1-14
ほんとは、背中痛いくせに我慢して席に戻って来る龍好に向かって、
「ばか……」
もう一度、みらいが拗ねた声を出す。
いっつも栞に対して甘々な態度をとってることが面白くなかったからでもあった。
「ひでー。って、ゆーか! 身体張ってまで頑張ったヤツにいう! それ!?」
龍好が、抗議しながら着席しようとすると。
みらいは、ふんっとそっぽを向く。
クラスで一番ガタイがいいヤツが龍好の後ろの席に移ってきて座った。
「後ろに移動するのが許されるなら、前に移動してはいけないって事はないだろしな」
ボーズ頭で、肩幅も広い。
いかにも柔道かなにかやっていそうな雰囲気がびんびん伝わってくる。
「ああ、その考えには全力で同意する。俺は、
龍好が右手を差し出せば、
「ああ、自分は、
微笑んで握手を受けてくれた。
顔は、いかついし、声も低くてこわっぽいがいいヤツそうだ。
佐々木から見れば一番見下していたのは龍好だった。
たった一人だけのノーマル。
それも、こんな女みたいな顔したヤツに体を張って見せられて――それで、動かなかったら恥じと思ったのだ。
次に、栞の隣に座ってた女の子が戻ってきて佐々木の隣に座る。
それを見た栞は嬉しそうな顔して席に戻ってきた。
「その、ごめんね、由岐島さん。その、私、人を殴るのは好きなんだけど。その、殴られるのは、苦手で……」
(だれだよ! こんな危険物取り入れたヤツは!)
龍好は、心の中でツッコミを入れ。
栞の隣に座っている男子生徒。
あどけない顔して、どんでもない事を言った小柄なクラスメイトは、栞以上の危険人物なのかもしれない。
定員割れした状況下だったため願書と金。
最低限必要なダブルC以上の能力さえあれば誰でも入学できた今期ゆえの存在だった。
「そんなら、上川ちゃんは突っ込み役に決定やね! うちは、基本ボケ担当やからどんどん突っ込んでくれてええよ~」
「あ、うん、その……それで……」
おどおどしながら左手を差し出してきた。
握手を求めているのは分るが、なにかあっても良いように利き手で握手を求めないのは用心深くもある。
だからこそ、栞的には、面白くなかった。
「なぁ上川ちゃん。さっきのネタ振り、きっちり受けたるから得意な拳で挨拶やぁ~」
栞が、右の手のひらを上川に向ける。
「あのあの、なぐってもいいの!?」
叩いてではなく、普通に殴ると言ってくるあたり相当危険だ。
先程まで青ざめていた表情も嬉しさが勝ってきている。
対象的に日影の顔は怯えていた。
「ええけんど、条件がある!」
「うん!」
「本気で殴ったら上川ちゃんが怪我するから軽くやよ!」
「ふっ、それは怪我した後で後悔するから気にしないで!」
ある意味このクラスにマッチした人物の香りが漂っていた。
ぼこぼこと膨らんだ拳ダコは、伊達ではないということなのだろう。
「なぁ栞。相手が怪我しても良いって言ってんだからいいんじゃね~の?」
「ん~。せやけど~」
龍好が、それもありなんじゃねーの、と背中を押せども栞は気難しい顔をしている。
「ねえねえ、いいの? 悪いの? どっちなの!?」
先程までの怯えた表情はどこへやら、最高の人間サンドバックを見つけた喜びが、すっかりと塗り替えている。
鼻息の荒さが、日影をさらにドン引きさせていた。
「ほな、手加減するんやよ!」
「うん!」
言うが早いか上川は立ち上がり!
栞が差し出した手に正拳突きを叩き込んでいた!
それを栞は、怯えと悲しみの混じった表情で受け止める。
反射で反応した硬化外皮のお陰で全く手は痛くないが、その衝撃は、かなりのもの。
一瞬身体が浮いた程だったからだ。
「っクー―!」
まるでブロンズ像でも殴ったかの様な痛みが上川の背筋にまで伝わっていた。
反射的に右手をさするが顔は満面の笑みを浮かべていた。
「すっごっいんだね! 由岐島さんって!」
「ん~。その、大丈夫なん?」
「うん! 全然大丈夫だから!」
「ほれみろ、相手が怪我しても良いって言ってんだから、そんくれーいちいち気にすんな」
「でも~~」
「あっ! 芒原君もよろしくね!」
「あんで、ファイティングポーズとってんだよ!?」
「えっ!?」
上川は、首を傾げて不思議がっていた。
「『え!?』じゃねーよ! 殴っても大丈夫なのは栞だけだ! ってゆーか俺は、お前らと違ってノーマルだ!」
「私って、能力者とかノーマルとかっていうくくりで差別しない主義なの! それに、さっきのアレ。ただの一般人が出来るもんじゃないよね!」
「あれはネタだ! ってゆーか! んな、物騒なもん人様に向けんじゃねぇ!」
「ならば、じっくり話を聞かせてもらえばよかろう!」
佐々木が身体ごと話しに割り込んできた。
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