第二十話 話題の名店

縁葉みどりばさん…?」


 どうやら、縁葉さんからの着信のようだ。僕は、応答する。


「はい、もしもし~」

『私だ。今、時間あるか?』

「ええ、用事ももうすぐ終わりそうですし」

『そうか。なら、その時間を少し私にくれないか?』

「…?」

『いや、何…。少し、班内での親睦を…とね。まあ、一緒にお茶でもどうかな』

「ああ、それならOKですよ」

『そうか、なら【スイーツのおみせ】という場所に来てくれ。ほかの二人も呼んである』

「りょーかーい」


 通話を切る。


「どうしたんだい?」

「いや…、なんかお茶でもどうかって」

「そうか~、楽しんでおいで」

「はーい!」


 ペガメントが、食い気味に声を出す。


「おっ!オレさまも一緒に行くぜ!」

「キミはダメだよーん⁇まだまだ、キミの『研究』がすんでないからねえ…‼」

「ヒッッッ⁉」

「あ、じゃあ僕はこれで」


 ペガメントが、助けを求めて僕を見る。


「ああ…!オレを置いてかないでえ‼」

「ところで…、キミは?」


 僕は、ラボから退出する。


「ギニャァァァァァァァ‼‼‼」


 なんか、聴こえたな。まあいいや。





~VSキュアーが終わったあたりのこと~


 ワタシは、縁葉みどりばさんに連れられて、今話題だというとあるカフェ…、というよりは、カフェスペースがあるスイーツ店に来ている。


 確かに、話題というだけあって、客足は多いみたい。今度、まことを誘って来てみようかな?


「おお。話題というだけあって、なかなかの盛り上がりだな」

「そうですね。これは、期待できますね」


 縁葉さんは、お堅いイメージがあるけど、意外とこういう場所やモノが好きだ。噂では、部屋にはぬいぐるみが、たくさんあるって話もある。なんか…、って感じだなあ。


 そりゃあ、縁葉さんは美人だし、誰もが憧れるくらいかっこいい人だけど…、なんだかなあ…。そういうのに、グッとくる人もいるのかなあ?『ギャップ萌え』ってやつ…?


 今だって、ました顔をしてるけど、その瞳はメニューとだ。なんだかキラキラしてるようにも見える。むむ…。


「む…?【マカダミアナックル】…、【デモンズチョコレート】…?変わった名前だな」

「確かに。他には【エンジェルパーティー】とか、持ち帰り限定の【スタンプドロップ】とか…。あ、ドロップってあめのことか~。いろいろありますけど、どれも変わったネーミングが多いですね」

俄然がぜん、興味が湧いてきたな。」


 縁葉さんは、そばに居る店員を呼ぶ。


「おうかがいします」

「すまない。この…、【マカダミアナックル】を頼む。青山あおやま、そっちはどうする?」

「あ…、ワタシもそれで」

「では、これを二つ」

「かしこまりました」


 店員は、注文を受けると奥へと入っていく。


「ふむ。楽しみだな」


 縁葉さんも、黄瀬さんと同様、特にあの一件以来変わったという様子はない。何を考えているかはわからないけれど、まあいいかな。それに、今までだって上手くやってきたんだから、思ってることくらいでは揺らぐようなものじゃあないか…。実際、普段から口に出さなかっただけで、考えていたのは同じなんだから。


 ま、そこまで気にすることじゃあないってことだよね。リラックス、リラックス。


 そんなことを考えていると、注文していたものが運ばれてくる。


「お待たせしました。【マカダミアナックル】でございます。ごゆっくりどうぞ」


 ——これは…。


「まるで、という名に恥じない、のある外見をしているな」


 マカダミアナックルの正体は、ロールケーキだ。その周りを、これでもかと


「しかし…、こういうものは。いただこうか」


 縁葉さんは、フォークを手に取り、その先をケーキに落とす。そして、そのまま口へと運び、咀嚼そしゃくする。その最中、何度かうんうんと唸る。ほどなくして、嚥下えんげする。


