3-2


 三人目――


 みらいがINしたところから自動で開始され。

 そこは安いビジネスホテルみたいに簡素なロビーだった。

 カウンターの向こうで20代半ばの女性スタッフがにっこりしている。

 シャレなのか、お洒落なのか?

 この世界では、デフォルトなのか?

 可愛らしい鮮やかなブルーのメイド服を着込んでいる。

 ところどころにあしらわれた白いフリルが幼さを演出し、胸部をアピールするデザインは大人の女性らしさを強調していた。

 そのNPC役のお姉さんは、満面の笑みで決まり文句を口にする。


「リトライの世界へ、ようこそおいでくださいました。ここでは、努力と主にお金次第でリアルで叶わなかった夢を叶える事が出来るようになっております。プレイの方向性は、お決まりでしょうか?」

「本格派で行くので、そっち方面のアドバイスだけ簡潔に教えてもらえるかしら?」


 まともに相手にしているとかなりの時間を消費してしまう可能性がある。

 そこで、みらいはやや冷ややかな声色でお姉さんに願い出ていた。


「え……?」


 しかし、お姉さんの反応はすこぶる悪い。


「え~と、確認させて頂きますが、みらい様、栞様、刹風様の三人だけでプレイされるのでしょうか? それともすでに大手のギルドとリアルで交流しており、その傘下に加わる事が決まっていらっしゃるのでしょうか?」

「とりあえず、この3人だけで進める方向でアドバイス願えるかしら?」


 お姉さんは、盛大にため息を吐くと、貼り付けていた笑顔を止めて対応し始めた。


「いるんですよね~、たま~に、あなた達みたいに勘違いしちゃってる人が……」


 刹風は、ぼうぜんとしてしまい。

 栞は、詩音の必殺技を教えてもらう事しか頭になく、スルーしてみらいに丸投げした。


「勘違いしているのは、貴女の方ですよ。私達は、本気で本格派の道を進むためにココに立っているのですから」

「ふ~ん。じゃぁ聞くけど、メリットよりもデメリットの方が圧倒的に多いってことも理解した上で言ってるって解釈してもいいのよね?」

「ええ、それでいいから、端的に説明願えるかしら?」


 お姉さんは、もう一度、盛大にため息を吐く。


「だったら、まずはテスト会場に行って筆記試験。その後に職業の選択ってのが一般的だけど……いいわ、今ここで適性検査してあげる」


 やや厳しい目つきになったお姉さんは、みらい達のステータスを確認する。


「げ、マジですか……コレ?」


 目をこすりながら何度か確認するが、明らかに栞のステータスが、とある方向に飛び抜けていた。

 現時点ですでに最強クラスの攻撃力を持っていたからだ。


「あははは。これはこれは、失礼しました。確かにこれなら本格派で進めたくなる気持ちも分かりますね……」


 笑ってごまかしているお姉さんに対し、みらいはどこまでも冷ややかに話を進める。


「では、私達に適した職業を教えて頂けるかしら?」

「そうですね。まずは栞様。おそらくこれだけの数値があれば上級職の超重量級戦士がベストかと思われます」

「いやや~! うちは回復できるヒーラーが、ええの!」


 お姉さんは、栞の発言に、やや困った表情を浮かべるが、すぐに取り繕う。


「ご安心くださいませ、栞様。職業は、簡単に変更できますので、とりあえず超重量級戦士として進めてみてから考える事をお勧めします」

「ん~~~。そんなら、とりあえずヒーラーから始めてもええの?」

「はい。もちろんそれでもかまいませんが、私の個人的な見解として超重量級戦士を、お勧めします」

「あとなぁ、あとなぁ! うち、詩音ちゃんの必殺技使えるようになりたいんよ!」

「あ~。コラボの特典ですね! それでしたら期間内に始めた方及び既存のプレイヤー全てが、対象になっておりますので栞様も問題なく使えるはずです」

「そうなん? なにかクリアせなあかんクエストとかもないん?」

「はい。クエストとして用意されているのは、武器の方でして。どのモンスターからドロップするのか私にも分かりません」

「そうなんや~。ほな、片っ端から倒していけばOKやね!」

「はい。健闘をお祈りいたします」


 栞とのやり取りが一段落ついたと判断した、お姉さんは、刹風に視線を合わせる。


「では、刹風様。素早さに対する数値が特に高いので、それをいかした職業として軽装備の武闘家をお勧めします」

「あ、いえ。私はシーフでやっていくって決めてるんで」

「そうですか、シーフ系は素早さに対するプラス数値が大きいので良い選択だと思います。それに何と言っても、シーフ系がパーティーメンバーの中に居ると、レアアイテムのドロップ率にプラス補正がありますので、詩音の武器も手に入れやすくなることでしょう」

「そうなん! さすが、せっちゃんや~!」

「ま、まぁね……」


 喜んでくれている栞には悪いが、詩音の武器がどうとかではなく、リアルマネーで高く売れる物が欲しいからこその選択でしかない刹風は、やや複雑そうな顔をしていた。


「それでは、最後に、みらい様。氷属性に対して比較的高い適正値がありますので主に氷属性を操る魔法職をお勧めいたします」

「いえ。私は、炎系の魔法職を選びますので」

「えっ!? ですが、それですと相応のマイナスポイントを付けられてしまいますよ!」


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