2-4

 もともと、みらいは、熱々のメニューは、あまり頼まない。

 熱いのが苦手な超猫舌だからだ。

 だから龍好がふーふーして冷まし、唇に当てて温度を確かめてから食べることになる。

 うどんもそうだが麺を食べるときは 小さめにカットしてから食べるのが基本。

 箸を縦と横。

 交互に交差させてハサミの様にして麺をカットしてから食べるのだ。

 栞いわく。

 小さなお子様に食べさせる時の方法らしい。

 みらい用に中身の入っていないおわんを一つもらうのも、これからは日課みたいなものになるのだろう。

 箸はマイ箸で用意してるのは栞。

 キャラクターが描かれた安っぽい巾着袋は栞のお手製で中には、各種食器が入っている。


 みらいにしては、頑張った方で。

 今日は半分ほど食べていた。

 そしていつもの様に残ったものは何も言わず龍好に差し出される。

 それを、全くとまどう事なく受け入れて残りを食べる姿は、娘が食堂で食べきれなくなった残りをお父さんが片付けてくれているみたいだった。

 それほどに自然で。

 テレも恥じらいもない。

 刹風だけはものすご~~~く。

 面白くなさそうな顔で見ているが……


 



 食事が終わると――

 三人は、今夜リトライにおもむくための打ち合わせを始める。

 みらいがエッグを開いて基本的な開始方法を説明し始めると。

 龍好は、視線を窓の外に流し新緑に染まった桜の気を見おろす。 

 もうすぐ桜の咲く季節だなぁ、なんて思いながらも、向かいに座るみらいの声はイヤでも耳に入ってくるし。

 気になって少しでもそちらを向けば、両面仕様になった半透明の画面は、目の端に入ってくる。

 どうやら、新たにプレイを始める新規さん達の不安を払拭させるために用意されたプランもあるらしく。

 三人一緒で始められるみたいだった。

 それを聞いただけでも、わずかながら心がほっとする。


「これは、恋人同士で始める人からの要望で実装されたみたいね」

「ほえ~。そうなんや~」

「それで、同じ時間から始められるように事前申請が必要みたいだから、ここでセットしちゃいましょう」

「了解や~」

「OK~。説明よろしく~」

「はいはい。まずは……」


 栞と、刹風もエッグを開き――みらいの指示に従って登録申請を無事に終了。

 あとは、こよいを待つばかりと。

 三人で盛り上がっている。

 中でも、特に刹風の目が怪しい方向で光輝いていた。


(こりゃ、まだまだかかるな~)


 龍好は三人の話をBGM代わりに聞き流し。

 今朝のみらいを思い返していた。

 なにかが引っ掛かっていた。

 基本的に隠し事を嫌う者が隠し事をする時、それは大抵ろくなものじゃない。

 リトライのサービス開始前から連絡の取れなくなってしまった両親。

 ブルークリスタルが崩壊してしまった以上――必然的に仕事は終わっているはずなのに。

 新たなゲームの開発をしているという話も聞いていないのに。

 龍好の両親は『仕事が忙しいからしばらく帰れない』といった感じのメールを最後に帰ってこなくなってしまった。

 その後いくらメールしても返信はない。

 それなのに毎月生活費は口座に振り込まれてる。

 ならば会社に居るのだろうと電話をしても取り次いでもらえず。

 押しかけてみても、外出中だと言われてあしらわれる。

 最終手段として、みらいの力を借ようと思ってもみたが。

 みらいの両親同様に行方不明という結果が突きつけられるのが怖くて出来ないでいた。


 それらと、今朝のみらい――


 ダークな部分を隠すことなく、そのまま運営出来てしまっているリトライ。

 栞が、破壊神の能力テスト的な意味でリトライに行く事は決まっていたこと。

 いくら危険な世界だからといって。

 いきなり、犯罪者の名を名乗れなんて言うのはおかしい。

 周到な下準備をして、罠にはめる。

 それが、みらいのやり方だ。


 それが、出来なかったナニカ……


 全てが悪い方向につながっている気がして――喪失感に似た何かが胸をかきむしっていた。

 もし、みらいが両親同様に帰って来ないなんて事になったら。


 ぞくり、とした。


 栞だって、刹風だって、同じ世界に行くはずなのに。

 なぜか、みらいだけは、どこか別の世界に行ってしまうみたいだった。



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