第21話 悪魔は回想する

 とある人間が悪魔も実現できていない技術を実現した。


 ある日、使い魔のふ―ちゃんとむーちゃんが、そんな情報を拾ってきた。

 はじめはそんな馬鹿な、と思ったが、詳しく聞くとどうやら本当らしい。同時にその男に興味がわいた。

 いつか、その男から話を聞いてみたい。そして可能ならば教えを乞いたい。そう思っていたら、いつの間にかよく分からない罪状で告発され、あっという間に懲役刑を食らっていた。そして、男が刑を受けている間に、男が開発した技術を他の者が奪っていった。


 男を地獄に招いて、最初にその事件のことを聞いた。

 案の定、冤罪のようだったので、ふーちゃんとむーちゃんに調べさせた。

 思った通り、全員真っ黒だった。政治家も検察も裁判官もマスコミも、寄って集って彼にぬれぎぬを着せるのに手を貸していた。

 原因を探ってみると、彼は、冤罪を着せられる数か月前、軍事関係の会社からの業務提携の話を断っていた。いくつかの持ち主を経て、最終的に彼の技術を奪っていったのはその会社だった。その会社が裏から糸を引き、みんながそれに手を貸したのだった。

 許せないと思った。


「巨人の肩の上にのる小人」という言葉ある。

 先人たちの積み上げた業績に基づいて新たな業績が積み上げられていくことを指して言う言葉だ。

 私は知恵の悪魔などと名乗っているが、烏滸がましいと思っている。私など、偉大な先人たちが積み上げ、培ってきた知を借りているに過ぎない。先人の成果がなければ私は小人ですらないのだ。

 加えて、驕ったら最後、知恵の悪魔など名乗れないとも思っている。驕ってしまっては知を探求することなどできはしないのだ。

 だから、知に関わる者は、当然、先人達とその業績に敬意を払うべきであると考えている。それが、知恵の悪魔である自分のルールでもある。


 彼はなぜか自己評価が低いが、悪魔の自分から見ても紛れもない天才だ。確かに彼の開発した技術はまだ改善の余地は多分にあるし、彼もまだ納得していないようだった。それでも悪魔でも思いもしなかった理論を構築し、技術を実現させたのだ。

 信じられないことに、奴らは、そんな彼の業績に敬意を払うこともなく奪った。そして彼をボロボロになるまでいじめて捨てた。

 だから、せめて自分だけでも敬意をもって接しなければと思った。


 そして、いざ招待しようと思って準備していると、彼は自殺してしまった。あわてて死体を拾ってきて再生した。彼は本名を呼ばれるのを嫌がったので、ケイと呼ぶことにした。


 人間にはたまにコミュニケーションがとりにくい奴らがいる。自分の話したいことだけ話してこちらの話を聞かない奴らだ。ケイもその類かと心配したが、たとえそうであっても、居場所を与えて心が癒えるまで付き合って、その後の生活の保障くらいはしようと思っていた。それが私なりの敬意だ。

 だが、そんな心配は杞憂だった。ケイとは気が合った。


 私の話は難しいらしい。

 知能が高いはずの悪魔ですら、私の話に付き合ってくれない。

 だが、ケイは優秀な生徒だ。普通の人間なのに私の話に付き合ってくれるし、ゆっくりではあるが、私の説明を着実に吸収していく。

 ケイは私に教えてもらうことを申し訳ないと思っているようだが、とんでもない。これでいいと言っても納得してくれない。

 どうすれば伝わるだろうか?


 ***


 彼の技術を奪った企業は、しばらく大人しくしていた。

 調べてみると彼の技術を持て余しているらしい。

 奪ったくせに扱いきれないなんていい気味だ。

 しかし、最近、資本金と研究開発部門の増強を発表した。目的は新規技術の開発と言っていたが、彼の技術の研究開発を推し進めるのだろう。

 だが軍事関連メーカーだ。どうせろくなことに使わないだろう。


 あの技術は危険なのだ。人間に持たせておくとどんなことに使うか分からない。それに、私が知らないことを他の誰かが知っているという状況が落ち着かなかった。このところ彼に構うのが楽しくて忘れかけていたが、本分を忘れてはならない。

 だから、そろそろ彼にあの技術のことを教えてもらおう。そう思って、彼にあの技術のことを教えてほしいと頼んだら、しばらく待ってほしいとお預けにされてしまった。

 そうして、しばらく待っていたら、彼から悪魔になる方法を聞かれた。

 一瞬、この先ずっと、彼と生きて行けるのだと夢想した。

 だから思わず、悪魔になるのは簡単だと口走ってしまった。実際悪魔になるだけなら簡単なのだ。だが、すぐに冷静になった。今、悪魔になっても彼はまた死んでしまうかもしれない。

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