみようということになり。

 みらい達は、街の外に出てみたのだった。



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