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そんな彼らのやり取りを見て、その他の連中も佐々木に続かんと一人。
また一人と腕に覚えのある連中が中心に集まって来る。
彼らは、もともと前列に居たり、紅に言われても移動しなかった者だった。
このクラスに居る大半が西守に尻尾を振るために入学してきた様な連中である。
席の位置が、そのまま度胸の強さを表すと言うならば。
破壊神の近くに座って己が強さをアピールするチャンスだと感じたからでもある。
そして――
またしても、ぐちゃぐちゃになってしまった席順。
これでは、先程の歴史教師同様他の授業にも支障が出かねないと判断した佐々木が仕切って新たに席順を決めた。
栞が怖くて近付けない者の気持ちもきちんと汲んだため、前列と後列に二分化した珍しい席順が確定していた。
そんな頃合を見計らったみたいに、男性教師が逃げ出して行ったドアが開いて不機嫌さを露にした紅が逃亡者を引き摺る様にして教室に入って来る。
「なんだ、これは! 桂! いったいどこで誰が暴れまわってるっんだって! おい! なんとか言ってみろ!」
首根っこをつかんだ男性教師を、そのまま教室に押し込む。
桂が改めて見た教室は、出て行った時と大幅に様相を変え――無秩序だったはずの席順に統一感が見られた。
「こ、これは、その……」
そこには、生徒達の気遣いが感じられるだけだった。
一人を除いて皆着席している。
その、例外の一人。
佐々木は、教壇に立っている。
彼が、この状況を作ってくれたのだと言う事がありありと伝わってきた。
どう見ても教師が先走っただけ。
と言う結果しか思い浮かばなかった。
そんな、悲しみと悔しさや後悔を見たくなかった栞が手を上げて立ち上がる。
「はい! 紅先生~!」
「なんだ由岐島!」
「私の自己紹介に付き合ってもらっただけなので、桂先生を怒らないであげてください!」
ぺこりと、本当に申し訳ないと栞は深々と下げる。
「桂先生も、びっくりさせちゃって本当にごめんなさいです」
しかし――
紅は、より機嫌を悪くするだけだった。
「由岐島! 残念ながらその考えは違うぞ! お前は知っているはずだ! 過去お前に係わってきた連中と同じくこいつも金目当てでココにいる! 最初からリスクがあると覚悟した上で金を取った。その意味を知っていながらも、まだお前はコイツを庇うのか!?」
「はい! うちのネタが成功したんも! 桂先生のおかげです!」
一切迷いのない瞳。
自分同様世間から化け物扱いされてろくな人生を送っていないだろうに。
それでも、信念を持って貫こうとする気概。
無垢な思いは潰したくない。
「ふんっ! よかったな桂。今回は由岐島に免じて無かった事にしてやる! だが次はないと思え!」
「ああ、あっ! はいっ! 真に申し訳ありませんでした」
自分よりも年下相手にぺこぺこと頭を下げ続ける桂。
額どころか、体中が冷や汗でべったりだった。
「それと、由岐島。自己紹介がきちんと終わったと言う事はもうネタは見せてもらえんのか?」
正直なところ、いったいどんなネタを披露してくれるのか、少しばかり気になっていたので見てみたかったのだ。
「えとですね。それは、かまわないと思うんですけど~……」
栞が、ベッコリと凹んだ前のドアを見詰めて苦笑いをしている。
「ふんっ! そんなもの気にするな! ドアなんぞ何枚でも壊してくれてかまわん!」
紅は、後方で仁王立ちしている。
授業参観に来た親御さんの様でもあった。
栞が龍好を見れば、龍好も黙って頷く。
「んじゃ、上川さん協力してくれ!」
龍好が立ちあがって提案すると、
「えええ~!」
上川は絶叫して、自分を指差し、みらいと佐々木の顔を伺った。
「いいんじゃないの。龍好が良いって言ってるんだから」
みらいの発言を聞いて佐々木も続く。
「ああ。本人が問題ないと言うならば、自分も文句を言うつもりはない」
「ほ~」
紅は、にやりと笑みを零す。
エリートばかりと付き合ってきた紅にとってバラエティーにとんだ今期は遊び半分的な気分だった。
あんな狂犬と進んで係わろうとするとは面白い。
上川は出てきた大会全てで反則負けという大バカ。
特に相手が男となると容赦なく殴り続けるヤツだった。
この学園に入った理由も更生目的。
破壊神という存在と共に過ごせば、少しは大人しくなってくれるんじゃないだろうか?
といった両親の希望だった。
今朝の反応を見る限り。
その可能性は、ありそうだったのだが……離れていた席が再び近付いている理由も気になる。
「龍好。悪い事は言わないから手を抜きなさい……」
先程自分が飛んだ位置に着こうと立ち上がった龍好に、みらいが助言をした。
「は~!? って! なに! 俺に怪我しろってこと!?」
「そうね。それ以外に選択の余地があるとすれば、上川さんに謝って栞に代ってもらいなさい」
既に先程栞が龍好を突き飛ばした位置で待っている上川は、残念そうな顔を浮べていた。
龍好は、諦めた様な、嬉しい様な、それでいてどこか覚悟を決めた笑みを浮かべる。
「は~」
と溜め息を一つはいて。
「分ったよ。じゃ、行ってくる」
「たっくんがんばやぁ~!」
「そ、私、きちんと忠告したからね……」
「ああ、サンキューな!」
栞は、満面の笑みで送り出し。
みらいは、ちょっぴり拗ねたまま龍好を送り出した。
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