3-10



 先ほどの大失態を、まるで何もなかったかのように――

 みらいは、次の目的地に向け、率先して足を進めていた。 


「シーフの隠れ家ってのは、ここね……」


 見た目は、普通の一軒家で、どちらかというと小さめ。

 看板等もなく、地図を頼りにしてこなければ完全にスルーしてしまうくらい、これといった特徴のない建物だった。

 いちおう入り口らしきものは見て取れるが……


 ――本当にココで良いのだろうか? 


 みらいが二の足を踏んでいると、ノックもなしで刹風がドアを開けてしまった。


「ちょっと!」

「場所は、合ってるんでしょ? だったら入って見ればいいだけじゃない」

「それは、そうだけど……」


 開いたドアから見えるのは、本棚だけで他には家具もなければ人も居ない。


「ん~~~。なんや殺風景なとこやねぇ」


 栞の言葉に、みらいも同感し、改めて地図と現在地を確認する。

 場所は合っているのに誰も居ない……

 それなのに、


「じゃぁ、行こう」


 と言って刹風がずかずかと中に入って行く。

 しかたなく、みらいと栞も後に続くが、本棚以外に何かあるようには思えなかった。

 それなのに、刹風は迷うことなく本棚の裏に回り込み階段を下り始めた。


「あやや~。なるほど、こうなってたんやねぇ」

「って、いうか、刹風。良く分かったわね?」

「え? だってさっきの入り口の下の方に書いてあったじゃない。『本当の入り口は、本棚の裏にある』って」


 みらいの記憶には、そんなモノなかった。


「良く気付いたわね」


 もちろん栞の記憶にもなかった。


「さすがせっちゃんや! 目がえぇなぁ」

「いくら小さく書いたって、私の目は、ごまかせないわよ」


 さも、当然とばかりに刹風は言っているが。

 実際のところ、大半がそれに気づかづ、職業案内所に戻って文句を言うと言うのが普通だったりする。


 階段を下りると、薄明かりの中――無精ひげをはやしたおっさんが居た。

 みらい達のステータスを確認すると、刹風と目を合わせる。


「おう、あんたが今日から新たに同業者になる刹風だな」


 なんというか、がさつで、いいかげんそうな雰囲気が漂ってくる。


「はい、そうですけど、初心者用の装備もらいに来ました」

「がはははは、装備っつても、短剣一本だけだけどな」

「え? それしかもらえないんですか!?」

「あぁ、基本は盗むことって言いてぇところだが、下手なことすりゃペナルティ食らうからな。盗むのは技だけにしとけ」

「はぁ、技ですか……」

「あぁ。俺達シーフには見盗りってスキルがあってな。それは常に発動してる。その気になれば、どんな技だって盗むことが出来るはずさ!」

「え? じゃぁ、私も攻撃魔法とか使えたりするんですか!?」

「がはははは、まぁ大抵不発に終わるがやってみたかったらやってみな」

「はぁ? なにそれ!」

「単純に、盗んで自分のモノにするってのは、それだけ難しいってことさ」

「なんか、ゲームっていうより、リアルっぽい話ですね……」

「そりゃ、そうさ。リアルだって物覚えの良いやつと悪いやつがいる。シーフになったからって簡単じゃないってことさ」

「わかりました。じゃぁ、とりあえず短剣ください」

「ほれよ」

「ありがとうございます」


 いちおう礼は言ってみたが……

 手渡された短剣は、いかにも安物って感じで見栄えもいまいちだった。


「それから服は服屋。靴は靴屋できっちり買いな。間違っても盗んだりするんじゃねぇぞ!」

「分かってますよ!」

「あぁ、あともう一つ。シーフってのは、己の道を探すことだと思ってくれ」

「なんですかそれ?」

「安物の短剣だって使い方次第で色んなことが出来る。それと同じさ。自分をいかに使って生き抜いていくか! それがシーフマスターになる道ってやつよ!」

「よくわからないけど、分かりました」

「んじゃ、また何かわかんねぇ事があったらいつでも来な!」

「はい……」


 そう言ってシーフの隠れ家を後にする刹風達だった。



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