「ふむ。見た目に驚きはしたが、味は格別かくべつだな。これは…、塩キャラメルか?非常に良い働きをしている」


 ワタシも、一口食べてみる。


「わっ、おいしい」


 確かに、格別だ。ナッツの触感が良いアクセントになってる。そして、さっき縁葉さんが言ってた通り、周りにナッツと一緒にコーティングされているのは塩キャラメルみたい。中のクリームの甘さと、塩キャラメルの程よい塩気…。この世に、これほどの組み合わせがあるのかな…?いや、無いんじゃあないかとも思えるくらいに、完璧な組み合わせだ。


「ふむ。話題になるのもうなずけるな」

「確かに!こんなにおいしいなら、みんな教えたくなりますよ!」

「ふふ、そうだな。そうだ、常好つねよしたちも呼ぶか。どうせ、暇してるだろう」


 そう言い、縁葉さんはデバイスを取り出して、黄瀬きのせさんに電話する。


『もしもし?』

「常好?今、暇か?良ければ、これから43班のみんなでお茶でもどうかと思ってな」

『おお~、ちょうど暇してたんだよ~。機動きどうくんに、

「そうか。なら、今から【スイーツのおみせ】という場所に来てくれ」

随分ずいぶんと、直球な名前なのね~。了解』


 黄瀬さんとの通話が終わると、次にまことへと電話する。


黒川くろかわです。どうしました?』

「ああ。この後、少しお茶でもと思ってね。今は、暇か?」

『…、ええ。少し立て込みましたが、今はフリーです』

「そうか。なら、【スイーツのおみせ】という場所に、今から来てくれ」

『わかりました。……、あの。もう一人、呼んでもいいでしょうか?』

「それは、構わないが、いったい誰だ?」

『いえその…、。まだ、二度…、いや、三度も治療してもらった礼をしていないと思ったので』

「亜人嫌いのお前が、どういう風の吹き回しだ?まあいい、待ってるぞ」

『ありがとうございます。失礼します』


 信との通話を終えると、次に、赤根君へと電話する。





「お待たせしました」

「あ、どうも~」


 俺は、あの後キュアーを誘って、縁葉さんの言う【スイーツのおみせ】という場所に来た。甘いものは、嫌いではない。


「黒川さん、遅いですよ~?」

「…、すまん」

「まあまあ、執くん。いいじゃない」

「ま、別にいいですけど~」


 黄瀬さんと赤根は、先に到着していたようだ。


 縁葉さんが、声を出す。


「とりあえず、座れ」

「あの~?ボク、本当にお呼ばれしてもよろしかったのでしょうか~?」

「ん、良いんだ。それに、これからも

「あ~…、確かに…」


 ——これからは、あまり世話にならないようにしないとな…。


 俺とキュアーは、椅子を引き、そこへ座る。


「あ、黒川くん。何か落としたんじゃない?何かが、テーブルの下で光ったのが見えたよ」

「む?そうか?助かる」


 どうやら、気づかないうちに何か落としたらしい。気を付けないとな。


 俺は、テーブルクロスを持ち上げ、下をのぞき込む。確かに、何かが落ちている。何を落としてしまったのだろうか?


 ——あれは…。


 


 ——⁉⁉⁉


「みんな離れろ‼」

「「「!」」」


 俺がそう叫ぶと、全員一斉にテーブルから離れる。流石は、D.M.Sの隊員。行動が速いな…。…って、今はそんなことを考えている場合じゃあない‼


「どうした黒川⁉」


 黄瀬さんが、質問するが、それよりも気になることがあり、それどころではない。


 そのカセットテープはカチカチと音が鳴っているのだ。何か…、嫌な予感がする。そして、カチカチ鳴っていたかと思うと——


 カチリ。


 ——これは…、やるしかない……‼


 俺は、テープの上へと飛び込み、それを腹で抱える。その瞬間——


「⁉」


 爆発した。

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