第30話 悪魔は陰謀を知る
あの謎の植物についておおよそ調べ終わった。
あの植物は、やはり、旧世界――文明が一度消え去る前の世界――で、「悪魔の雑草」と言われていた植物だった。
旧世界の人類が一度根絶やしにしたはずだが、どこかに種子が保存されていたようだ。私が生まれる前に根絶されていたから、私も実際に見るのは初めてだった。
悪魔の雑草は寄生植物だ。
その種子は長期間にわたって地中で休眠することができる。
そして、寄生される他の植物――宿主――が発芽して根を伸ばし始めるときに、その根から分泌される物質を感知して、自らも発芽する。そして宿主の根に寄生するのだ。宿主となった植物は、養分の大半をその悪魔の雑草に奪われて正常に生長することができなくなる。その一方で、悪魔の雑草は急速に生長し、数日のうちに花を咲かせ大量の種子を実らせる。種は非常に小さいので、風に乗って遠くまで飛んでいくし、土にまぎれたら肉眼では判別できなくなる。だから種子が実ってしまったら、恐ろしい連鎖が始まる。種をまいても正常に生長しないし、その原因となる雑草は際限なく増えていくのだ。
種子に汚染された土地で農耕をやめても、種子は残り続ける。そして再び農耕を始めるとまた悪魔の雑草の悪夢が始まる。
悪魔の雑草は、イネ科の植物に寄生する。今回被害にあったのは小麦とライ麦だが、研究室で試してみたら、トウモロコシやキビにも寄生した。
旧世界では、たくさんの人間がこの寄生植物のせいで農業をあきらめ、たくさんの人間がこの植物を根絶やしにするため奮闘した。
そしてついに、旧世界の人間はこれを根絶した。宿主となる植物が根を伸ばしたと誤解させる物質を合成し、それを種子に汚染された土地にまいたのだ。その物質は宿主が発芽した後、実際に根から分泌する物質だ。それを人工的に大量に生成したのだ。その物質を土地に散布すると悪魔の雑草の種は発芽する。だが発芽しても寄生する植物はないのですぐに力尽きて枯れてしまう。そのようにして、悪魔の雑草は、一度はこの星の上から消え去ったはずだったのだ。
だが、どこかの地中に種子が休眠していたのかもしれない。それとも誰かが保管していたのかもしれない。いずれにせよ、誰かがそれを発見して、悪用するために増やしてばらまいた。そうして、悪魔の雑草はまんまと復活を果たしてしまったのだ。
残念なことには、悪魔の雑草を根絶やしにするために使われた物資の構造も製造方法も伝わっていなかった。だから私がイチから再現することになった。だが、そのくらいは、たいしたことではなかった。
***
ある日の夜。
ふーちゃんとむーちゃんから報告を受けた。
想像していた通りだった。
今回、悪魔の雑草の種子を穀倉地帯にバラまいたのは、とある軍事関連メーカーだ。ケイの技術を奪ったあの企業だ。社名を「アルコーン」という。
あいつらが、ケイの技術を利用してバラまいたようだ。しかもアルコーンは、悪魔の雑草の種子を他の場所にバラまく準備をしているという。ふーちゃんとむーちゃんが種子を生産するための自動工場の存在を突き止めてくれたので判明した。
アルコーンは種子工場で悪魔の雑草を小麦に寄生させて生長させ、種子を大量に生産しているそうだ。
ケイの技術を使えば、狙った場所に、誰にも気づかれることなく種子をばらまくことができる。だから私でもどこにバラまかれるか分からないし、すでにバラまかれているのかもしれない。
アルコーンは紛争や戦争を誘発したいらしい。
ケイの技術は、対人攻撃用のドローンや戦争用ロボットにも応用できるので、紛争や戦争が起きればこの企業はさぞかし儲かるだろう。
昨年から、穀物の価格が不自然に上昇していたが、それもアルコーンの関係者が裏から糸を引いていた。去年から穀物をすこしずつ買い集め、今回の高騰に合わせ放出することでずいぶん儲けたようだ。しかも、そいつは、いまだ穀物市場から手を引いていないらしい。まだまだ儲けるつもりのようだ。
それにしても、少しできすぎている。
悪魔の雑草は現代の人間には知られていない植物だ。
それを発見し、誰にも見つからないまま、こんなことに使うなんてことがあるだろうか? 今、それを考えても答えは出ないが、相当に大それた計画だ。こんなことをしでかした人間は相当に周到だし、冷酷なのだろう。
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