第二十二話 協力戦

 【スイーツ】と名乗った亜人は、怒っている。


「いやだなあ~、。そう怖い顔しないで~♡それに、なあに?って。ちゃんとした言葉使ったほうが良いよ?」

「くぅ~~‼人の神経を逆なでする野郎だなぁ‼三角コーナーみてぇな掃きだめ野郎には丁度いいだろがい‼」

「あらぁ☆傷ついたな。よよよ~」


 ラジオットは、わざとらしくよろける仕草をする。そしてそれを見たスイーツはさらに怒る。


「じゃあもっと傷つけてやるよ!」


 そう叫ぶと、スイーツは右腕を上に掲げる。すると、その周り…、特に拳に何かがたくさん現れる。


「行くぞオラぁ!」


 スイーツは、ラジオットに向かって駆けていく。そして、その右腕を振りかぶり、思い切り振る。ラジオットに、それを


「【マカダミアナックル】‼」

「おおっと、危ない」


 防御しないかと思われたラジオットは、腰のあたりからカセットテープを一つ取り出すと、迫る拳に向かって構える。そこからは、テープがあった場所に大きな鉄板が現れる。それは、人が一人隠れられそうなほどの大きさだ。


「無駄じゃい‼」

「…!」


 スイーツの拳は、鉄板へと命中し、ものすごい音をあたりに振りまく。そして、そのまま受け止められると思われたその時、鉄板を突き抜けて、拳が伸びる。それは、そのままラジオットの胸へと命中する。


「あら~!」


 拳が当たったラジオットは、数メートル後ろへ転がっていく。


「イタタ~。なかなかやるねぇ。」

「このオレのナッツはだ!」

「それは、と呼べるのかな?」

「オレが、ナッツと言えばナッツなんだよ!」

「あっそ」


 ラジオットには、大したダメージは見受けられない。しかし、これでいくつかわかったことがある。


 一つ、ラジオット自身には、打撃を受け止めるだけのパワーはない。

 二つ、携帯しているテープから何かを取り出すことが出来る。

 三つ、それさえ阻止すれば攻撃が当たる。


 もっとも、今の俺には三つ目を実行することはできないが。


 縁葉みどりばさんが、声を出す。


「【マカダミアナックル】…、奴の技名だったのか…。ということは、他のメニューも…」

「ワタシも同じこと考えてました。その名前の中身はまだわかりませんけど」

「とにかく、今のところは我々の敵ではないようだ。どうにかして、協力できれば勝機はあるかもな」


 なるほどな。確かに、戦力は多いほうが良い。それに、奴はパワー型のようだし、さっきの攻撃の威力を見るに、ラジオットへと届きうる可能性はある。


「だったら、コイツはどうだぁ‼」


 スイーツはそう叫ぶと、左足を前に出す。その左足からは、何かが溶け出し、ラジオットへと地面を伝って伸びていく。


「【デモンズチョコレート】‼」


 ラジオットの足元まで伸びていき、その周りをどんどんと取り囲むチョコレートのような液体から、複数の柱状のものが伸びていく。そして、それらは触手しょくしゅのように、ラジオットへと襲い掛かる。


「え?何これ?ヤバそう」


 その場から、ラジオットは逃げ出そうとする。しかし、その直後、その表情を硬くする。


「脚が動かない…!って、ああ~!足になんかが貼りついてる!」


 どうやら、足元のチョコから腕のようなものが出てきて、それが足を掴んでしまっているらしい。これでは、逃げられない。そして、その逃げられないラジオットへと、チョコの触手はみるみるうちに迫っていき——


