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 翌週月曜日――


 自分の足元を見てから教室に入ってくるという致命的な行動をする女性教師が居た。

 アレでは、かえってバレバレである。

 ソコに満を持して自分が最高に目立つ瞬間を見出した残念な思考回路が反応した。


「はい! 紅せんせ~!」

「なんだ、由岐島」


 栞の笑みに負けないくらい、紅の顔もにやけていた。

 過去類例を見ない敗退が――過去類例を見ない行動に繋がっていたからだ。

 先週の惨敗が、ひよこ達に火を点けていたらしく。

 翌朝『今度は、自分達だけでやらせて下さい』と言ってきたのだ。

 もちろん『好きにしろ』と、こたえてやった。

 彼らが、そんな考えに至ったのも。

 ある意味当然かもしれない。

 卵以下のガキ共が圧倒的不利な戦況を覆して見せたのに対し自分達は、まだ何もしていないのだから。

 むしろ、それに対し何も感じないのだとしたら。

 その方が問題だろう。

 連中は好き勝手に作戦を実行に移す。

 これなら、紅がどう行動しようと、みらい達に作戦の決行日が知られる可能性は無い。

 先程の、わざと足元を見たのも――その、前振りだった。


「黒板借りても、ええですか~」

「ああ、好きにしろ」


 栞が満面の笑みで黒い画面に書いた文字は――!

 しおりん降参だった!

 紅の表情は一変。

 クラスメイト達も『いったい今度はナニをしやがるんだ!?』そんな疑念を持って同音異語を脳内検索していた。


 公算、興産、鉱産、恒産、高3……

 果たしてどれが正解なのだろう?


「なぁ、由岐島。それはどんな作戦なんだ?」


 素直に教えてくれるとも思えないが一応聞いてみると、


「これは、見ての通り~、白旗振って降参するって意味です~」


 栞が両手を開いて、こちらを御覧なさいなと皆に伝える。

 そこには、両手で―― 

 自宅から持参したマイ箸に、白いハンカチを結び付けてパタパタする、龍好とみらいが居た。

 そして、その主旨を発表する。


「みんなには、よ~く聞いて欲しいんよ~。実は先週、うちが対戦車用の装備で挑んでたのが相手にバレてまったんです~。せやから、今度相手が襲撃してくる時はロケットランチャーとか戦闘ヘリとか普通に持って来ると思うんよ~。そんなん持ってこられてもうちは対応出来る自信ないし。せやから、素直に負けを認めます~」

(おいおい、いくらなんでもそんな物騒なモンはありえねーだろ!)


 クラスメイトの連中は、その程度の見解しか持たなかったというのに。


「あはははは。それは良いな。許可すると伝えておこう!」


 紅の言ったセリフに対し、


(んなもん許可するなー!)


 被害者達は、一斉に青ざめた! 

 まるで、とんでもない惨事にでも見舞われたかのようである。


「あははは! 安心しろ! 戦闘機だろうが、対艦砲だろうが私が打ち落として見せる!」


 ドン引きだった。

 世界最高の危険人物の言うセリフである以上、完全否定する事は出来ない。


「それになぁ、やっぱうちらだけ美味しい思いをするんはずるいと思うんよ~。せやから、みんなうちらの分まで頑張ってなぁ♪」


 とっても可愛らしく――にこりとする無垢な破壊神がソコに居た。

 クラスメイト達は理解した。 

 破壊神とは、物理的破壊よりも――むしろ精神的破壊の方が得意なヤツなのだと言う事を。

 そして、そんなずっしりと重い空気の中。


「はい! 紅先生!」


 予想外のヤツが手を上げて紅に願った。

 日影である。


「ボク達にも武器の使用許可をお願いします!」

「ほ~。いいのか。そんな事すればそれこそキサマの日影流とやらを滅亡させるぞ!」


 紅は、あまりの嬉しさに、ついからかってしまっていた。

 定員割れしたお陰で入学してきた連中の中には変り種が居て――日影もその一人だったからだ。

 暗器を使う防衛術に特化した武術。

 それが日影流だった。

 平和な世では不必要どころか下手すれば銃刀法違反でしょっ引かれるバカげた内容。

 それを知った紅は、どんなヤツかと楽しみにしていたのだか。

 やる気がある様には見えない無気力な優男でがっかりしていたのだ。

 それがこの変わり様。


「はい! それこそボクの望みだとお伝えしたはずです!」

「あははははは!」


 真剣な眼差しで、頼んでいる日影に対し、紅は笑って返す。


「とても、流派の滅亡を望むヤツが言ってる顔じゃないな! あはははは!」

「当然です!」


 日影が右腕を横に薙ぐと! 

 シャキンっと金属がぶつかる音がして――そこには伸びきった警棒もどきが握られていた!

 刃渡りは短いが先端に刃がある以上、じゅうぶん危険物である!  


「確かに僕は、この西守学園に日影流を終わらせるために来ました! でも、やっぱり! 祖父の気持ちも大切にしたいんです! ですから全身全霊を懸けて挑み完膚なきまで叩きのめされてこそ! 祖父も日影流をボクの代で終わらせる事を受け入れてくれると思うんです!」


 先週の出来事は、敵だけでなく味方にも影響を与えていた。

 過去最低なクラスがどう変わっていくのか楽しみになってしまい――紅は、心から笑っていた。


「あはははは! いいだろう! 好きにしろ!」

「はい! ありがとうございます!」




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