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 いくら自分の身を守るためとはいえ、別のリスクを感じるべきだったと後悔しても遅い。


「あんな、みんな。せんせいも、うちの事怖くって神経ぴりぴりしとったみたいなんよ~。せやからみんな静かにしとってなぁ~」


 龍好が、みらいの方を見ると。

 その手には鞄から取り出したスリッパが握られていた!

 黙して二人は頷きあい。


(じゃあ行ってくる)

(ほどほどにしときなさいよ)


 目で会話して、みらいからスリッパを受け取ると――ずかずかと栞の元に歩み寄り!


「てめーのせーだろーがぁ!」


 ☆バシン☆


 と、思いっきりぶっ叩いた!

 その光景に同級生達はおろか教師も固まっていた。

 相手は、破壊神である。

 なのに全く怯むことなく平然と――それも、とんでもないことをしでかしやがったのだから!


 もし破壊神が制御不能になって暴れでもしたら!


 この閉鎖空間に、いきなり戦車が投げ込まれる様なモノである。

 一人が席を立つと、がたがた椅子を鳴らして席を立つ者が続出していた。

 それを見かねた栞がトーンを抑えた怒声を叩き付ける!


「みんな! 静かにせなあかんって言ったばっかりやろ!」


 顔が、にっこりと笑っているだけにその破壊力は絶大だった!

 引きつった女生徒に、青ざめた男子生徒達も――それに従がおうと動き出したところに追い討ちが入った!


「だから、てめーのせーだっつってんじゃねーか!」


 ☆バシン☆


 再び強烈な一撃が破壊神の脳天に叩き込まれていた!


「って! ゆーか、同級生びびらしてどうすんだよ!?」


(それは! てめーだー!)


 教師も含め、その他クラスメイト達の心は見事にシンクロしていた。

 いくら爆弾の信管をスリッパで叩いた程度じゃ爆発しないからといっても、見てる者にとって怖い事にかわりはないのだから。


「んもー! なにゆーとるん! たったくんがうるさいからみんなびびっとるんよ!」


 今度は、栞も負けじと龍好に突っかかる!

 声だけでなく、顔も厳しくなり。

 赤みがかった可愛いまん丸お目目が吊り上がっていた!

 目前で言い争いが始まる。

 それは、自分の命の危機!

 そう判断した教師が仕事を放棄して出入り口でもあるドアまで離脱!

 しかも、教壇から見て奥のドアである。

 かなりの過剰反応だ。


「見ろ! てめーのせーで先生までびびっちまったじゃねーか!」


 龍好が教師を見ろと指さす!


「せやから! たっくんの声がおきいのがあかんの!」


 栞の声もじゅうぶん大きいっていうか、拡声器並みの声量だった!

 龍好に任せた事をやや後悔しながらも立ち上がって――みらいも声を張り上げた!


「二人ともいい加減にしなさい!」

「ほ~い!」

「へ~い」


 いかにもネタの終了とばかりに二人とも笑顔になり良い子になっていた。


「ほな、さっきもいったんやけど。みんな静かにしとってなぁ」


 栞が、可愛らしくにっこりすれば、


「いや~まぁ、なんつーか。こいつ、こんくらいしても暴走したりしないんで安心してくれ。って、ゆーかみんな、びびり過ぎだって。特定の状況にならない限りエッグはきちんと栞の力抑え込んでくれてるし、見た目通り普通の可愛い女の子なんだからさっ」


 龍好も、笑みをたずさえて自分が皆に伝えたかった事を言い切った。

 それを見てみらいも満足げな表情で着席する。

 遅かれ早かれ、このてのネタは披露するつもりだったからだ。

 出来る事なら、一人でも多く栞と普通に接してくれる者が増えて欲しいとの願いでもある。

 ゆっくり自然に、と言うのも悪くはないが、それは普通科だったらの話。

 ここは科学魔法科。

 この程度の事は、前列に居座ったままの人達みたいに平然と受け入れるか――むしろ厳しく注意してくれるように、なってもらわないと授業に支障が出る。

 度々班編成を替えて行うカリキュラムがある以上。

 必ず誰かが栞と組まなければならない。


 その度に、破壊神と一緒じゃ怖くて授業になりません!


 なんて泣き言ほざかれた日にゃ、たまったもんじゃないからだ。 


「いややわ~。たっくんたら~。みんなの前で可愛いなんて~」


 栞が頬に両手を当ててくねくねしている。

 そして――!


「も~。うち照れてまうよ~」


 照れ隠しに龍好を平手で小突いた!

 その衝撃で、龍好は軽々と吹っ飛びドア目掛けてまっしぐら。

 先程言った龍好の話で多少は良くなっていた空気が無残にも拡散。

 後方退避していた歴史教師はドアを開け放って逃げてしまった。

 みらいは、宙を舞って行く龍好を平然と見放す。


「ばか……」


 自分は、一度も可愛いとか言ってもらった事がなかったからである。


 ☆ドン☆


 ドアに背中を打ち付けた龍好は、腕をクロスしていた。

 防御技の一つ十字受けである。

 ど派手に飛んで見えたのも、栞が手を出すタイミングを見切った上で、自分から後方に飛んだからだった。

 そして、何事も無かったかの様に微笑んで皆に伝える。


「まぁ、こんな感じで嬉しかったりした時だけは制御が利かなくなっちまうが。せいぜい、こんなもんだ。皆なにかしら武術とかやってんだってな。だったらこんくれー問題ねーだろ。だから、そんなにびびんなって。なっ! 別に仲良くしてくれとか言ってんじゃねーんだ。普通に接してくれたらそれでいいんだって!」



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