「あら…!」


 その身体に巻き付いていく。何本も何本も。腕を、脚を、そして、その全身を。ラジオットは、身じろぎこそするが、動けなくなってしまう。


「へっへ~、もう逃げられないぜぇ~?」


 その瞬間、縁葉さんが叫ぶ。


常好つねよし赤根あかね!今だ!」

「「!」」


 その言葉の意味を理解したのか、二人はラジオットへと駆けていく。そして、黄瀬さんは奴のボディへと拳を叩き込み、赤根は、奴の頭めがけてハイキックを放つ。


「ぅぐ…‼」


 その攻撃は、どちらも奴へと命中する。予想通り、奴には防がれさえしなければ攻撃が通るようだ。


「あっ!何やってんだよ⁉オレのだぞ!」

「そんなことも言ってられないだろ。お互い共通の敵なんだし、ここは協力して倒すぞ」

「お…おお…。なるほどな…、わかった!」


 赤根が、ラジオットへ向かって声を出す。


「それよりも、僕思ったんですけど、君のキャラ最初と変わってない?」

「あ…?何言って…」


 スイーツは、そこまで言って気づく。


「あっ、いけね!いや、違う。としたことが、うっかりしてたよ~。スマイルスマイル」


 スイーツは、最初のような柔らかな雰囲気に戻る。


「今だ!」


 しかし、その隙を見逃すほど、敵は甘くはない。少し気が緩んだのか、弱くなった拘束から、ラジオットは逃れる。


「しまった!」

「もー!ちゃんと掴んどかないとボコボコにできないでしょうが!」

「うぅ~、ごめんよぉ…」

「キャラの変わりようがすごい」


 距離をとったラジオットは、また一つのテープを取り出す。それは、をしている。


「これでも喰らってろ!」


 そして、それを三人に向かって投げる。


「【再生リプレイ】!」


 ラジオットがそう唱えると、テープから一つの小さなミサイルが飛び出す。


「【庇護欲の塊ラヴァーズ・フィールド】!」


 黄瀬きのせさんは、左腕を前にする形で構える。その構えた左腕からは、そこを中心にして、黄色く透明なバリアが展開される。


「ひゅー!黄瀬さんさすがー!」

「よっ!スイーツ大王だいおう!」

「ふっふ~。そんな褒め…、スイーツ大王⁉」


 黄瀬さんは、スイーツの言葉にオーバー気味に振り向く。そして、それを見ていたラジオットは、その様子にイライラしている。


「あ~!お前らばっかりうらやましそうだなあ!いつもそうだ!この世の中っていうのは、誰もかれも、当たり前のように今日を生きている!そして、明日を当たり前のように待ち、昨日を忘れていく!本当に、羨ましい限りだよ‼」


 ラジオットは、攻撃を忘れ、怒りを言葉にする。そこへ、黄瀬さんが指先を向け——


「【庇護欲の一線ラヴァーズ・ライン】‼」


 その指先から一本の光線を、ラジオットに向けて飛ばす。


「ぅお…!」


 ラジオットは、それを手のひらを構えて防ごうとする。


「バリアの応用編だ。バリアを一点に超圧縮して、それを放つ。これは、なかなかの自信作なんだ」


 黄瀬さんの能力は、剣を作ったり、拳を硬くする能力ではない。あくまでも、『バリア』のみである。そして、それらは自身の体に一部分だけでも触れていなければならない。しかし、『変幻自在』や『数秒だけ切り離せる』という、その特性を利用して、このように攻撃の手段として利用している。何度見ても、その発想と使い方には圧倒される。


 黄瀬さんの放った光線は、もちろんラジオットに命中する。しかし、手のひらを貫通して奴へ当たると思われたそれは、奴の手のひらへと吸い込まれ、消えていく。正確には、いつの間にか持っていた黄色いテープへと吸い込まれていく。


「何…⁉」

「ふぅ…。危ない危ない。もう少しでやられちゃうところだったな☆」

「コイツは…、厄介だな…。」

「分析している暇はないよ!【再生リプレイ】‼」


 そして、そのままそのテープを三人の方向へと突き出し、そこから、先程取り込んだ光線を放つ。


「うぉ!」

「危ない!」

「わ!」


 三人は、それを難なく避ける。どうやら、三人には見てから回避するだけの余裕があるようだ。ひとまずは安心だな。


 ——いや、待て⁉


 安堵したのも束の間、命中せずに通り過ぎていった光線を見て、俺は驚愕きょうがくする。


「一つだけ教えておいてあげるよ。ボクちゃんのテープにはね、いくつか種類があるんだ。まず、ただテープ。これは、手とかで持っているときにしか使えない。次に、ボクちゃんの手を離れてからも、使赤いテープ。これは、さっきのミサイルとか、爆弾だね」


 ラジオットは、続ける。


「そして最後に、取り込んだものに二つほど『要素』を付け加えることが出来る


 通り過ぎた光線が、Uターンして戻ってくる。


「そして、さっきの『ビーム』に『消えない』と『好きに操れる』という要素を付け加えた…!」


 ——まずい!


 そう思ったが、遅かった。それは、瞬く間に黄瀬さんの背後へと迫り——


「…⁉」


 黄瀬さんの腹部を貫通する。

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