第二十一話 『スイーツ』のおみせ

 事態が飲み込めない。何が起こった?爆発音?どこで?

 

まこと!」

黒川くろかわくん‼」


 真守まもりとキュアーが、俺の名前を叫び、駆け寄ってくる。


 その声を聴いて、何が起こったのかを理解する。


 ——また、やってしまった…‼


「ぐぅ…‼」


 世話をかけないと誓った瞬間にこれだ…!全く、つくづく自分が情けないよ。


「みなさん、すみやかに避難ひなんしてください‼」

「こっちこっち、こっちですよ~‼」


 黄瀬さんと赤根が、店内から店外へと、避難誘導を行っている。縁葉さんは、デバイスで、救援と応援を呼んでいる。


 ——今日のは、一段とひどいな…。


 自分の腹を見る。先の爆発で、とんでもないことになっている。爆発の威力こそ、そこまで大きくはなかったが、カセットテープの破片がたくさん腹に刺さっているのが見える。きっと、見えていないが、中にもたくさん入っているのだろう…。


 これが、そのまま爆発したかと思うと…、ぞっとする。きっと、俺の腹どころの騒ぎではない。一般人も、たくさん巻き込まれただろう。


 ——まずい…、意識が…!


 爆発のおかげで、俺の腹は。出血もかなりの量だ。これは、本格的にまずいな。


 真守が、キュアーに向かって叫ぶ。


「キュアー!早く、信を‼」

「わかってるよ‼‼でも、破片とか取り出さないと上手くいかないかも…!」

「だったら、止血だけでも‼」

「!わ、わかった!」


 キュアーは、両手を合わせ、それを俺の腹の上まで持ってくる。そして、その指先から、『お湯』をちょろちょろと流す。


、なかなか熱いな…!」

「黒川くんは、おとなしくしてて‼」


 程なくして、出血は止まる。これで、失血死は免れたと思うが、いかんせん、傷が深い。


 ——俺は、まだ死ぬわけにはいかない‼


 そう、死ぬわけにはいかなかった。さっき、キュアーにも『死を選ばない』と言ったばかりだから。ここで、死んだら、キュアーはきっと後悔する。自分を責める。と後悔する。だから、死ぬわけにはいかない。死ぬのならせめて、にならないように死ぬ…!


「……!」


 俺は、腹をくくった。いや、括る腹はもうはじけ飛んだのだが、とにかく、括る。歯を食いしばり、覚悟を決める。


「どどどどうしよう…!黒川くんが死んじゃうよぉ…!」

「それを、なんとかするのがアンタの仕事でしょうが‼」


 キュアーが焦り、それに対して、真守が怒号どごうを上げる。心なしか、キャラが入れ替わっているような気がするな。動揺どうようしてくれているということか…。


「やるしかない…!」


 キュアーは、何かを決心すると、先程と同様に両手を合わせる。そして、そこからお湯を噴射する。


「このまま、内側から‼」


 ——やっぱり、熱いなあ…。


 俺は、さっきから自分のことなのに、他人事たにんごとのように考えている時があることに気づいた。俺も、動揺どうようしているのかもしれない。いや、いつもよりも深刻なダメージで、生命の危機におちいっているからかもしれない。そのせいで、せいに対する『執着しゅうちゃく』が薄くなっているのかもな。


 そんなことを考えていると、どんどんと傷が治っていく。ぐちゃぐちゃだった俺の腹は、見る見るうちに、再生していく。


「よし…!上手くいったぞ!土壇場どたんばでのけだったけど、よかった!」


 再生していく腹の肉が、上手く破片を体外へと押し出したようだ。


 ——なんとかなったか…。


 そう安堵したのもつかの間。二度目の爆発が起こる。


「何だ…⁉」


 黄瀬さんが、驚愕きょうがくの声を上げる。


 幸い、二人が、店内の一般人を全て避難させてくれていたおかげで、店以外に被害はないようだ。


 そう考えていると、三度目の爆発。四度、五度…、まだまだ続く。


「まずい…!全員、外へ出るぞ!」


 ——逃げなくては…!


 しかし、体が動かない。やはり、先程のダメージは深刻だったようだ。傷は治りこそしたが、ダメージまでは完全には消えていない。


「黒川くん!いつまで寝てんの⁉早くして!」


 キュアーが、俺を担いで店外へと連れ出す。


「みんな無事か?」

「なんとか…、黒川くんはちょっと動けないですけど」

「すみません…」

「気にするな。無事でよかった。それと——」


 黄瀬さんは、後ろへ振り返る。


の登場だ」


 その視線の先には、。その姿を、俺たちは見たことがある。ソイツの名前は——


「【ラジオット】…!」

「ハァイ♡楽しんでもらえたかな?」


 ——間違いない。アイツが【ラジオット】だ。

 

 ソイツは、へらへらと笑いながら、こちらを挑発ちょうはつしてくる。


「行くぞ!黒か…、いや、まもる‼二人でやるぞ」

「はい!」


 二人は、亜人に向かって立ち、携帯していた【チョーカー】を装着する。


「「獣化じゅうか」」


 二人の姿は、それぞれ狼、猫のような姿へと形を変える。


「D.M.S所属、【カトゥリス】。楽しくいこうぜ」

「同じく、【フーン】!頑張ります‼」


 そのまま、亜人へと駆けだそうとしたその時——


「何何⁉さっきから、すごい音してるんだけど何これ⁉モンスタークッキーが暴れてるとか⁉」


 すっかり避難が終わっていたと思っていた店内から、一つの影が出てくる。


 ——あれは…?


 その影の正体は、一人の亜人。


「あら?ボクちゃんのが出てきたよ?」

「……?それ、ボクに言ってんの?キミみたいな人は、知らないけど」

「いやいや、同じ『亜人』じゃないか~」

「あ、そうか。でも、キミの仲間じゃあないよ?」


 ラジオットともう一人の亜人はそんなやりとりを交わす。敵か味方かはわからない。少なくとも、本人は否定しているが。


 姿としては、【お菓子】といった感じだ。そういう要素の亜人なのだろうか?なんだか、どこかのマスコットキャラクターに居そうなくらいファンシーな奴だ。


「それよりも、さっきの音なに?やっぱり、モンスター……、ってあーーーー⁉」


 辺りを見回していたソイツは、突然大きな声を出す。


お店がーー‼ええっ⁉さっきの音ってこれ?何これ何これ⁉」


 なにやら、焦っているようだ。しかし、『ボクの』?どういうことだ?まさか、亜人が店を持っているのか?


 ラジオットが声を出す。


「ああそれ?ボクちゃんがやったよ?でも、キミのモノとは知らなかったんだ。ごめんね☆」


 それを聞いた、ファンシーなのは、動きを止める。


「なんだって?」


 ラジオットは、もう一度答える。


「ボクちゃんが、やったんだよ~~ん‼~⁇」


 ファンシーなのは、ラジオットのほうへと振り返る。そこには、先程までのおどけた様子はない。


「なんだと~⁉お前がやったのか⁉」

「何度も言ってるじゃない。そう……!だよ~~‼」

「ふざけんなよ、ゴルァ‼」


 先ほどまでと、打って変わって様子が変わったソイツには、もう先ほどまでの柔らかな雰囲気はみられない。それどころか、暴力的な雰囲気だ。


「テメェ…!よくも…!よくも…、この…!」


 そして、叫ぶ。


「この【スイーツ】様の店をこんなにしやがったな~⁉この、がぁ~‼」

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