第八話 戦う理由

 ——この少年が、うちのメンバー?


「それにしても、二人とも2メートルはありますよ!」

「そういう君は、チョーカーを使うには

「そうですか?僕、175センチくらいはあるので、まあまあ大きいとは思うんですけど」

「俺たち基準で考えたら、小さいんだよ」


 【赤根あかね まもる】と名乗った少年と黄瀬きのせさんが、そんなやり取りをしている。確かに小さい。いや、普通に考えれば大きなほうなのだが、小さい。


「もしかして…、【最適化】を受けていないのか?」

「……?なんです?それ」

「通りでねえ」


 なるほど、受けていないのか。それなら納得できる。


——いや待てよ?


「それならどうしてチョーカーを使えるんだ?」

「どういうことです?」


 俺は、少し説明をすることにした。


「まず、俺や黄瀬さんのようなチョーカーを使うことを許された隊員がいるわけだ。そして、チョーカーを使うにあたって、それに耐えうる体を作る必要がある。それが【最適化】だ。なにせ、人間が使うには大きな力らしいからな」


 俺は説明を続ける。


「だから、俺たちみたいに最適化を受けて、体を作る。体が大きいのはその影響だ」

「でも、僕は使えましたよ?」

「そこが問題だ。実験段階では、最適化を受けていない者が使用することもあったが、結果は失敗。被験者は死亡している。」

「ひゃー。怖いですね」


 こいつ…、どこかおかしいのか?危機感というものが足りないんじゃあないか?


「君も…赤根あかね…君だったか?」

「あ、呼び捨てで構いませんよ」

「そうか、なら赤根。さっきも言った通り、普通の人間ではチョーカーを使用することはできないんだ。それどころか、

「うーん、そこがいまいちピンとこないんですよねえ。僕、生きてますし」


 そう、そこが謎なんだ。どうして、彼は生きているんだ?


 黄瀬さんが喋る。


「【特異体質】ってやつじゃないか?前に、そんなことを聞いたことがある。もっとも、例は少ないらしいが」

「なんだか、かっこいいですね。それ」

「そうだね。D.M.Sにとっても、今後の戦力アップにつながる発見があるかもしれない。君の存在は、組織にとってもプラスになるはずだ」

「あ~、やっぱり体とかあちこち調べられるんですかね?」

「まあね。それに、こういうことなら機動きどうくんの担当だろう。覚悟しときなよ」

「うわあ…、あの人かあ…」


 まあ、そのうちわかるかもしれないな。今は、戦力は多いほうがいい。貴重な存在が近くに居るなら、それはそれで役に立ちそうだ。


「ところで…」


 赤根が切り出す。


「任務って、いつ始まるんですか?」


 縁葉みどりばさんが答える。


「しばらくないぞ」

「ええ~⁉なんでですか⁉」

「当然だ」


 縁葉さんは、やれやれといった感じで話し出す。


「うちの班のメンバーが二人も動けないんだ。それに、現状新人しか戦えるものは居ない。私と青山あおやまは、戦闘職じゃないからな。班としての機能が損なわれている以上は、活動停止だ」

「そんなあ~」


 赤根は、落胆の声を漏らす。


「じゃあ、二人の怪我が治れば始まるんですか?」

「それも例外を除いて無理だ。しばらくは、様子見になるぞ」

「そうかぁ…」


 赤根はますます暗い感じになる。俺も、任務には積極的に出たいが、ここまでではないな。もっとも、亜人殲滅に関してはその限りではないが。


「ま、いいか!出来なくなったわけじゃあないし!43班に馴染むための期間と考えれば楽しそうですからね!」

「おお!その意気だよまもるくん!どんどん仲良くなろうなー!」

常好つねよし…。お前はもう少し、後輩に厳しくしたらどうだ?」

「えー…、でも若者と触れ合う機会ってなかなか無いだろ?お互いもう30越えてんだからさ」

「ええ⁉縁葉さんって30越えてるんですか⁉全然そんな風に見えない…」

「お前ら、あまり言ってると怒るぞ」

「おお怖い。執くんはこうならないようにな~」

「はい!」

「お前らなあ…!」


 前から黄瀬さんはこんな感じだったが、さらに、にぎやかになりそうな予感がする。なんだか、気が抜けてしまう。


 真守まもりが少し恥ずかしそうに声を出す。


「ワ、ワタシもみんなと仲良くなりたい…です…」

「青山…、お前まで…」

「それに、まことも…、もっと馴染んだほうがいいと思うし…」

「そうだぞ黒川くろかわ~。お前は少し硬すぎるぞ」

「ふむ、私もそれは少し思っていたところだ」


 みんながそんなことを言う。確かに、少し気を張りすぎていたのかもしれない。


「はぁ…、わかりましたよ。もう少し柔らかくなるように頑張ります」

「じゃあ、一つ聞いてもいいですか!」

「なんだ?」

「お二人の身長ってどのくらいなんですか?」


 赤根の質問に、黄瀬さんが答える。


「そうだな…、俺が大体2.2メートルで、黒川が2.1メートルってところだな」

本当ほんとに大きいですね!」

「まあな、もっとデカい奴らもいるぞ」

「マジですか⁉」


 赤根はまた、質問をする


「じゃあ、柔楽やわらさんも変身したりするんですかね?」

「お、隊長と会ったのか?」

「はい、途中まで送ってもらいました」

「へえ…、じゃあ聞いたか?」

「アレ…?って何ですか?」


 黄瀬さんは楽しそうに答える。


「ほら、D.M.Sに入った理由だよ」

「ああ!聞きましたよそれ!」

「ああ~、やっぱりなあ。あの人、新人にはよく言ってんだよ」

「定番の掴みってやつですね」

「いい人だろ?あの人。顔は怖いけど」

「はい!とっても優しい人です!顔は怖いですけど」


 共通の話題で、二人は盛り上がっているようだ。


 ——俺も、少し前に同じことを言われたな。


 やはり、彼にとっては定番の話なのだろう。自分がD.M.Sに入った理由、そして、。あれは、ある種の品定めなのかもしれないな。


 ——俺の戦う理由か…。


 俺の理由…、それはもちろん、亜人に復讐すること。それに間違いはない。だから、力を求めてに入った。チョーカーという力も手に入れて、目標まであと数歩ってところだろうな。でも——


「ははは、執くんは元気だねえ」

「それだけが取り柄ですから」

「そんなことはないんじゃないか?私だって、そのエネルギーには感服する」

「ワタシにも、そんな元気があればいいなあ…、なんて…、えへへ」


 このにぎやかな空間に居ると、そんなことを忘れてしまいそうになる。そして、それがなのかもしれないとも思う。俺の、復讐心なんて、そんなものなのかもしれないな。


 いや、たとえそうだとしても、この復讐心はそう簡単には消えない。どんなに小さくなっても、ずっと俺の心の奥深くでくすぶり続けるのだろう。


 それでも、今はこのにぎやかさに浸っていよう。ここは、最後に残っただから。もう二度と、失わないように。


 俺の戦う理由は、二つあるのかもしれない。

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