第27話 魔王は悪魔と語らう
夜。
いつものように、エルちゃんのお腹に抱っこされながらブラッシングしてもらう。
最近は調査で忙しそうだし、この子は夢中になると睡眠も食事もとらずに研究を続けてしまう。本人はきちんと休もうと思っているらしいが、気付けは時間が過ぎているという。
だから、こうしてお世話してもらって、普段の生活のリズムを思い出させるようにしている。
あの雑草の調査は順調のようで、すでにあの植物についておおよそのことは分かったという。ゲノム情報やライフサイクルはすでに分かったし、駆除方法もなんとかなるようだ。ただ、ただ、あの植物がどこからやってきたのかよく分からないそうだ。いくつか想像はついているようだが……。
『にーう(手伝ってもらえばいいのに)』
「契約の範囲外ですからね。巻き込めません」
ケイに手伝ってもらえば早く終わることは、この子も分かっているようだ。ケイは契約なんて気にしないと思うが、この子も頑固だ。
『なう(ケイの悩みを聞いてあげた)』
「そうなんですね……」
ケイがなにを悩んでいるのか聞きたいくせに聞いてこない。わたしも別に人の悩みを吹聴してまわる趣味などないが、この子は聞いておくべきだ。
だから、ケイが新しい生き甲斐を探していることも、悪魔になるための対価を用意しようとしていることも教えてあげた。
「対価なんて、そんなこと気にしなくていいのに」
自分は契約のことを気にするくせに、ケイには気にしなくていいという。それにしても、この子も気付いていないのか……。
『に? (使命のこと教えてあげないの?)』
「……あの人は優しいですからね。知れば、私のことを手伝ってくれようとするでしょう」
『な? (ダメなの?)』
「巻き込むには私の使命は面倒すぎますから。私のことなんか気にせずに、自分の生き甲斐を探さないといけません」
『んー(うーん)』
エルちゃんは、自分の使命に巻き込んでしまったら、ケイは自分の生き甲斐なんかそっちのけで、手伝ってくれると思っている。
その通りだろう。わたしでもそう思う。
だが、その先に考えが向かわないのは、使命が重すぎるからか……。
また悪い癖が出ているな。あんなのこの子が一人で背負うことじゃないのに……。
わたしはこの子が今まで何度も挫けそうなったのを知っている。この子はそれでも三千年近く背負い続けてきた。
よし、今日は選手交代だ。
エルちゃんのお腹から降りて、人間の姿になる。ケイに見せたバエルの姿ではなく、もう少し若い少女の姿だ。ケイには元の姿なんて忘れたと言ったがあれは嘘だ。エルちゃんの前ではときどき元の姿になっている。
久しぶりに膝枕をしてあげよう。ベッドの上に座って、膝をポンポンたたく。
「おいで」
そう言うとエルちゃんは、ベッドに上って嬉しそうに私の膝に頭を預けてきた。
エルちゃんの髪の毛はさらさらしていて気持ちがいい。髪を梳いているとエルちゃんは、すやすやと寝息を立て始めた。そのまま毛布を掛けて寝かしつける。
しかしまずい。
ケイには、エルちゃんの使命は本人に直接聞くべきだと言ってしまったが、エルちゃんは教える気がないようだ。
どうしよう。
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