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それは、みらいが動こうとしたのを見たからだった。
みらいに対し軽く手を上げて自分に任せて欲しいと無言で訴え。
自分の心意気を伝えるために、この好機を利用しているのだ。
「ちょっと! 邪魔しないでよ! 拳で語り合ったって一緒じゃない!」
ムカついた上川が声を荒げる!
「悪いが、それは出来ん! 確かに、先程の体さばきに興味を持ったのは自分も同じ。だからといって一般人相手に暴力を振るうというなら全力で阻止する!」
半分本音で、残りの半分は、みらいに対する下心。
先程龍好が飛んで見せた体術は狙ってやったからといってそう易々出来るものではない。
相手の呼吸に合わせて身体を上手く乗せる。
最低限の力で最大限の跳躍を可能にする技術は見た目よりずっと難しい。
先程までの対応と席順から龍好が特別な位置に居る者と判断した上での席取。
龍好と仲良くすれば、西守に組み入る機会を得る可能性が最も高いとの考えての策略だった。
「ふ~~ん! じゃあ、あんた相手なら拳で語り合っても文句ないって事ね!」
「ああ、もちろんだ。もっとも、語り合うのではなく、こちらの独り言になってしまうと思うがな」
上川が敵意を向けるも佐々木は全くかまえない。
主の命によって動いてこそ価値が上がる。
それを待っているのだ。
横目で、ちらちらと自分を見る佐々木の思惑に気付いたみらい。
(ふ~ん。そーゆーことね)
そっちが、その気なら、こっちも利用させてもらうまで。
ただでボディーガードが雇えるなら安いもの。
なぜ自分の下でなく龍好の下へ着いたのか。
その真意を察したみらいは、目を細めて不適に微笑む。
そして、クラス全員に聞こえる様に言い放つ!
「では、大次郎君! 今後は、クラス委員長として、貴方に仕切ってもらいたいんだけど宜しいかしら?」
「はい! みらい様! 仰せのままに!」
佐々木は、みらいに向き直った!
そして背筋を真っ直ぐ伸ばして敬礼!
感極まっていた!
西守から苗字ではなく名前で呼ばれる事には意味がある。
それは西守に認められたという証。
定員割れを起す様な、ふ抜けた今期だからこを入学できただけの存在だった佐々木。
それでも頑張って私設部隊に入隊すれば西守に近付く足掛かりになると考えていたのに予想外のタナぼただった。
相手は、落ちぶれたとはいえ――腐っても西守である。
入学して早々に、この成果。
借金してまで入学させてくれた両親の喜ぶ顔がイヤでも浮かび、心が弾んでいた。
そして、上川だけではなくクラス全員に向けて言い放つ。
「聞いての通りだ! 今日から、このクラスは自分が仕切らせてもらう。ゆえに、一般人に対する不要な暴力は一切認めん! 文句があるヤツは、前に出ろ!」
誰一人、そんな度胸のある者は居なかった。
上川の顔も青ざめていく。
相手が西守の下に就いたからだ。
この学園に居る限り決して逆らってはいけない存在。
それが西守である。
その小さな存在を一時とはいえ失念していた事に反省と後悔を繰り返しながら顔を歪ませていた。
もしあのまま龍好に手を出せば入学したばかりで退学処分になっていた可能性が高いからである。
そんな、怯えを軽く押し流す様に、
「んじゃ、改めてよろしくな上川さん」
それこそ、何事もなかったかのように、龍好が右手を差し出していた。
「ええっ!? いいの?」
「いいも、悪いも普通に握手するくれーなら問題ねーだろ?」
上川は、みらいの顔を伺い、佐々木の顔を伺い、最後に、もう一度龍好の顔を伺ってから、
「あ、うん……」
握手を交わしていた。
それを見た栞の隣に座った男子生徒は安堵の息を零して、
「僕は、
手を上げて挨拶に加わってきた。
なぜか上着のサイズだけがやたらと大きい。
手を上げてるのに、指の先が見えるだけである。
龍好ほどでは、ないにしろ華奢な体つきで、背丈も平均以下。
その、いかにも普通科が似合いそうな人畜無害な大人しい顔は、明らかに栞ではなく後ろに座った、もと自分の席にいた少女を警戒している。
「こちらこそよろしくやぁ~」
栞が喜んでにっこりすると、
「えと、さっきは席変わってくれてありがとね、日影君。それと、その。もうやたらと殴りかかったりしないから安心して……ね?」
両手を合わせて上川が続いた。
不要に相手を恐がらせていた事を反省していたからだ。
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