ロト777で777777777!⑦
「次のお客様、ご注文をどうぞー」
勝利の注文の番となり、適当に二人分の飲み物を選んだ。 新鮮な果物をいくつか合わせてミキサーにかけるタイプの店で、普段なら口の中に唾液が溢れてもおかしくない。
だが店員と会話している間もずっと勝利はどこか上の空だった。 思えば今まで宝くじを買って一番楽しかった時間は、くじの当たりを見るまでの時間だった。
くじが当たってからの喜びよりも、その待ち時間の方に勝利は楽しみを感じていたのだ。
―――転がり込んできた幸せはつまらない。
―――そう思い始めた原因はおそらく・・・。
―――どんなものでも手に入るようになってから、か?
「ありがとうございましたー!」
陽気な店員から二人分の飲み物を受け取り絵梨花のもとへと戻った。
「はい、これ。 絵梨花の分」
「ありがとう。 勝利くんどうしたの?」
「何が?」
「何か表情が暗いなって・・・。 飲み物を買ってくる間に何かあった?」
「いや別に? 何も」
悟られないように笑顔を作って椅子に座る。
「そう? そう言えば見てよ、勝利くん!」
「ん?」
絵梨花は嬉しそうに一枚のスクラッチを見せてきた。
「一枚のスクラッチに7が5つも入っていたの!!」
「へ、へぇ! 凄いな!!」
―――7が5つでも今までは当たったことがなかった。
―――金額としては20000円くらいで普段なら大喜びしていたはずだ。
―――なのに何だ?
―――この感覚。
―――今はその喜びという感情が薄れている。
―――・・・いや、既になくなっている?
―――どうして?
―――何か俺が金持ちになってから感覚がマヒしていないか・・・?
怖くなり試しにスクラッチを急いで削ってみた。
―――嘘、だろ・・・。
くじ自体は“7”が一つもない完全なハズレだったが、ワクワク感はなく作業にしか思えなかった。
ロト777にはハズレ券10枚で300円と交換という最低保証が付いているため、ハズレくじも大切にしていたはずだ。 なのに今はハズレたくじはゴミに思えてしまう。 チラリと視界に入る絵梨花を見た。
―――・・・そう、これだ。
―――これが本来の反応だ。
絵梨花は7が一つ出る度に目をキラキラとさせ、期待しながらスクラッチを削っている。 そして外れたら表情を暗くする。 その繰り返しだ。
―――この表情の切り替わりが今の俺にはない。
―――宝くじが当たった時、最初は幸せで楽しい日々を送れると思っていた。
―――確かに美味いものを食えたし、絵梨花も戻ってきた。
―――だけど今の俺は本当に幸せなのか?
そう思っているとビルにあるテレビから気になる内容が流れてきた。
『今日の正午。 ロト777の宝くじのスクラッチに関連する奇妙な事件が起きました』
―――ロト777だって?
馴染みのある言葉に反応して視線をテレビに向けてしまう。 絵梨花は今も楽しそうに削っているが、耳はニュースに傾けているようだ。
『当たり番号である7が、当たったはずの当たり券から徐々に消えていったというものです』
―――・・・は?
―――何だよそれ。
『この奇妙な現象が9件連絡が入っているようです。 もし同様の症状を感じられた方はこちらに――――』
―――・・・今日の正午だって?
―――9件の連絡?
勝利は思い出した。
―――俺は一等を当てた時、周りの様子がどこかおかしかったな。
―――そう言えば当たり券から数字が消えたとか言っていたような気がする・・・。
―――そんなことが有り得るのか?
―――確かに周りの運を吸っているような感覚ではあったけど、実際に消えているとなると摩訶不思議現象だ。
―――・・・でも確かに俺が宝くじ売り場にいた時刻と、このニュースで言っている時刻がほぼ一致している。
視線をテレビへと戻すとニュースは既に違う報道になっていた。
―――・・・何かしたわけじゃないけど、もしかして俺のせいっていうことなのか?
―――そんな俺は魔法使いじゃないんだし、そんなことできるわけがないだろ!!
―――それに他人から7を奪うとか不正だ。
―――いやそもそも、7を奪うって何だ!?
―――何なんだよ、この奇妙な一致・・・。
信じられないがそうとしか考えられなかった。
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