3-9




 まずは、一番近い魔法協会に行くことになった。

 初期装備等をもらうためである。

 歩いて数分ほどで少し古びた洋館みたいな感じの建物が見えてきて――

 中に入ると、外観からは予想できないほど近代的でゴージャスな感じだった。

 特に女性の人気が高いという理由からお着替えコーナーが充実している。

 実際に魔法職でなくとも、着て見るだけならだれでもOKなため、それなりに人も居てにぎわっていた。

 栞は、興味を惹かれたらしく、うらやましそうな顔して見ているが。

 見た目よりも性能にしか興味のない、みらいがどんどんと奥の方にあるカウンターに行ってしまうので――しかたなく付いていくのだった。


 カウンターの向こう側に立っている黒ずくめのオジサンは、まるで映画に出てきそうな格好をしていた。

 いかにも、魔法使いっぽいたたずまいである。


「こんにちわ。こちらで初期装備一式をもらえると聞いて伺った者です」

「魔法協会へようこそ、みらい様。お話は、職業案内所の方からうかがっておりますが……」


 なぜかオジサンは、すっごく申し訳なさそうな顔をしている。


「なにか、問題でもあるのでしょうか?」

「実は、初期装備の。特に衣装が大変不人気でして……その理由から魔法職を選択したくなくなったという者が何人もいおられまして。上の方からも、『これは業務妨害だ!』と言う意見がありまして、公式のホームページからも画像を削除する事態になっておりましてですね……」

「私は、見た目なんか気にしません。能力値にプラス補正があるのは間違いないのですよね?」


 みらいは、どこまでも冷静に事を進めようとするが、オジサンの反応は、すこぶる悪い。


「はい。それは、そうなのですが……正直なところ、何を考えてこのようなデザインを採用したのか。担当者的には初心者らしさを強調したかったらしいのですが、ダサイ、バカみたい、そんなもの着るくらいなら要らないと言うのが一般的でして。極々僅かにいらっしゃるマニアックな方からの熱烈な支持を得ている以外は全く人気がなく。どうしていまだに、初級者用の魔法服が見直されないのか。ただ単に担当者の趣味なのかはっきり言っていい迷惑なんですよねー」

「言いたいことは、分かりました。では、渡して頂けないでしょうか?」

「ですが……」

「私は、当然の権利を主張しているだけです」


 いいから、早くよこせとばかりに、みらいは、手を出すが……

 それでも、オジサンの反応は悪かった。


「では、こうしましょう。試着することも可能なので、まずは試着スペースにて試着して頂いて、それでもかまわないという判断をされたなら差し上げる事にいたしましょう」

「は~~~~。わかりました」


 ここで問答もんどうするよりもオジサンにしたがった方が話が早そうだと判断したみらい。

 そこで、栞が口をはさんできた。


「ほな、こんりいんざい、これからみらいちゃんが初心者用の魔法服着てる姿は見れないってことなん?」

「はい、確実にないと断言出来ますね」

「ほな、記録とっとかなあかんなぁ」

「私は、そうならない事を祈るけどね」


 そして、案内されるまま、みらいが円板状のステージに乗ると、


「で、では、試着を開始します」


 オジサンは、罵声を浴びる覚悟で、円板の近くに浮いている半透明の画面に触れて試着モードを開始した。

 すると、黒いティーシャツにジーパン姿だったみらいの姿が一瞬でワンピースタイプの初級魔法服に切り替わっていた。

 その姿を見た刹風は、硬直し。

 栞は大絶賛した。


「みらいちゃん、かわえぇ~!」

「そ、そう?」


 不人気だと聞いていただけにキラキラとした栞の瞳の意味が、みらいには、理解できなかった。


「確かに、良くお似合いです。よもや、この服をここまで見事に着こなす方がおられるとは思いもしませんでした」


 オジサンは、まるで孫を見るようなやさしい目をしている。

 こちらの、感想も悪くない。


「きゃー。見て見て、あの子可愛い!」

「ホントだ、可愛い!」


 試着スペースで、お着替えを楽しんでいた女性陣からの反応も悪くない。

 起動しているエッグの画面に映し出されたみらいを保存していた。

 もちろん準備していた栞も録画モードで記録している。

 身長120センチ。

 体重18.8キロの性能をフルに生かしきったみらい。

 素晴らしい戦闘服に身を包んで魅せていた。

 まるで、てるてるぼうずにでもなったかのような、だぼっとした空色のワンピースは、スカートの裾の部分だけ簡素に茶色い糸で装飾が施されている以外は全く魔法使いっぽくない。

 肩を膨らませたちょうちん袖の手元は、動き易さを重視しているためか紐で絞れるようになっていて、杖を振り回す時に裾が引っ掛かる心配はなさそうだった。

 みんなが絶賛してくれているのだから、それほど悪いものではないのだろうと思い。

 振り向いて鏡を見たみらいは絶句した。

 鏡に映るその姿は、いつか見せてもらった龍好の記録映像。

 幼稚園で砂遊びをしている時に着ていたスモックによく似ていた。


「なぁ、おっちゃん。 黄色い帽子はないん? 」

「プッ、アハハ……」


 刹風は、栞の提案がドストライクだったため、人目もきにせず腹を抱えてのたうち回っていた。


「あ、はい。グラフィック上だけでしたらサンフラワーセットの帽子は黄色っぽいですので、これでいかがでしょうか?」


 綺麗に装飾されたレモン色の帽子は逆にした台形で。

 両端にオレンジ色の刺繍が幾何学模様を描き、額には極小の宝石が五法星を型どり高級感あふれる艶やかさを持っていた。

 のに…… 今の、みらいがかぶるとただの黄色い通園用の帽子にしか見えない。

 いくら賛辞をもらっても惨事でしかなかった。


 ――って、ゆーか園児にしか見えない!


 みらいは真っ赤な顔して半泣き状態。


 正に現役の園児。

 年齢制限のあるリトライにまさかの幼稚園児が降臨していた。


「く~~~」

「アハハハ。みらい、最高、かわいい、似合ってる!」


 リトライに立ち入ってすぐに、こんな羞恥プレイをやるはめになるとは全く思ってなかった。


「いやはや、先程までの勿体ぶった態度、平にお許し下さいませ。とても良く似合てっいらっしゃいますし、とてもかわいらしいですよ」


 オジサンの顔は、まるで保育園で遊ぶ我が子を見守る優しい父親のようだった。

 みらいは、何も言わずにステージから下りた。

 そして、深々と頭を下げる。


「申し訳ありませんでした。貴方のおっしゃる通り私好みのデザインでは、なかったようですので……杖だけにしてもらえますでしょうか?」

「そうですか……とてもお似合いでしたのに残念です」


 オジサンは、心底残念そうに杖だけを手渡してくれたのだった。



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