3-13


 クラン猫屋。


 そこは、多種多様な商品を扱う雑貨屋さんみたいな感じだった。

 ガチャでしか手に入らない高額アイテムもあれば、初心者向けの安い装備まで売っている。

 広々とした店内は、所狭しと商品が並べられていて、服や靴なんかも普通に売っていた。

 それらを見たみらいは、満足そに笑みを浮かべる。


「これなら、最低限の物をそろえるには、じゅうぶんね」

「って、ゆーか、この品数ってダンジョンとかでゲットしてきたアイテムだけじゃないよね!」

「うち、この、きつねさんセットが欲しい!」

「はいはい。ちょと待ってなさい」


 栞が、欲しがっていた、きつねさんセットには、大特価の赤紙が張られていた。

 いかにも訳あり商品っぽい。

 そこにちょうど猫耳を付けた店員さんがきたので、みらいが確認してみた。


「あの~。すいません、この商品ってなにか問題があるのでしょうか?」

「あ~~~。これですかぁ」


 黒髪の女性店員さんは、なんかものすごくもうしわけなさそうな顔して説明してくれた。


「実はこれ、私が開発した商品なのですが……相当の筋力がないと動かせないことが判明してしまいまして。実質今私が付けている猫耳と大差ないんですよねぇ」

「ほぇ~。この尻尾と耳って動かせるん!」

「あ、いえ、あくまでも理論上の話でして実際には不可能に近いんですよ」

「みらいちゃん! うち、やっぱり、これ欲しい!」

「はいはい。まぁ、このくらいの出費ならいいわ」

「え~~~! ホントに買われるんですか!? ただの飾りならもっと安いのありますよ!」


 商売っ気が、あまりあるように見えない店員さんは普通の尻尾と耳飾りを進めてくるが、みらいには確信に近いものがあったから押し通した。


「いえ、仮に動かなかったからと言って文句言ったりしませんので購入させてください」

「はい、分かりました。では5万キャッシュになります」


 その場で、みらいが会計をすますと早速とばかりに栞が尻尾と耳を付けてみる。


「ん~~~と、これがこんな感じでこうなるから、こうや!」


 いきなり尻尾がフリフリとしはじめた。


「お~~~! かわええなぁ」

「って! なんでいきなり動かせるんですか!?」


 店員さんが驚くのも無理はない。

 なにせ、並みの筋力では絶対に動かせない欠陥品だからだ。


「実は、この子、こう見えて超重量級戦士なんですよ」

「いえいえ。だからと言っていきなり動かせるようなものじゃないはずなんです!」


 目を丸くして驚いている店員に対し、みらいはしれっと言ってやる。


「まぁ、非公式ですが重量上げの世界記録も持ってますし、その影響もあるのではないでしょうか」

「えぇぇぇ! 世界記録保持者ですか!」 

「なぁなぁ、みらいちゃん。耳も動かしてみてるんやけど、きちんと動いとる?」

「えぇ。きちんと動いてるわよ。さすがね栞」

「ほな、秘儀空中浮遊や!」


 尻尾を真下に向け、体育座りをする栞。

 見事にバランスを取って尻尾だけで身体を支えていた。


「うぇぇぇ! そ、そんな事まで出来るんですか!」

「いやぁ、えぇ買いもんさせてもらいましたわ~」

「こちらこそ、不良在庫を買い取って頂きありがとうございます。それから耳には聴覚補正もありますので良かったら試して見てくださいね」

「了解や! ほな、武器も見せてほしいんやけど。でっかいハンマーとかある?」

「はい、ご案内いたしますね」 


 店員さんに案内された場所は、店の奥の方で各種武器が置かれていて値段は、バラバラだった。


「こちらは、基本的にモンスターからドロップした品になりまして。需要と供給の関係で値段は、性能に比例しませんので、ご了承してください」

「みらいちゃん。うち、このビックオーガセットが欲しい!」

「はいはい」


 さっき買った、きつねさんセットよりも安い所をみると需要がないのであろう。

 特に装飾とかのないどでかいハンマーと、自分達の身長よりも大きな盾がセットで4万キャッシュ。

 実にお買い得である。


「ちなみに、耐久性は、どうなのでしょうか?」

「いちおう超重量級戦士用の武具ですのでそれなりには、ありますが……」


 店員さんの目が、栞のしっぽに流れる。


「あまり無茶な使い方をされると消滅してしまいますので、耐久値には気をつけてください」

「わかりました。では、とりあえず2セットもらえるかしら?」

「はい、ありがとうございます。それと、さしでがましい事かもしれませんが、持ち物の出し入れってご存知なかったりします?」


 みらいは、完全マニュアルモードで常に仮想キーボードを使って物の収納をしていたが、刹風と栞は、手にした物を、そのままにしていたのだ。

 二人とも、みらいがやっているのを見て、めんどくさそうなので後回しにしていたのである。  


「あの~。もしかしてキーボードモード以外でも物の出し入れって出来たりするんですか?」


 刹風の質問に対し、猫屋の店員さんは、にっこりとして教えてくれた。


「基本的に、発音による出し入れですね。例えば、黒縁メガネを装備! って言えば、ご覧のように眼鏡が装備されます。先ほどのように直接くっつけることも可能ですが、装備品の脱着は発音によるものが一般的ですね」

「へー、そういうものなんですね~」

「ですので、スリッパ収納と発音して下されば、持ち物は瞬時に収納されますし、装備をかえる時は、チェンジと発音して下さればOKです」

「ほな、うち、試して見るよ~。回復術師見習いの服を装備」


 可愛らしい、白狐の誕生だった。


「うん、いいじゃない栞。とっても似合っているわよ」


 みらいが褒めると、刹風も続く。


「そうね、いいんじゃない」

「そう! うちかわえぇ!?」

「えぇ。とっても可愛いわ」

「あのう、喜んでいるところに水を差すようで申し上げにくいのですが……もしかして、その服で戦闘をされるのでしょうか?」

「せや! うちは、このまま戦うよ~!」

「でしたら、耐久値には特に注意してください。すぐにダメになってデフォルトの姿に戻ってしまいますので」

「そうなんや……」

「特定の装備品以外は修理できない仕様になっておりますので、どうしても似たような服が欲しい場合は仕立て屋さんにお願いするしかないですね」

「ちなみに、お薦めの仕立て屋さんって知ってたりします?」


 栞の残念がる顔を見た、みらいが仕立て屋さんの情報を入手しようとこころみる。


「はい、もちろん知ってますよ。有名どころではないですが、琴葉ことはさんのお店の情報を送りますね」


 みらいの画面には、新たに仕立て屋さんの位置情報が追加されていた。

 街の中心から離れているところを見ると隠れた名店なのかもしれない。


「ありがとうございます。良かったわね栞。同じ服作ってもらえそうよ」

「ほんまに! ありがとうやぁ! みらいちゃん!」

「えぇ、では、先ほどの2セット、会計お願いできるかしら」

「はい。持つのは栞様でよろしいのですよね?」

「えぇ。それでお願いします」

「栞、大事に使うのよ」

「了解や~!」


 とりあえずの買い物を終了した、みらい達は、仕立て屋さんに足を向けたのだった。



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