3-8

「は~」

 

 みらいは溜め息一つ吐いて、栞を弁護する。


「では、確認して欲しい事があるのですが」

「はい、なんでしょうか?」


 おねーさんは、何でも来なさい。

 私に知らないことはないんですよ~、と微笑む。


「栞は、確かにおばかなところがあるのは否定しません」

「うう~、みらいちゃんひどい~。うちの……」


 みらいは、栞の抗議を手でふさいで制す。


「栞は、ちょっと黙ってて!」


 栞は、みらいの鋭い眼光に頷いてこたえた。

 みらいはちょっと……いや、かなり頭にきていたのだから当然眼も厳しくなる。

 先程の最大マジックポイントの大幅な削減はいくらなんでも酷すぎると感じたからだった。

 みらいは、「こほん」、と咳払い一つして先程言わんとしたことを叩きつける!


「確かに、栞の成績はあまりよくありません。ですが! 看護の知識。一般家庭で出来る治療から、救命措置の手順までしっかり知識として蓄えています! そして、それを証明するために昨年末に行われた試験にも見事に合格し非公式ながら準一級の資格を持っています! それでも、ペナルティの対象になるのですか!?」

「なるほど、それは申し訳ありませんでした」


 おねーさんは、うやうやしく頭を下げる。


「では、ペナルティの取り消しをお願いします」


 みらいが、ほっと一息ついて微笑んだのもつかの間。


「残念ながらそれは出来ません」

「なっ! なぜですか!? 先程、の内容では不足だとでも言うのですか!?」

「そうではありません。先程のお詫びの意味を取り違えられてしまったことも私の説明不足として反省しております。ですので、今一度ご説明をさせて頂きます。回復系統の魔法使いになる敵性として優遇される条件は、医療の現場に就かれている方。介護やボランティアで活躍されている方等が主となります。そして、その他の条件として栞様は、昨年末に行われた。医療知識検定において合格ライン80点のところ98点で合格という素晴らしい成績を残し、二級以上の資格ありと判断され準一級の資格を持っておられますよね。それにより回復系魔法使いとしての資格は充分に持っていらっしゃいます」

「では! 問題ないではありませんか!」

「はい、一見問題ないように思われても仕方ないのですが……ここが私の説明が足りなかったところでして。残念な事に栞様の場合。その試験内容に問題がありまして、一般人では回答不能な国家試験レベルの試験内容でありながら98点という高得点を取ってしまったため。回復系の魔法使いを選択した場合、全ての能力が平均値を大幅に超えてしまうのです。そのためレベル1の回復魔法ですら大幅にマジックポイントを消費してしまうことになります。本来であればこれほどの医学知識をお持ちの方ですと一般教養も相当のものですので、大幅なプラス数値が発生し全く問題にならないはずなのですが。栞様の場合は逆でして、基礎能力が現役の看護師並みと評価されてしまっているのに対し、知識レベルで大幅なマイナス数値が発生してしまっています。そのため本来プラス数値を与えるために作られた計算方式が、まさかのマイナス方向に働いてしまいまして。結果として最大マジックポイントがゼロ。もしくはマイナスという悲しい状況になってしまうのです……ご理解いただけましたでしょうか?」

「え~~~と、つまりどういうこと?」

「うち……なんとなくわかったかもやぁ」

「つまり、知識が偏り過ぎてて善人バカになってるってことよ……」


 みらいは、栞の頑張りが決して否定された訳ではなく認められた上での判断ならばと納得していた。


「それでは、改めまして。私が推奨する提案を申し上げます。先ず、先程申し上げました。超重量級戦士になる事をお勧めします」


 みな一様に、そのネタは、もういいからって顔をしている。


「そして、英雄ポイントとして、先程の功績により回復系統の魔法使用許可が得られます」

「うち、回復魔法使えるん!?」


 ふさぎこんでいた栞は、復活した!


「はい、当然ではありませんか。あれほどの成績を残されているのですから。特に栞様は治療行為に対する知識レベルが高いので回復系統の魔法は、ほぼ全てが習得可能になっております。つまり、栞様の場合は例えどの様な職業を選択したとしても回復魔法は使えるということになりますね。それも、平均的な回復魔法使いと同等か、それ以上と思って下さって結構ですよ♪ そして、これが極めつけなのですが。超重量級戦士は上級職となりますので先程申し上げた最大マジックポイントも当然のこと、ベストマッチ職業を選択された恩恵として更にプラス数値が発生しますので回復魔法を存分に使って頂けるかと♪」

「ちょっとまってくださいよ!」

 

 刹風は、それはおかしいんじゃないかと意義を唱える!


「はい? ご質問がおありのようでしたらどうぞ」 

「なんで、戦士になるとバカなのにマイナス数値発生しないんですか!?」

「それでは、ご説明致します。魔法職系統は主に知力。それは知識、演算能力、語学力等で判断されます。それに対し、戦士系統は体力と力。はっきり言って、テストが全問不正解だったとしてもそれほどマイナス数値は発生したしません。だって、バカにペナルティ与えてスキル使えなくしちゃったら、ホントにただ殴るだけの体力馬鹿になっちゃうじゃないですか! って言うのが戦士系に対してマイナス数値が殆ど発生しない理由なのです」

「うわ……なんか、すっごく納得できちゃったかも」

「ご理解頂けて幸いです」


 栞は大喜びしていた。


「やった~。うち癒やせる戦士になるよ~♪」


 みらいも栞の積み上げてきた物が無下にされる事なく生かされたことが心から嬉しかった。

 それに対し。

 刹風だけは、すねていた。


「なんか栞だけずるくない?」


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