第二章 夢を見る少年

第二十六話 『夢』の始まり

 ここは、とある場所のとある建物のとある一室。そこには、一人の亜人と一人のが居た。亜人は、パジャマを着ていて、身長は3メートルを優に超えている。は、一見人間のように見える。白髪はくはつで、身長は1.9メートルというところだろうか。両者ともに、恵まれた体格をしている。


「ずっと…、を見ていたいと思わないかい?」

「…、そうは思わないな」


 亜人は、白髪に語りかけている。


「ボクはね…、ずぅっとを見ていたいんだ」

「話を聞け」

「どうして夢は覚めてしまうんだろうね…?」


 亜人は、窓から下を、町の様子を眺めている。


「みんな、を見ているはずなのに…。みんな、ずぅっとはずなのに…」

「そりゃあ、それが普通だからだ。夢を見るのは幼い時だけ。成長するにつれて、どんどんと夢を諦めていく。夢を見ていいのは、布団の中だけだ」


 亜人は、少しだけ悲しそうな顔をする。しばらく、俯く様子を見せていたが、再度口を開く。


「みんな夢を見たいはずだ。それを望んでいるはずだ。この町に居るみんなが、ずぅっと夢を見るためには……、どうすればいいと思う?」


 白髪は、にやりと笑う。そして小馬鹿こばかにしたように口を開く。


「だったらよ…、【メーム】。お前が、それを助けてやればいいんじゃあねえか?」

「名案だね。そして、


 亜人は、手のひらを上に向け、腕を前に出す。そして、その手のひらからは、霧状のものが現れ始める。それは、どんどんと町全体へと広がっていく。霧が町の全てを飲み込むとき、亜人は、白髪へと語りかける。


「キミは…、一緒に見てくれるよね?ボクと一緒に…、夢を見てくれるよね?」

「…、ま、たまにはいいだろ。見てやるよ」

「ありがとう。【印守しるす】」


 町は、夢の中へと消えていった。





 ラジオットとの戦いが終わって、少し経った頃。縁葉みどりばさんが呼んでいた、D.M.Sからの応援部隊が到着した。まったく、もう少し早く来てくれればいいのにな。まあ、今回は運良く勝てたからいいものの…。


「なあ、真守まもり?そろそろ離れてくれないか?」

「え~?」

「いや、その…、人来てるから。人目が気になるから。2メートルに3メートルが抱きついてる絵面は珍しいから」

「もう我慢しなくてよくなったもんね~。今までの分を、今堪能してる」

「……、わかったよ」


 数台やってきた車の中から、見覚えのあるシルエットが出てくる。


「おお、おお~!これがラジオットか~!テンション上がるな~‼」

「げぇ…。機動きどう……‼……、さん…」

「んん?キミはだれだぃぃん⁇黒川くろかわクン、説明してもらえるかな?」


 露骨に嫌そうな反応をする真守に、機動さんは興味を示す。俺は、端的に答える。


「ああ…、いや…。真守です」


 機動さんは、おおげさに驚くような仕草をする。


「ええ~⁉もしかして…、亜人になっちゃったの~⁉…、まあだろうなとは思ったけど」

「どういうことです?」

「んあいや?まあ、前々から、彼女は。それに…、数分君の生体反応が消えたからねぇ。まあ、何をしようとするかは、想像はつく」

「はぁ…、そうですか」


 そこで、俺は一つ引っ掛かる。


「わかってるってことは…。

「なんのことだい?」

「亜人が人間だってことですよ」


 機動さんは、左手のひらに右こぶしを打ち下ろし、なるほどという仕草をとる。


「あ~。知らなかったの?まあ、知ってても知らなくても、任務をこなすのに支障はないんじゃないかな?」

「いや…、少なくとも俺は知った時に動揺しましたね」

「ふ~ん…?ま、黙っといたんだけどね」


 ——この人、実はヤバい奴なんじゃあないだろうな?


 前々から、変な人だなとは思っていたが、そのベクトルは変どころでは言い表せないかもしれなくなってきたな…。これでも、D.M.Sにおける重要人物の一人である以上、こちらから何かするということはできないのだが…。


「それよりも、お~い!ちょっとこっちに来てくれ~!」


 機動さんは、数人の隊員をこちらに呼ぶ。


「キミたち、ちょっとこの死体を運んでくれないかな?おねが~い?」

「了解」

「了解って…、もっと茶目っ気のある返事をしてくれないかな~?」

「機動さん、無茶言わないであげてください」

「黒川クン~?キミは茶目っ気ない筆頭だよ⁇ブーブー!」

「善処します」

「まあいいや。ボクはラボに戻るとするよ。バイバ~イ」


 そう言い、機動さんは車へと帰っていく。


「くぅ~~‼機動のやつムカつく~!」

「まあ、そう言うな真守」


 俺たちも、一度D.M.Sへと帰ることにした。





 あれから、俺たち43班はD.M.Sへと帰還した。赤根あかねは特にケガもなく、黄瀬きのせさんも特に問題はなさそうだ。縁葉さんは…、報告やら何やらがたくさんあると頭を抱えていたが、問題はない。俺はというと…、一度死んでしまったみたいだが、まあいいだろう。真守は…、大丈夫ではないが、本人も始めほど気にしていないようだし、これから俺が何とかする。

 気がかりは、キュアーのことだ。あの戦い以来、なんだかといった感じだ。あとで、様子でも見に行くか…。


「それじゃあ、また明日」


 俺たち男は、男子寮へ、他は女子寮へと帰っていく。真守は…、まあしばらくは帰れないだろうな…。


「それにしても、よく生きてましたね~、黒川さん」

「まあな。俺もびっくりだ。しかし…、そのせいで真守がな…」

「まあまあ、そこまで気にすることはないですよ!本人も満足そうですし」

「そんな単純な問題だといいのだがな…」


 赤根とそんなやりとりを交わしていると、黄瀬さんが声を出す。


「それよりも、今はとにかく休め。いろいろあって、疲れているだろう。かくいう俺も、腹がこれだからな。傷は塞がったとはいえ、まだ油断ならん」

「そうですね。それに、もうそろそろいい時間ですからね」

「ですね~」


 しばらくして、俺の部屋の前まで到着する。


「それじゃあ、二人とも、また明日」

「ああ」

「はーい」


 俺は、部屋へと入り、ベッドに横になる。


 ——今日は、本当にいろいろなことがあったな。


 俺自身の覚悟というものを、改めて考えさせられたし…、いきなり、休みになるわ休んでると爆発するわ…。亜人についても、考えさせられたな…。亜人にもいろいろあるのだな。それに、一度死ぬとは思っていもいなかった。結果、真守をあんな目に遭わせてしまった。真守自身が望んだ結果とはいえ、俺のせいでああなったことに変わりはない。


 ——また、やってしまった。


 今日は、何度もそう考える。悪い癖だが、どうも治らん。仕方ないということにしよう。明日も、きっと今日の件でいろいろあるのだろう。それに、キュアーの件も気にしておかないとな…。とにかく…、休まなくては。なにごとも…、落ち着いて…。


 考えているうちに、俺の意識は夢へと落ちていく。

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