万年2位のスプリンター

2-1

 刹風せつかの担任の授業は、お昼前だった――


 丁寧と、ただ長いだけの話しは別である。

 それに気付かずに、何べんも同じ様な事を繰り返したあげく。

 ようやく終わったと思えば、「あーだからして」を繰り返し。 

 適当なところから巻き戻ってリピート。

 まったくにもって、うんざりだった。

 今日から新学期という事もあって言いたい事が多いのは分からなくもないが。

 刹風同様、大半の生徒が担任の話を聞こうとしていなかった。

 そのため度々受け持った生徒に注意すると『そんな話聞いていません』と言い返されてきた。

 それが、彼の自信を奪い。

 不安感から、何度も同じ事を繰り返すという愚行の連鎖に引きずり込んでいたのだ。


「ったく! ながい、っつーの!」


 刹風は、いらいらにフタをする事なく。

 ようやく終わってくれた担任の話しに悪態を吐く。

 早足で廊下を歩いて向かう先は、友人達が待っているであろう学食だった。

 何もなければ、我慢も出来るが。 

 友人に伝え忘れた事があって、それが気になって仕方なかったのだ。 


 伝えたい事があってうきうきしながら待っていたら――胸を持ち上げられ。


 あげく、すっかり拗ねてしまったみらいを、なだめるのがやっとで、肝心な話が出来なかったのだ。

 刹風の一歩一歩は、ピッチが長いため――スカートが際どいところでヒラヒラしている。

 それを見つめる男子生徒の視線に全く気付かないのは、


「エッグ・オン! メール確認、来てたらそのまま開いて」


 友人から来ているであろうメールの確認だった。

 予想通りみらいからメールが届いていて――内容は「まだ?」だけである。

 相変わらずの件名だけメールは、後は自分の頭で状況を察しなさいという意味。

 どうやら、予想通り学食――通称学食塔で 待ってくれているらしい。

 相手が、まだ注文をしてくれていないという希望的観測のまま、返信メールの作成を開始。


「メール返信」 


 画面が切り替わって返信内容入力画面になる。

 

「返信内容は、注文しないで待ってって。以上よ!」


 最初から設定されていた封書の絵が赤いポストに入っていく。

 みらい同様に件名だけのメールが送信完了した。

 こうして相手に対して物事を伝えるなら、電話の方が早くて確実なのだが……

 一般的な携帯端末と違って、このエッグでの電話は抵抗を感じる者が多い。

 会話の内容が回りに聞かれてしまうからである。

 部屋にこもって、お互い一人なら問題も無いだろうが。

 どちらかというと、電話機能は会議向きな機能として定着している。  

 しかも、周りに内容が知られてしまうといった点では、メールも同じ。 

 画面を小さくして体で隠したりしながらキーボード機能を使い送信すればプライバシーは守られるだろうが。


 はっきり言って!


 普通の携帯端末を使った方が賢いし!

 なにより早い!

 だから、こうしてエッグを普通に使う者の大半は、知られたり聞かれても問題ない事を口頭でエッグに伝えるのだ。

 そして、それはエッグを育てるために必要な過程であり。

 本気で育てる気がある者は、普通の携帯端末を持たずにエッグだけでしのぎ切っていた。

 それ程にマスコット化させるには、日々の付き合いを濃くしなければ、なしえないのだ。

 もっとも、刹風は節約のためだが……

 はたから見れば、へーあいつもマスコット化狙ってるんだ~。

 みたいな感じで受け入れられていた。


「エッグ・オフ」


 画面が消えて、元の笹カマボコみたいな姿になる。

 エッグをスカートに仕舞わずにそのまま歩いているのは、何か返信があった時に備えてのため。


 ――そして。


 ようやく気付く。

 行き交う男子生徒の視線が自分の下半身に注がれている事を。

 かーっと、頬が熱くなる。


(またやっちゃった。なんで、こんなに短くなるのよ! ばか!)


 自分が成長したことを、改めて自覚し――歩くペースを落とす刹風だった。





 高等部と中等部の敷地をまたぐように建てられた、大きな円筒形の建物は10階建て。

 その建物は一見すると、どこかの会社っぽくも見えるが。

 過去の建造物っぽい外見と相まって、棟と言うより塔の方がしっくりくる。

 そのため学生達からは、特別就労棟という正式名ではなく。

 食堂塔という名で定着している。

 入っているテナントは、主に食事を提供するお店であり。 

 一階は、ファストフード店やコンビにが主に入っている。

 刹風達が通い詰める学食は二階にあって。

 基本的に上に行けば行くほど、店の敷居は高くなり。

 比例して値段も跳ね上がる。

 そのため一般学生が足を踏み入れるのは二階まで。

 それ以上の上に行く時は、誰かのオゴリで付いて行く時か、アルバイトとして就労する時くらいのものである。

 また、特定の金持ちになると一生涯仕事を体験する事なく人生を終えてしまうため。

 社会勉強の場として、この中に入っているテナントでアルバイトをさせるという目的もあった。

 そんな無駄に金のある我が儘な連中の話を、いちいち聞いていたら、こんな形に収まりました。

 って感じなのがこの学食塔と呼ばれる外見になった由縁である。



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