第二十四話 由緒良き、健やかなる人
僕の名前は、【
ボクには、亜人になっても『成し遂げたいこと』があった。できなかったけどね。
だから、ボクは
「
ボクは、走った。誓いを守るため。二度と後悔しないため。とにかく助けるために走った。
「
後ろで、
「黒川くん!黒川くん⁉起きて黒川くん!」
黒川くんは、目を開けない。頬を叩いて、名前を呼ぶが、彼は答えない。
「こっちはどうだ⁉」
ボクは、そのすぐそばで倒れているラジオットのほうを向く。
「あ…、あぁ……。
彼のほうは、意識があるようだ。誰かの名前を呼んでいるようだが、今はどうでもいい。
——とにかく、黒川くん優先だ!
ボクは、黒川くんのほうへと向き直り、彼の胸へと手の平を突き立てる。
「『温泉』パワー全開‼」
ありったけのパワーを手のひらから放ち、叫ぶ。
「【
ボクは、手のひらから全力で能力を放つ。今度の傷は、さっきのお腹の傷よりも酷い。もはや、一刻の猶予もない。能力を浴びた胸の傷は、普段とは比較にならないほど一瞬のうちに塞がり、元通りになる。
「さあ、傷は治した。黒川くん、目を開けるんだ」
ボクは、黒川くんの体を揺さぶる。
「…?黒川くん……?」
黒川くんは、目覚めない。
「冗談やめてよ…。笑えないよ……?」
傷は治った。黒川くんは、戻らない。
「う…そ…。嘘だ…!」
隣にいる青山さんが、声を出す。
「信は…?信はどうなったの…?」
「……」
彼女は、ボクに掴みかかってくる。
「答えなさいよ‼信はどうなったの⁉治ったの⁉」
ボクは答える。
「…、治った。治した…」
「じゃあ、なんで目を開けないの⁉」
「……」
「何とか言いなさいよ‼」
「……、彼は……黒川くんは…」
認めたくないが、答える。
「死んだ」
「⁉」
「即死だった…。胸を貫かれた時点で…もう…」
ボクを掴む、青山さんの手から力が抜ける。
「そ…んな…」
彼女は、頭を抱えて、その場に崩れ落ちる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼」
——嘘だ…。
『——
——またか…?
『——ずっと、一緒に居られるといいね‼』
——また、後悔するのか…?
『——健人~?』
——また……?
『——私…、どうしたらいいのかな…?』
——助けられなかった…?
『——もう、嫌になっちゃった……』
——また繰り返すのか……?
『——ありがと!もう少し頑張るよ!』
——ボクには……。
『——やっぱりダメだなぁ…』
——何も……。
『——死んじゃったら、楽になるのかな…?』
——救えないのか……⁇
『——危ない‼』
「そうだ!」
まだ、一人居た…!助けなきゃいけない人が!
「ラジオット!」
「どうして…、死んだ君が出てくるのかな…?」
「おい!ラジオット‼」
「ああ…、ボクちゃんも…、ついに過去になるのかぁ…」
ダメだ。何も聞こえてない。でも、生きてるみたいだ。これなら…!
「三度は繰り返さない!」
ボクは、ラジオットへと能力を使おうとする。腕を、胸の傷に伸ばそうとした時、ラジオットは、ボクの腕をつかむ。
「だ…めじゃあ…ないかぁ…。このまま、死なせておくれよ…。死にたいんだよぉ…」
「何言ってるのかな…?」
「死ねば…、過去になったアイツのところへ行けるんだ…」
「ごめん。その頼みは聞けない」
「ど…して……」
ボクの誓いは、まだ終わってない!
「悪いけど、『死にたい』って言ってる人は、絶対に助けることにしてるんだ。おせっかいここに極まれりってね」
「…、そう…」
ボクは、能力をラジオットに向けて放つ。胸の傷は、完全に塞がる。
「……」
彼は、自分の胸に手をやり、
「ああ…、まだここにある…。まだ、今だ」
少し遠くから、赤根くんがボクを呼ぶ。
「おーい!こっちもお願いしまーす‼」
「……、わかった」
ボクは、赤根くんと黄瀬くんのもとへと向かう。
「もう大丈夫。すぐ治すよ」
「助かる…」
黄瀬くんのお腹も、完璧に治す。
「ごめん…。黒川くんは…」
「……」
黄瀬くんは、黙っている。否定も肯定もしない。
「ありゃ~。ついに死んじゃいましたか~」
声を出したのは、赤根くんだ。
「うん…。間に合わなかったよ……」
ボクは、どうして生き残ってしまったんだろう。あの時、死んでいれば、こんな想いはしなくて済んだのかな。
「は…、あっははははははははは‼」
「⁉」
声の方向へと振り向く。声の主はラジオット。立ち上がっている。そして、右手を頭の横へと持っていくところが見えた。その手には、一つのカセットテープ。
「…⁉まさか⁉」
「そのまさかだよ~ん‼いまここで殺してやる‼」
ボクは、走った。必死に走った。
「もう遅い!ボクちゃんが殺すのは…お前の心だ‼」
ラジオットは、その顔に満面の笑みを浮かべる。
「一生、過去に
「よせぇぇぇぇぇ‼」
ボクが叫んだのも
「【
彼の頭は、吹き飛ぶ。
「あ……、ああ…!」
——三度…!
もう、ボクには…誰も助けられない…。
ボクの目の前は、真っ暗になった。
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