2-3
「はい! 龍好裁判官なにかしら?」
どうやら、龍好も裁判官という設定らしかった。
「自分は、早く飯が食いたいと所望します!」
「却下! 以後、私語は慎むように!」
「ひで~……」
この上なく、もっともな意見なのに切り捨てられてしまった。
確かに、食券の自販機の数は多いし、その内一つを占拠したところで問題にはなっていない。
それでも周りに、食券を買い求める人が居る以上、道を開けるべきだと思うのだが。
どうやら、みらいは栞が危険人物ではなく、お笑い芸人モドキなのだと言う事を皆に周知させたいらしい。
これはもう、ネタが終わるまで黙って見ているしかないのかもしれない。
「それでは、参考人さん。被疑者刹風の罪状と、この食券が証拠たる由縁を述べなさい」
「はい! 被疑者の罪状は、一人だけ抜け駆けし胸を育てていた事であります! そして、この素うどんが被疑者の胸を育てていた元凶であると思われます!」
「ちょ! なにバカなこと言ってんのよ! 三色麺食べて胸がでっかくなるってのは都市伝説でしょ!」
刹風は、まっかな顔して否定する!
周りの連中の視線が刹風の胸に集中砲火を浴びせていた。
その視線の強さは男子よりも、圧倒的に女子の方が強烈だ!
「裁判長殿! 被疑者は、確信犯であったと自ら自供しております!」
「うむ。それは、興味深い話ではありますが、確か……」
みらいは、顎に手を当て――軽く頷き脳内データを検索する。
「残念ながら、その件に関しましては、すでに科学的根拠が無いとの結果が出ています」
「ほら、みなさいよ! だいたい、100円の素うどんに何が入ってるって言うのよ!」
刹風の全力否定もなんのその。
栞は、マイペースを崩すことなく標準語使用で捲くし立てる。
「はい! 確かに、この素うどんは金銭的にゆとりの無い一般生徒向けに考案されたメニューであり。主にビタミンを補給する事を主旨としているものであります。ですから被疑者の言ったとおり、胸を大きくする成分は入っていないと思われます! では、なぜ金銭的にゆとりのある人達がわざわざ食べに来るのでしょうか?」
「や! 普通に考えて、私のために用意されたようなメニューだよね! それ以外ないよね! ってゆーかただの気まぐれとかだよね! それって!」
「ふむ、残念ながら、参考人さん。被疑者の言っていることの方が正しいのではないのでしょうか?」
「そこが我々の盲点だったのです! 確かに麺やツユには直接影響力を及ぼすものは無いかもしれません! しかし上級生のお姉さん達は、被疑者同様ネギだけでなくテンカスもしっかり盛り付けているのです。しかも被疑者は、このテンカスも大盛りにしているのであります!」
「確かに、テンカスイコール油。油イコール脂肪。胸イコール脂肪の塊といった安直な考えでものを言えばそうなるかもしれません。ですが、やはりそれでも科学的根拠が無い以上、参考人さんの訴えを認める訳にはまいりませんが。まだ、何かおありですか?」
「分りました。では、新たな証拠といたしまして被疑者の成長記録を提示します! 入学当初被疑者のサイズは78のBでした。それが本日84のDとなっていた事が判明いたしております! コレは明らかに平均成長レベルを越えていると自分は判断します! 裁判長自らその手で測ったものを否定するのはおかしいのではないでしょうか!?」
女生徒達が最下段にある、激安うどんのボタンを次々に押し始めていた。
「って、なんで知ってるのよ! 刹風が真っ赤な顔して叫ぶ!」
ぱっつん、ぱっつんになった上着は余計に胸の大きさを強調していた。
「はちじゅうよんのでぃい……」
ずっしりと朝の重圧が、みらいの両手にのしかかる。
まるで見えない何かに押し潰されかの様に――みらいは、ふらふらしていた。
アンダーとトップの差が誤差の範囲でしかないみらいにとって完全に未知の領域。
それはもうチョモランマの頂に等しい高みだった。
「あやや! せっちゃんほんまにそないにおっきくなっとったん!? うちてっきり80くらいやと思っとったんに」
栞も、思わずネタの途中だった事を忘れ。
素でツッコミを入れてしまっていた。
「こほん! 参考人さん。誘導尋問は、ルール違反です」
「はい。適当言って申し訳ありませんでした」
「で、ですが……おっほん。確かにその情報は順科学的根拠として認めざるをえないかもしれません。よって今回は特別に不問に致しましょう。以後気を付けるように」
「はい!」
「それでは、栞の訴えを認め被告人に……判決を言い渡します」
「異議あり!」
「なんですか龍好裁判官。今更判決を覆すおつもりですか?」
「はい! 栞の訴えは科学的根拠に乏しいと思います。よって、本日より、裁判長及び栞には順科学的根拠が証拠たる確証を得るために実証検分を執り行い。一年後、再審議を行うべきではないでしょうか?」
龍好は別にネタを披露したいわけじゃない。
本音でいったら。
まだ長引きそうだったから、早く飯にしようぜと言ったに等しい。
「ふむ、確かにその案には一理あります。異議を認めましょう。よって本日より我々は三色麺を食べ続ける事が義務化されますが。栞! 付いてこれますね?」
「はい! 裁判長殿! 不詳ながら、この由岐島 栞。 全力をもって御供させて頂きたいと存じます!」
「うむ、よろしい。では本日よりその案を実行し結果次第で刹風被疑者の有罪を認める事と致します」
ちなみに、この素うどんが本当に女性の胸を育てているかは不明だが。
この場にふさわしくない金持ちが食べている事もしばし確認されている事実は否めない。
素うどんは、胸を育てる!
これが学園の都市伝説となり、特に一部の女性の間では信仰者が居るほどだった。
西守学園には確かに、金持ちも多いがそれ以上に庶民だっている。
そのため、そうした学生でも美味しく、かつ健康面でも優良な食事を提供しようと開発されたメニューであり。
それ以上のものは無いはずなのだか……
ネギの美容効果と天かすの油分、それと三色麺が絶妙な方向でミックスされて胸を大きく美しく育ててるという噂の力は、それなりの影響力をもっていた。
みらいの瞳が憎しみを込めて刹風の胸を睨んでから激安うどんのボタンをポチっと押す。
「お金がないのを言い訳にして、一人だけ抜け駆けしてただなんて、とんだ盲点だったわ」
「違うから! ホントにド貧乏なだけだから!」
「それだけ、立派に育てておいてよく言えたものよね! 私は貧乏より賓祖をなんとかして欲しいわよ!」
半泣き状態で刹風の胸を睨むみらいに対し、
「はぁ~」
ため息でこたえるしかない刹風だった。
「見ててね龍好! 私もおっきくなって見せるから!」
「あぁ、期待しているよ」
これでようやくメシにありつけると思った龍好は、みらいが不機嫌にならない言葉を選んで口にしてから、いつものAランチのボタンを押した。
別名、日替わり定食とも呼ばれれている。
この、Aランチのおすすめ点は、必ずデザートが付いてくることである。
今日のメインは、鳥の唐揚げで、デザートは杏仁豆腐だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます