第39話 悪魔たちは鍛錬をする
最近は、三人で食卓を囲むようになった。
オレはレトちゃんが猫の姿でうにゃうにゃとおしゃべりしながら食べる姿を眺めるのが好きだったが、三人で囲む食卓も悪くない。
レトちゃんは最近人間の姿でいることが多いのだ。
もちろん、相変わらずよく寝る。寝る時は、猫の姿になる。そして、寝ているとき以外はだいたい人間の姿でいるのだ。
なぜ人間の姿でいるのかというと、オレのためらしい。
「身体の使い方を教えてあげる」
先日、レトちゃんにそんなことを言われた。
レトちゃん曰く、オレは身体の使い方が全然なっていないらしい。
確かに、レトちゃんはいつも背筋がピンと伸びているし、動きも軽やかで無駄がない。オレは素人だがそれくらいは分かる。猫の姿の時も人間の姿の時も一つ一つの所作がとてもきれいだ。
実は、バエルもその昔レトちゃんに身体の使い方を教えてもらったそうだ。だからだろう、バエルもレトちゃんと同じように、背筋がピンと伸びているし、動きもきれいだ。しかし、レトちゃんからすると、バエルもまだまだなのだそうだ。
オレには違いが分からないが、バエルも「まだまだです」と言っていたし、オレと一緒にレトちゃんに教えてもらうことになっている。
そういうことで、特訓が始まった。特訓はだいたい一日に二、三時間だが、レトちゃんが起きているときはみっちりしごかれる。
レトちゃんは普段はブラウスにひざ下丈のスカートを着こなしているが、鍛錬の時はゆったりとした動きやすい服装に着替えている。バエルも色違いのお揃いの格好だ。オレは以前用意してもらったトレーニングウェアを身に着けている。
そして、店の中には運動するようなスペースはないので、鍛錬はもっぱら前庭で行われる。
バエルも一緒に教えてもらっているが、メニューが全然違う。
彼女は、身体を器用に動かせるようにするためのトレーニングがメインだ。
昨日はすごいスピードで縄跳びを飛んでいたが、今日はヨガをこなしている。レトちゃんは体がものすごく柔らかいが、バエルもすごい。二人で、片足で立ったまま様々なポーズをとっている。オレにはあんなポーズは出来ない。
ともかく、様々な動きを体に覚えこませて、身体を器用に使えるようにするのだという。
オレはというと、身体が硬い上に、筋力も足りていないし、筋肉のバランスも悪い。さらに運動のためのいろいろな感覚もなっていないのだという。いいところが全くない……。
分かってはいたが、いざ突きつけられるとつらいものがある。
まあ、こればかりは、少しずつでも、改善していくしかない。
今日も地道に筋トレと走り込みだ。
――オレは悪魔になるための改造を受けている真っ最中だ。
身体能力を上げるためのナノマシンもあるそうだが、身体状態が追い付いていない状態で、ナノマシンを移植すると日常生活に支障をきたすらしい。力加減を間違えて物を壊したり、変な風に力をかけてケガをしたりしないためにも、今のトレーニングが重要なのだそうだ。
それに、身体の使い方がなっていない状態で移植しても、十分に力を引き出せないのだという。
「エルちゃんのこと、守れるようになりたいでしょ?」
レトちゃんは、こちらのやる気を引き出すのもうまい。そのうち格闘技や剣術も教えてくれるという。
***
「アー」、「アー」
オレたちが庭での鍛錬を終え、店に戻ろうとしていると、ふーちゃん、むーちゃんの鳴き声が聞こえてきた。普段はこんな時間に騒ぐことはないのだが、どうしたのだろう。レトちゃんもバエルも気になったらしく、庭で様子を窺っている。
ふーちゃんとむーちゃんはオレたちが気付いたことが分かると、庭に舞い降りてきて、カラスから人間の姿になった。
黒髪の少年少女の姿だ。双子のようによく似ている。見た目は、バエルよりも年若でレトちゃんよりも年上に見える。
二人は、バエルの前に進み出ると、オレたちに目礼した後、バエルに視線を合わせて告げた。
「どうしても早急にお伝えしたいことがあり、罷り越しました」
「他の悪魔が手を出している可能性があります」
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