冒険者になろう 4
料理が届くまでの待ち遠しい時間を感じる間もなくサズァンが現れて、そして消えた。
それから間もなく二人のもとにペペカグというパスタが届いた。
食欲をそそるニンニクとオリーブオイルの香ばしくいい香りとパスタの中に見え隠れしているエビとイカ。
「これがペペカグですかー、それじゃいただきます」
「いただきます」
二人は同じ挨拶をした。そこにモモは疑問を感じる。
食事の作法は神を信じる者か、食材の命に感謝をする自然崇拝者で大きく別れており、前者は各々が信じる神に祈りを捧げ、後者は自分の為に犠牲になった命にいただきますと言う。
オークは自然と共に生きる事を良しとするので、自ずと自然崇拝者になるが、ムツヤは邪神だが神であるサズァンの庇護下に居るようなものなのでサズァンに祈りを捧げるものだと思っていたからだ。
当時は疑問に思わなかったが、よく思い返すとモモの家で食事を振る舞った時も同じだった。
しかし、深く聞いてもあのムツヤ殿とサズァン様の思考なんて自分には理解できないし、想像するだけ無駄なのだろうと、フォークを手にとってパスタに挿し、くるくると巻き付けた。ムツヤもモモのそれを見て真似をする。
ムツヤは見よう見まねで食べた、にんにくとオリーブオイルの風味は今まで味わったことのない感じで、少し辛味がある。
フォークの先に刺さっていた白い奴、エビは知っているのでこれはイカだろう。これも不思議な歯ごたえの中にほのかな甘みがあった。
「モモさん、これメッチャ美味いですね!」
上機嫌なムツヤを見てモモはホッとする、やっと機嫌を治してくれたらしい。モモは笑顔でそうですねと相づちをして食べていた。
食事と会計を終えた二人は一度冒険者ギルドのレストランを出た。
オークの村の村長に口止めを頼むためにどこか人気のない場所を探す。しかし街中で使えばどこで誰に見られるか分からないので宿を取る事にする。
「私が街に来る時、使っている宿があります。そこで空き部屋が無いか聞いてみましょう」
モモに案内され少し道を歩いてたどり着いた宿屋を見たムツヤの感想は「お世辞にも綺麗とは言えない」というものだった。
しかし、それは経年劣化でサビや塗装が剥がれてそう感じるだけで、決して不衛生ではない。
扉を開けて中に入ると掃除が行き届いたフロントがそれを物語る。
「誰かと思えばえーっと、あぁ、オークのモモちゃんかい」
メガネを掛けた白髪の老婆が2人を出迎えた、客を出迎えるのに立っておじぎをするでも無く。ロッキングチェアにどんと座り、ゆらゆらと揺れていた。
フロントで数人の亜人や貧乏な冒険者たちが座ってタバコを吸っている椅子よりもよっぽど豪華だ。
「後ろの兄ちゃんは連れかい?」
いぶかしげに老婆はムツヤを見た。この宿は一見さんが歓迎されないことと、上からの目線の接客に目をつぶれば安くそこそこ綺麗な部屋に泊まれるのだが。
「は、はじめましで!! 俺はムツヤっでいいまず!」
「はっ、どこの田舎っぺだいその訛りは」
老婆は歳をとった女独特のネチッこい、シャクにさわる声色で言う。このままではまたムツヤの心が折れて三角座りを始めると思い、モモはすかさずフォローに入る。
「グネばあさん、ムツヤ殿は異国より来たのだ。多少の言葉の違いもある、私は訳あってムツヤ殿の旅のお供を」
「訳って何だい? 惚れた腫れたかい?」
モモは顔に血液が集まってくるのを感じた、左手を胸に当てて前のめりに否定をした。
「ち、ちがう、ムツヤ殿に少し世話になっただけだ!!」
「わかったわかった、そういう事なら一緒の部屋で良いね?」
グネばあさんと言われた老婆はそう言ってニヤリと笑う。わざとか勘違いかは分からないがこの状況を楽しんでいることだけは確かだった。
「い、いや、流石に同じ部屋で寝るってのは……」
「別に俺は大丈夫ですよ、モモさんどは一緒に寝ましだし」
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