第七話 役立たず
俺の名前は【
ただ一つだけ、俺がずっと後悔していることを挙げるとするならば、それはきっと「目の前で両親が殺された」ことだと思う。
「また、やってしまった」
いつも、気づけばこんなことが口から漏れる。これで何回目だ?いや、考えるのはよそう。
俺の両親は、俺が大学に入学したあたりで、殺された。亜人の手によって。母親は、頭を割かれて死に、父親は、バラバラにされた後に組みなおされた。父親の最期の姿に関しては、もはや思い出したくもない。
俺は、許さない。
俺から大切なものを奪った亜人を絶対に許さない。
もちろん、当時は泣きたくなった。しかし、泣いてなどいられない。この復讐を遂げるまでは、絶対に泣かないと決めたんだ。
もう二度と、元の自分に戻ることはないのだろう。いつか復讐が終わったとしても、一生。
——ああ、今日もいつもと変わらず憎い。
あいつが、両親を殺したあいつが憎い。そして、あいつを含めた亜人全てが憎い。
「大丈夫か?」
この声は、隣のベッドの
「ええ、おかげさまで」
「そうか、生きているならいい。それがすべてだ」
黄瀬さんは、そう言いながら笑う。でも、そんな彼を見るたびに、胸が締め付けられるようだ。
「すみません」
「ん?」
「俺のせいで…、黄瀬さんにまで怪我をさせてしまって…」
「……、ああ、気にしないでくれ。見た目ほど大きなダメージはない」
「それでも…!それでも、俺のせいで…、また誰かが傷ついた…!」
そうだ。俺のせいだ。俺が弱いせいで、みんなに迷惑がかかる。でも、今やめるわけにはいかない。やっと、あいつを倒せるかもしれない力を手に入れたんだ。
「だから気にしすぎなんだって。禿げるぞ?」
「そうでしょうか…」
気にしすぎ…か。まあ、いつまでも落ち込んではいられないか。今は、その言葉に甘えていよう。
病室の扉が開く。
「
そんな声とともに入ってきたのは、小柄な女の子。【
「今は、おとなしくしてるよ」
「
真守とは、俺のほうが一つ上ではあるが、幼馴染というやつだ。彼女にはもちろん、その両親にも良くしてもらっている。
「飛び出して、また亜人のところにでも行くと思ったけど…。まあ、信にはそんなことできないか!」
「安静にしていろって言われたからな」
「相変わらず真面目だね~。そのうち、禿げちゃうよ?」
「……。さっき、黄瀬さんにもそう言われたんだが、そんなに禿げそうか…?」
俺は少し、未来の自分が心配になってきたが、そんな俺を見てか、真守は笑い出す。
「あははは、そういうところが真面目なんだよね~」
真守は、いつもこんな調子だ。
そんなやり取りをしていると、また誰かが病室に入ってきた。
「なんだ、思ったより元気そうじゃないか」
そう言って入ってきたのは、一人の女性。
「おお~、
「
「ははは、おかげさまで」
この人は、【
「今日も、相変わらずかっこいいね~」
「そういうお前こそ、またヘマをしただろ」
「あっ?バレちゃった?」
「バレたも何も、現場にいたからな」
「でも、お前逃げたろ?」
「私の任務は、逃げることだ。何もおかしくはない。それに、お前と
「冗談だってのに~」
「…、まったく。あまりからかうんじゃない」
基本的には、この四人で任務中は行動している。俺は、いつも足手まといだとは思うが。本来なら、縁葉さんがチョーカーを支給されるべきなんじゃないのか?
「青山は…、大丈夫そうだな」
「はい、黄瀬さんが
「男の…、ああ、聞いているよ。チョーカーを使用できる謎の少年のことだろう?」
「そうです。でも、勇敢ですよね」
「まあな、そうそうできるものではない。それと、彼なんだが——」
縁葉さんが何かを言おうとしたとき、また誰かが、部屋に入ってきた。
「あの~…?」
入ってきたのは、一人の少年。真守の二つ下あたりだろうか?D.M.Sの制服を着ているが、何の用だろうか。
「黒川さんと黄瀬さんの病室で間違いないですよね…?」
「そうだよ」
そう黄瀬さんが返事をすると、少年はなんだかうれしそうにこう言った。
「よかった!間違えたらどうしようかと思ってましたよ~!でも、皆さん優しそうな方でよかった」
そう言いながら、少年は俺のほうへ近づいてくると、一つのアタッシュケースを取り出した。
「これ、
「ああ…、ありがとう…?」
ケースの中身は、チョーカー。俺のチョーカーだ。
「どうして君がこれを?」
「それについては、私から話そう」
縁葉さんは、さっき言おうとしたことの続きを言い始める。
「彼がチョーカーを使える少年。そして今日から、43班に所属することになった——」
間髪入れず、少年が続ける。
「今日から、43班に所属になりました!【
「……というわけだ」
俺はすぐに状況を飲み込めなかったが、一つだけわかったことがある。
後輩が出来た。
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