第二十七話 変態からの解放
——なんだろう…?
僕は、何かの音で目が覚める。目覚ましをかけた覚えはないし、見当はつかない。
「着信…?」
どうやら、鳴っているのはデバイスのようだ。
「ふぁい…」
『ハロー!いや、グッドモーニングかな?とにかく来てくれたまえよ!』
「こんな時間にに?てか、休みですよ…」
『もう、あれから一週間が経つじゃあないか!お休みおしまーい!はい!今から終わります!』
「ぶー、わかりましたよ」
仕方がないので、言われた通り向かうことにする。この分なら、彼のラボだろう。
◇
「おはようございまーす」
ラボへと足を踏み入れた時、大きな影が動く。
「ま゛も゛る゛ぅ゛」
「おわぁ!」
影の正体は、ペガメント。なにやら、怯えている様子。
「遅いじゃあないか~。待ちくたびれたよ?」
「今度は何やったんです?」
「言わなくてもわかるでしょ?研究をだね」
「はぁ…」
僕は、本題に入る。
「それで、今日は何の用なんです?」
「いや、大したことじゃないんだけどね。彼の引き取りに来てもらったのさ」
「引き取り?」
先ほどから、ずっと機動さんから距離をとるように動いているペガメントが口を開く。
「ほ、ほら。オレさまたちは、
「んんんんん、まあその限りではないのだけれどね」
「なるほど。それで、用はこれで終わりなんですか」
機動さんは、やれやれというような仕草をする。
「せっかちだねえ。何を急いでいるんだい?」
「いや…、もっと寝たいっていうか…」
「今日は、何時間ほど睡眠をとったんだい?」
「ざっと、十時間ほどですかね」
「あら、もう充分とっているじゃあないか」
——確かにそうだな。
「でも、なんだか最近変なんですよ。いくら寝ても、寝足りないっていうか…、もっと寝たいっていうか…。たまに、白髪が増えたり減ったりしますし…」
「何だって?それはいけない」
そう言うと、機動さんは引き出しから一つ、何かを取り出してくる。
「これを使ってごらんよ」
「これは…、白髪染めですか?」
「そ。これからは、何かと必要になるかもしれないからね。ボク自作の特別性だよ」
「なんだか不安ですね」
「信用無いんだなあ。ま、とにかく隠さないといけないこともあるから」
「はぁ…」
機動さんが言う『何か』っていうのかわからないけど、まあいいか。
「なぁ、
「『こんなところ』とは失礼だねえ??」
「ヒィエ‼逃げろ!」
ペガメントは、慌てた様子で僕を小脇に抱えて、ラボを後にする。
——これ、周りからはどう見えているんだろうか?
デカいのが、(比較的)ちっこいのを抱えて走り回ってる絵面って…、なかなかないと思うなぁ。でも、不思議とみんな注目したりはしてないな。慣れてるんだろうか?いや、多分見て見ぬふりだなあ。
「あ、僕の部屋ならそこを右だよ」
「なに⁉もっと早く言え!」
「いや、目的地がどこか知らないし、とりあえず言っただけだし」
「舐めてんのか?」
「いや」
「そうか」
とにかく、僕の部屋を目指しているのはわかった。そして、その後もいろいろあった。ペガメントが何回もずっこけて、その度に僕が床やら壁やらにぶつけられる羽目になったり。あとは、ペガメントのズボンのチャックが開いてたりとか。他にもあるけど、まあいいや。
◇
「そこが僕の部屋ね」
「うーい」
ようやく、僕の体が降ろされる。まだ、風を切る感覚と浮いている感覚がする。
「ところで…。僕の部屋に何のご用でしょうか?」
「いや、お前が寝てえとか言うからよ。それに…、オレさまの部屋もここだって聞いてな」
「あらそう」
部屋へ入るなり、彼が口を開く。
「お~、中はなかなか広いじゃあないの」
「まあね」
「それで、オレさまの寝床はどこだ?」
「そんなものはないよ」
「え、てっきり用意されてるもんかと。ま、何とかすんべ」
ペガメントは、辺りを一通り見まわした後、一つの疑問をこぼす。
「それにしても、何にも
「そんなもんだよ」
「いや?他のやつらは結構、趣味のモノとかおいてるらしいぞ?」
「ふーん。じゃあ、君の好きなものでも置くといいよ」
「そうか~。なんか考えておくわ」
「ん」
——そうか、他の人はなんか置いてるのか。
そう、僕はこの寮に越してくる時に特に何も持ってきてはいない。必要ないと思ったから。実際、これまでの経験とか、これまで得たモノとか、あんまり必要なさそうだったし。家に置いておけば、ひとまずは大事だとも思ったし。
そこまで考えて思った。
——あれ…?僕の好きなものってなんだ?
いやまあ、食べることとか寝ることはそりゃあ好きだし、もっと楽しみたいとは思ってる。でも、特別好きってわけでも、これが一番好きとかは無いんだよね。強いて言えば、何でも欲しい…かな。手に入りそうなものなら、基本欲しい。そういう気持ちがずっとある。そして、今一部が手に入り、これからそのすべてが手に入りそうなもの…。一番欲しいものを挙げるとするならば『力』だろう。
力というのは、ある程度の上限があるものだと、僕は思っている。そして、僕にとっての睡眠や食事は、際限なく求めてしまう…、いくら得ても満たされないものだ。その中で、いつか成長が止まる力は、そこが到達点。手に入るすべてが手に入ったことになる。きっと、そこで満足できるだろう。そんな気がしている。
だから、僕は力を求める。始まりや終わりがどうだろうと関係はない。そのために、最も力に近いと思われる亜人と手を組むことにした。チームを組むなんて話が出た時は、やったねと思ったね。それによってどんな結果が待っていようとどうでもいい。ただ、力が手に入りさえすればいいのだ。
どんな形でも、最後は最期なんだから。
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