3-11



 戦士連合組合。


 もっとも人が多く、潤沢な資金があるだけあって、どでかい訓練施設の一角が受付。

 栞の担当者はガタイの良いハゲたおっちゃんだった。


「おっちゃん! 今日からよろしゅうなぁ!」 

「はいはい。栞様ですね。案内所の方から話は伺ってますのでこちらをどうぞ」


 おっちゃんは、安物の長剣を栞に手渡した。


「ありがとうやぁ!」

「それにしても素晴らしいですね! いきなり上級職になられるなんて!」

「せやろ! うち、非公式やけんど重量上げの世界記録もっとるんよ!」

「なるほど! そうでしたか! いや~。実に素晴らしい!」

「それは、それとして、なんや試験みたいなもんがあるちゅーて言われたんやけんど」


 おっちゃんは、ハゲた頭をペチリとやると、


「あぁ、そうでしたそうでした。すみません優秀な方が来られると聞いて舞い上がっておりました」


 きちんとした説明を始めた。


「まずは、あちらに見える訓練施設にて技の習得や初級試験を行います」


 言われるまま、おっちゃんの視線の先を見ると、多くの者が岩に向かって、


岩斬剣がんざんけん!」


 と言って、岩に切りかかっていた。


「ちなみに岩斬剣と言うのは、戦士系の方が最初から使える技なのですが、あのようにして訓練しないとなかなか綺麗に岩を切る事が出来ないんですよ」

「ほぇ~。そうなんやなぁ」

「そして、初級試験と言うのは、あの岩を破壊する事なんですよ」

「岩斬剣とかって技で、切るんじゃないん?」

「いえ、もちろん切ってもOKですが。大抵の場合は、ご覧のように力任せで砕いて試験突破される方が大半なので」

「なるほどなぁ~。ほんならうちも挑戦してみてもえぇ?」

「はい。それでは、一発合格するところを拝見させていただきます」

「ほな、行ってくるなぁ」


 栞は、担当のおっちゃんに手を振って、刹風が見学していた所にやって来た。

 その後に、みらいも続く。


「あんな、あんな、うち前から全力でやってみたいネタあったんよ! ココで披露してもええ?」

「ハイハイ、好きにやんなさい」


 刹風が見学させてもらっていたオジサン達に声をかける。


「すみません、この娘お笑い芸人志望なんです。なんかネタやりたいみたいなので代わってもらってもいいでしょうか?」

「ああ、いいって、いいって。俺達もちょっと休憩しようかって思ってたところだから」

「俺らも新規できた時は先輩達に良くしてもらったもんさ」

「で、どうだい? いきなり技盗めって言われても難しいだろうが参考になったかい?」

「はい、ありがとうございます。あとは実戦で試して見ます」

「そうかい。上手くいかなかったらいつでも来な。運が良ければ腕の良い剣士が手本見せてくれるかもしれないからな」

「え? 上級者さんでもココに来たりするんですか!?」

「あぁ、新人の育成に力を入れているギルドなんかがサービスで俺達なんかも面倒見てくれるのさ」

「そうなんですね!」


 刹風の目がキラキラと輝いていた。

 どうやら剣士にあこがれを抱いたようである。


 それは、それとして――栞は、岩の隣に立っていた。


「ほないくよ~!」


 栞が声を張り上げると、刹風もそれにこたえる。


「ハイハイ、後がつかえてるんだから手短にしなさいよね~」

「了解やぁ」


 こほん、と咳払い一つ。


「どもー。しおりんでーす!」


 し~ん……


 岩は、何もこたえない。


「あんたなに岩みたいになっとるん! きちんと自己紹介せいってゆっとったやろうがぁ! 」


 ☆ズドン!☆


 渾身のツッコミ。

 手の甲が岩にめり込み粉砕していた

 ファンファーレが鳴り響き、若い女性の声で、


「おめでとうございます。戦士見習い卒業試験合格です」


 というアナウンスが流れた。


「はえ? もう終わりなん?」


 ずかずかと刹風が早足で近づき、手にしたスリッパで栞の頭を。


 ☆バシン☆


 と、はたく。


「終わりもナニも相方居ないでしょうが!」

「あやや! いわぽんがおらんくなっとる! 初舞台で逃げるなんてえー度胸しとるやないか!」


 ☆バシン☆


「あんたが消し飛ばしたんでしょうが!」

「なにゆーとるん! うちまだ、ノリツッコミも出しとらんよ!」

「知らないわよ! って、ゆーか消し飛ばしちゃってどーすんのよ! コレ!?」


 刹風は、オジサン達の練習が出来なくなってしまったのではないかと焦るが、


「あ~。大丈夫だ気にしなくていい! 時間が経てば元通り復元されるから!」


 刹風達のやり取りを笑って見ていたオジサンの一人が教えてくれた。


「そうなんですね! なんかスミマセンでした」

「いーって、いーって。それよりもすごいね、お嬢ちゃん! この試験をツッコミでクリアした人初めてみたよ!」

「そうなん! うちが初めてなん!」


 栞は、大喜び。


「当たり前でしょうが! あんた以外で、だれがこんなことするってのよ!」

 

 一見、お笑いネタとして受け入れられているみたいだが、みらいは不安をつのらせていた。


 武器は、基本的に消耗品であり、耐久力がなくなればあっさりと折れてしまう。


 果たして、栞の力に耐えられる武器は、この世界に存在するのだろうか?



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