第七話 役立たず

 俺の名前は【黒川くろかわ まこと】。。勉強は嫌いではなく、むしろ好きなほうで、趣味は読書だ。運動は得意ではないが、ここ一年は頑張っている。世間一般では「真面目」と形容されてしまう俺だが、真面目な奴は、今頃傷だらけでベッドに横たわっているということはないだろう。毎日が後悔の連続だ。だが、それは改善すればいいだけの話だ。

 ただ一つだけ、俺がずっと後悔していることを挙げるとするならば、それはきっと「目の前で両親が」ことだと思う。


「また、やってしまった」


 いつも、気づけばこんなことが口から漏れる。これで何回目だ?いや、考えるのはよそう。


 俺の両親は、俺が大学に入学したあたりで、殺された。亜人の手によって。母親は、頭を割かれて死に、父親は、バラバラにされた後に組みなおされた。父親の最期の姿に関しては、もはや思い出したくもない。


 俺は、許さない。


 俺から大切なものを奪った亜人を絶対に許さない。


 もちろん、当時は泣きたくなった。しかし、泣いてなどいられない。この復讐を遂げるまでは、絶対に泣かないと決めたんだ。


 もう二度と、元の自分に戻ることはないのだろう。いつか復讐が終わったとしても、一生。


 ——ああ、今日もいつもと変わらず憎い。

 あいつが、両親を殺したあいつが憎い。そして、あいつを含めた


「大丈夫か?」


 この声は、隣のベッドの黄瀬きのせさんか。


「ええ、おかげさまで」

「そうか、生きているならいい。それがすべてだ」


 黄瀬さんは、そう言いながら笑う。でも、そんな彼を見るたびに、胸が締め付けられるようだ。


「すみません」

「ん?」

「俺のせいで…、黄瀬さんにまで怪我をさせてしまって…」

「……、ああ、気にしないでくれ。見た目ほど大きなダメージはない」

「それでも…!それでも、俺のせいで…、また誰かが傷ついた…!」


 そうだ。俺のせいだ。俺が弱いせいで、みんなに迷惑がかかる。でも、今やめるわけにはいかない。やっと、あいつを倒せるかもしれない力を手に入れたんだ。


「だから気にしすぎなんだって。禿げるぞ?」

「そうでしょうか…」


 気にしすぎ…か。まあ、いつまでも落ち込んではいられないか。今は、その言葉に甘えていよう。


 病室の扉が開く。


まこと~?ちゃんとおとなしくしてるか~?」


 そんな声とともに入ってきたのは、小柄な女の子。【青山あおやま 真守まもり】だ。


「今は、おとなしくしてるよ」

本当ほんとかな~?」


 真守とは、俺のほうが一つ上ではあるが、幼馴染というやつだ。彼女にはもちろん、その両親にも良くしてもらっている。


「飛び出して、また亜人のところにでも行くと思ったけど…。まあ、信にはそんなことできないか!」

「安静にしていろって言われたからな」

「相変わらず真面目だね~。そのうち、禿げちゃうよ?」

「……。さっき、黄瀬さんにもそう言われたんだが、そんなに禿げそうか…?」


 俺は少し、未来の自分が心配になってきたが、そんな俺を見てか、真守は笑い出す。


「あははは、そういうところが真面目なんだよね~」


 真守は、いつもこんな調子だ。


 そんなやり取りをしていると、また誰かが病室に入ってきた。


「なんだ、思ったより元気そうじゃないか」


 そう言って入ってきたのは、一人の女性。


「おお~、美音みのんじゃないか」

常好つねよし、お前も相変わらずだな」

「ははは、おかげさまで」


 この人は、【縁葉みどりば 美音みのん】さん。俺や真守、黄瀬さんと同じ、43班の人間だ。


「今日も、相変わらずかっこいいね~」

「そういうお前こそ、またヘマをしただろ」

「あっ?バレちゃった?」

「バレたも何も、現場にいたからな」


 縁葉みどりばさんは、だ。俺が言うのもなんだが、きれいな人だと思う。D.M.S内でもファンが多く、「強い女性」というタイトルでランキングが作られるなら、真っ先に名前が挙がる程だろう。


「でも、お前逃げたろ?」

「私の任務は、。何もおかしくはない。それに、お前と黒川くろかわの二人がやられた以上は、一人でも多く情報を持って帰ったほうがいいからな」

「冗談だってのに~」

「…、まったく。あまりからかうんじゃない」


 基本的には、この四人で任務中は行動している。俺は、いつも足手まといだとは思うが。本来なら、縁葉さんがチョーカーを支給されるべきなんじゃないのか?


「青山は…、大丈夫そうだな」

「はい、黄瀬さんがかばってくれたので。それに、男の子が助けてくれました」

「男の…、ああ、聞いているよ。チョーカーを使用できる謎の少年のことだろう?」

「そうです。でも、勇敢ですよね」

「まあな、そうそうできるものではない。それと、彼なんだが——」


 縁葉さんが何かを言おうとしたとき、また誰かが、部屋に入ってきた。


「あの~…?」


 入ってきたのは、一人の少年。真守の二つ下あたりだろうか?D.M.Sの制服を着ているが、何の用だろうか。


「黒川さんと黄瀬さんの病室で間違いないですよね…?」

「そうだよ」


 そう黄瀬さんが返事をすると、少年はなんだかうれしそうにこう言った。


「よかった!間違えたらどうしようかと思ってましたよ~!でも、皆さん優しそうな方でよかった」


 そう言いながら、少年は俺のほうへ近づいてくると、一つのアタッシュケースを取り出した。


「これ、機動きどうさんからです」

「ああ…、ありがとう…?」


 ケースの中身は、チョーカー。俺のチョーカーだ。


「どうして君がこれを?」

「それについては、私から話そう」


 縁葉さんは、さっき言おうとしたことの続きを言い始める。


「彼がチョーカーを使える少年。そして今日から、43——」


 間髪入れず、少年が続ける。


「今日から、43班に所属になりました!【赤根あかね まもる】です!よろしくお願いします!」

「……というわけだ」


 俺はすぐに状況を飲み込めなかったが、一つだけわかったことがある。


 後輩が出来た。

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