深緑の魔王使い
日々菜 夕
プロローグ
【ここは、もう一つのリアル】
一人は屈強なボスモンスターの重鈍な一撃を喰い善戦虚しくも苦渋を飲まされ。
もう一人は術者の身を守る盾となって時間を稼せいでいる。
そして術者は、この現状を打破するため一撃必殺に等しい最狂の呪文を構築していた。
*
約10分程前――
三人の少女は、格上の岩石系モンスター達から全力で逃げまくっていた。
四方にそびえ立つ入り組んだ堅吾な壁は巨大な立体迷路の一部でしかない。
それは行く先々で少女達の行く手を阻み窮地へと追い込んでいく。
その高き壁を乗り越える術を持たない少女達にとっては、走って逃げる事だけが唯一の生き延びる手段といえた。
そして――
ようやく開けた場所に出たと思った時。
この立体迷路の主、最強のストーンゴーレムが待ち侘びたとばかりに歓迎してくれた。
悠然とした姿は、奈良の大仏様もびっくりってな感じで少女達に絶体絶命をサプライズするにはじゅうぶんすぎる存在だった。
後方には少女達を散々追い回したミニチュアストーンゴーレムの集団。
ミニチュアといっても身の丈は2メートル以上あり、少女達からすればじゅうぶん巨大なモンスター。
それらは侵入者を倒す事ではなくココに誘導するようにしつけられていて。
その役割を果たすと同時に後方へ続く退路を断つ役割をじゅうぶんに果たしていた。
前方には岩巨兵。
後方にはミニチュア岩軍団。
四方は乗り越え不可能な高い壁。
少女達に選べる選択肢は三つ。
後方で退路を断っている岩石郡をけちらして来た道を逆走。
ちなみに現在少女達が有する戦力では、敵モンスター数体と心中出来れば勲章モノである。
つまりは、全滅覚悟の特攻。
次に被害が少なくて済みそうな選択肢はログアウトして戦線離脱。
しかし、金銭的にゆとりのない少女にとっては、ある意味もっとも選びたくない選択だった。
戦闘中、もしくは同様の条件下でのログアウトは意図的な戦闘放棄とみなされ相応のペナルティが課せられる規則になっているからだ。
まず、その日入手した経験値と金銭やアイテム等、全て没収。
さらに、頼んでもいないマイナスポイントがオマケでついてきて。
累積したひにゃめでたくブラックリストという全く嬉しくない称号が烙印される。
もしブラックリスト入りしたならば、手元にあるキャッシュでしか取引出来なくなるし。
銀行も相手にしてくれなくなるから借金はおろか預金も出来ない。
もし、追剥や何らかのトラブルに遭ったとしても、銀行に預けたキャッシュや貸金庫に預けたアイテムは無傷というルールがある以上、こちらの権利も失いたくない。
ここリトライという世界には暗黙の了解という名の鉄則がある。
それは、
『自分達のシデカシタ不始末は、自分達でなんとかしろ!』
である。
ゆえに、このようなペナルティがいくつも用意されていた。
そして、少女達の選んだ選択は三つ目。
一か八かの中央突破だった。
もちろん、ボスモンスターと真っ向勝負ではない。
身長差という利点を活かし、巨大なボスモンスターの股を潜り抜け――
奧にある巨大な扉を開けてとんずらっていう、この上なく後ろ向きな中央突破だった。
勝算はある。
なにせ少女達のパーティーには超絶怪力娘が居るからだ。
単純な物理攻撃力だけならレベル1にして世界最強クラス。
むしろ彼女の腕力に耐えうる武器がこの世界に存在する事を切に願っていた。
しかし――
ある意味予定通り当初の目論見は、灰燼と化し。
このゲームにとって最大の売り、とも言われる臨死を体験する事態におちいっていた。
遊撃担当のシーフは己の欠点を噛み締めながら戦線離脱。
壁役担当の戦士は、超重量級戦士にのみ扱いが許された巨大な盾を大地に突き刺し懸命に抵抗している。
地面ごとえぐり払う衝撃は絶え間なく降り注ぎ。
戦士は、その一撃ごとに吹き飛ばされては立ち上がる。
何度となく大盾を地面に突き刺し抵抗しているが、壁との距離は縮まる一方。
いくら彼女が頑丈な身体をしていたとしても限度がある。
壁と巨大な岩の塊に挟まれて圧迫死の苦しみを味わうのも時間の問題であろう。
その後は残った術者をプチっと一踏みすれば全滅確定。
パーティ全滅によるペナルティが発生し。
本日手に入れた経験地もアイテムも頑張ってクリアしたクエストの報酬も水の泡。
きっとヤツは高らかに、誇らしげに笑うのだろう。
――だが!
術者は、二人が命懸に稼いだ時間を無駄にはしなかった。
ゲームマスターである管理者達の隙を見事に突いた起死回生の一手。
最凶の特殊術式召喚魔法を構築して見せたのだ。
その幾重にもあるハードルを、騙しかわし蹴とばさなければ決して形成しえないはずの発動条件は、
「―――我が瞳を餌とし汝が糧となせ!」
災厄の力宿る言葉によって一筋の光を見せた。
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