第25話 悪魔が構ってくれない
あの謎の雑草の被害が広がっているらしい。
別の農地もあの雑草にやられたのだという。しかも複数の農地だ。小麦だけではなくライ麦の農地でも被害が出たと言う。今のところ被害は北の小さな国一つにとどまっており、周辺の国には全く被害が及んでいない。ただ、雑草の被害にあった農地の小麦は全滅だそうだ。
国際的な支援も始まったし、専門家で構成された調査チームが送り込まれたらしい。
小麦は主要穀物の一つだ。
もし今後、被害が拡大すると価格も高騰するだろう。それに、被害にあった国だけでなく、小麦を輸入に頼っている国の政情も不安定になるかもしれない。
かつて、小麦の不作のせいで、紛争やクーデターが起きたこともあったはずだ。
早く解決するといいが……。
バエルも、研究室にこもることが多くなった。
食事は一緒に取っているし、家事も一緒にやっているが、「お話」の時間は無くなった。その代わりに彼女は研究室にこもるようになった。
何か手伝えることはないかと思っていたら、食糧庫の管理を任せてもらえることになった。バエルも忙しいようだし、少しでも助けになればいいと思う。
この店の食糧庫はいつの間にか補充されるという魔法仕様だが、タネを教えてもらった。バエルの使い魔のカラスのふーちゃんとむーちゃんが外で調達して、魔法で転送してくれているのだという。あの二羽は朝早くどこかに飛び立っていく。オレもたまにバエルと一緒にご飯をあげていたが、食糧庫の管理を任されるようになってからは毎朝ご飯をあげるようになった。
欲しいものを紙に書いてカラスたちに見せれば伝わるという。ならばと、さっそく注文を紙に書いて、カラスたちに見せたら、翌朝には食糧庫に補充されていた。
小麦の値段はこれから高騰するかもしれないので、小売価格が安いうちに小麦粉を仕入れておくことにした。ただ、すでに品薄になってきているので、あまり大量には買えなかった。代わりに米やオートミールをいつもより多めに注文した。
***
先日解体して塩やハーブに漬けておいたイノシシの肉を、塩抜きしてから、日陰で風にあてて乾かしておいた。ここまでで、一週間くらいかかっている。そして、今日は、いよいよ燻製である。
冬に菜園のリンゴを剪定したときの太い枝があったので、それで燻製用のチップを作っておいた。さすがに燻製室みたいな専用設備などないので、大きめの木製の空き箱で代用する。
煙の温度を確かめて、箱を閉じる。ここから数時間燻して完成だ。バエルは燻製のやり方は教えてくれたが、完成を見届けることもなく、そのまま研究室に行ってしまった。
まあ、燻製なんて、着火して箱を閉じるだけなので、仕方がない。
出来上がったところを一緒に味見したいとも思っていたが、仕方がない。
……仕方がないのは分かる。
しかし、なんだかさみしい。
この地獄に来てから、ずっとバエルと過ごしていたのだ。ほったらかしと言うわけではなし、きちんと相手もしてくれるが、すれ違っている気がする。でも今のオレには家事くらいしか手伝えることがない。
そんなことを考えながらコーヒーをすすっていたら、向かいの席から声をかけられた。
「さみしいの?」
顔を上げると、そこにはバエルが座っていた
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