3-3

 驚いている、お姉さんに向かって、みらいは、しれっと言う。


「そんな些細な事は、最初から分かっています。むしろ、そのくらい丁度いいハンデだと思っているくらいですから」

「そうですか……」


 やはり本格派で行くと決めてる連中は、一味違うなと思いながらも、お姉さんは仕事を進める。


「それでは、チーム名を決めちゃいましょう」

「それやったら、マジカル☆詩音♪がええ!」


 栞は、これしかないと声を張り上げるが、お姉さんの表情は渋い。


「たいへん申し訳ございませんが、それらアニメのタイトルとかは、だいたい使われちゃってまして……漢字にしたり記号を変えたりも一通り使われちゃってますので難しいかと……」


 比較的大き目で半透明の画面をお姉さんが表示すると、そこには似たような名前が羅列していた。


「そんなら、真剣狩る☆死怨♪でお願いします~」


 栞が、そこに載っていない名前を指で書いてお願いすると、お姉さんは引きつり、


「ちょっと! 私、そんな不気味なの絶対に嫌だからね!」


 刹風は猛反対――それに、みらいも続く。


「刹風の言う通り、私も、そんなの嫌よ! それに、真剣狩る、にした時点で、ひらがなも選べるようになるんだから、真剣狩る☆しおん♪でいいじゃない!」

「いやや! うちは漢字の方がかっこええと思う!」


 にらみ合う、栞と、みらい。

 そこに、お姉さんが、めんどくさいことは後回しにしましょうと、提案してくれた。


「でしたら、チーム名に関しては仮押さえと言うことで後にしませんか? もちろん、お金はかかりますけど」

「わかりました。では、それでお願いします」


 こんなところで無駄に時間を使いたくなかった、みらいは、お姉さんの案に乗る。


「あ、支払いは、私がしますので。私の口座から引き落としといて下さい」

「ありがとうございます。それでは、チームを結成した際にギルドかクラン名として表示される事になりますが、どちらがよろしいでしょうか?」

「一般的に、本格派はギルド。それ以外はクランと言うのが通例なのよね。どっちにする?」

「うちは、クランがええ!」

「私は、どっちでもいいわ」


 みらいの質問に対して、栞はクラン。

 刹風は、どうでもいいみたいだ。


「私としては、本格派で行く以上、ギルドの方がいいと思うんだけど……」

「うちは、クランの方がええの!」

「でも、それだと遊び半分だと思ってなめられる可能性もあるわよ?」 

「ツッコミどころは多い方がええに決まっとる! せやからクランがえぇの!」

「はぁ~。そういうことね……」


 みらいは、諦めて栞の案を受け入れる事にした。


「ちなみに、クランを選択した場合で、トラブルになりそうな事とかってあります?」

「おおむね、下調べされてるみたいですし、みらい様の思っている通りでいいと思います。ですが、クランだからといってバカに出来ないようなクランもありますので、あまり気にしないでよろしいかと」

「そうなんですね」

「ええ、大手を紹介させていただきますと、猫屋というクランがありまして。中途半端なギルドなんかとか比べ物にならないくらいの武闘派でして、基本的にやっていることは商売なのですがアイテムの入手は自給自足をもっとうとしてるため相応の強さがないと入隊が認められないと言う厳しさも持っていますから」

「そ、そこってアルバイトとか募集してたりはしないんですか!?」


 目が完全にお金に変わってる刹風が食いつていた。


「残念ながら、今の刹風様のレベルだと厳しいですね。それにアルバイトをご希望でしたらレストラン系がおすすめです」

「う~ん。やっぱり、一攫千金は難しいかぁ……」

「まぁ、実際に行って商品を見てみるのも良い勉強になりますし、猫屋さんの位置情報は提供できますが、どうしましょう?」

「ぜひお願いします!」


 この世界での相場を直に見れるのは、なによりもありがたい。


「わかりました。では位置情報を送りましたので確認してみてください。エッグの使い方は基本的にリアルと同じですので――大丈夫ですよね?」

「はい! エッグ・オン! 猫屋の位置情報表示して」


 刹風が自分のエッグに指示をすると半透明のウインドウが開いて猫屋の位置情報を分かりやすく表示してくれていた。


「はい。ばっちりです! ありがとうございます! 今日、時間あったら行って見よう!」

「はいはい。時間があったらね……」


 ロビーでの会話なんて5分で切り止めて試験に挑むつもりだった、みらいからしたら大幅に時間をロスしてしまっている。

 それだと言うのに、お姉さんの説明は、まだ終わっていなかった。


「それでは、重要事項としまして、セクハラについて説明させていただきます」

「それも、一通り事前に調べてあるので、後で私の方から説明するって事でスルーさせてほしいのですけど」

「まぁまぁ、そう言わず。百聞は一見にしかずと言うじゃないですか! 特に女性スタッフが中心となり開発しましたので安心して可愛い恰好ができますよ。友人登録していないプレイヤーに対し不適切な行為をはたらこうとするとこうなりますって言うのを見てください」


 お姉さんは、特に頼んでもいないのにスカートのすそをつかむ。


「例えば、今日の私の下着は、ピンクのレースなのですが、この様に見えるのです!」


 がばっと、持ち上げたロングスカート!

 その中身の代りに!

 視覚データを差し替えらた映像が三人に叩き込まれた!


 そして、その破壊力はかなりの物だった。

 栞は目に涙を浮かべ。

 刹風は、こみあげてくる物をおしとどめ、みらいは硬直していた。

 それぞれに精神的ダメージを与える仕様になっているからだ。

 栞の目には、油ぎった中年オヤジが詩音の服を着ていて、スカートをめくり。

 履いているピンク色のブルマを見せつけている姿が映っていた。

 濃い脛毛と無駄に盛り上がった股間部が栞の脳裏に焼き付いてしまった。


「あとは、なにか質問がありましたらどうぞ~」

「いえ、もういいです……」


 みらいは、そう言って振り返り出口らしきものを探すが見当たらない。

 栞や、刹風も同様に、この場から早く出たいと思っていた。

 お姉さんの顔と、差し替えられた画像の記憶が重なり気分が悪くなりそうだったからだ。


「それでは、ここもリアル。NPCは居ません。NPC役が居るだけですので言動には注意してください。最悪リアルで訴えられることもありますので。三人とも、よろしいですね?」

「はい」

「わかりました」

「了解や~」


 三人が了承するとようやく扉が現れ、気分を一掃する景色を拝めたのだった。


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