【春は戦いの幕開け】

1-1


 今年も春が訪れた。


 桜の開花予報が、お天気コーナーに盛り込まれ、どの気象予報士が一番信憑性が高いのだろうか?


 そんなどうでもいいことが気になってチャンネルを回す者が居たり居なかったりする出勤前の時間帯だった。

 今年も、異常気象だのなんだのと騒がれてはいるが……陽気は順調に暖かさを増していき。 

 学生達にとっては新学期という新たな始まりと、新たな出会いに胸躍らせたり、しなかったりする季節。


 そんな陽気にあてられたのか?

 もともと頭がイカレテいるのか?

 春になると出てくる可哀想な人なのだろうか?

 どこかで不幸があったのか?

 それともこれからあるのだろうか?


 ここ、西守にしもり みらい邸には喪服を着た招かざる客が来訪していた。 

 それは、西守に仕える従者らしく身形の整った清潔感あるスマートな色男で、淵のない眼鏡が良く似合っていた。

 男は、事前連絡も無しに現れて――自分は、西守の上層部から命を請けたメッセンジャーだと言ってみらい邸に乗り込むと。

 勝手知ったるなんとやらのごとく、ずかずかと客室に向かい。

 手近な椅子に腰を下ろすと現主。

 みらいを呼び付けたのだ。

 西守学園の制服に身を包んだ主(仮)と従者が用意した紅茶を確認すると。

 みらいに人払いを要求し、録画録音等の機器があれば、それらの停止及びデータの早急な処分を西守頭首の名に置いて命令した。


「元々そんな物は、ございませんので安心して下さい」


 貼り付けた愛想笑いで、みらいが戦線布告を受け取り。


 男は、「それは結構な事です」みらいと同じく愛想笑いを貼り付けて返した。

 朝日を浴びて煌びやかさを増す西洋式のアンティークな調度品達。 

 それは、ここではない別の西守の趣味に合わせたもの。

 しかし、そんな中において調和を乱す絵が客人に良く見える様に掛けられていた。

 みらいの母が描いた水彩画である。

 そこには森の中で切り株をテーブルや椅子にして談笑する兎や栗鼠りすが描かれている。 

 取引先のバカ息子が自画自賛して送りつけて来た落書きならまだ弁護の余地は残されているが……

 この様な物を客室に置く事は、西守に対して反感を持っていると取られて当然の物だった。

 男は、嫌でも目に入る絵を一瞥すると、


「ふっん」


 下らない物を見させられたと言わんばかりに鼻を鳴らし、薄い手さげ鞄から数枚の用紙を取り出して、


「実は、これが真実なのです」


 と言って、みらいに手渡した。


 その一枚目には、最近殆ど耳にしなくなった都市伝説を肯定する内容と、バグ・プレイヤー討伐完了までの期限が記載されていた。


「正直なところ信じがたいです……と言いたいところではありますが……都市伝説が事実だったと受け止めるだけですので特に驚くこともありません」


 ほぼ日課となりつつある、友人宅におじゃまして朝食をとる予定だったみらいは、不機嫌さにフタをしきれないでいた。

 本音で言ったら『だから何? 私忙しいんだけど!?』である。

 男は、先程みらいが発した不機嫌なセリフを微風の様に受け流すと、


「それは、それは。お話が早くて助かります」


 極上の作り笑い浮かべて続ける。


「さすが一般人との付き合いが深いだけあってこの手の理解が早い。いえいえ、けしてバカにしている訳ではないのですよ。我々の様に頭が固い大人は、どうしても話半分に聞いてしまう癖が付いてしまっているものでしてね」


 そして、「本当に感心しているんですよ」と付け加えた。


 どう考えてもバカにされているようにしか聞こえなかった。

 しかし、本来ならば、こちらから出向くのが礼儀である。 

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